第42話 新しい力の確認(2)

 ダンジョンの第1階層へと続く階段を降りた先は薄暗く、相変わらずモンスターがいない。それを確認した後、ここで1つめの確認を行うことを決める。

 確認するのは“壁走り”のスキルだ。

 “壁走り”でどの程度のことができるかがわからないので、一度モンスターがいないところで確認する必要がある。モンスター相手にいきなり使って目の前でこけるなんてことはさすがに勘弁したい。


「よしっ」


 少し歩いた先であらためてモンスターがいないことを確認すると、気合の言葉とともに壁に向かって走り出す。

 目の前にある壁は洞窟などにあるような岩肌だ。ある程度の凹凸はあるが、駆け昇るために足を掛けることができるようなきちんとした足場はない。

 いったいどのようにして壁を走ることになるのか、好奇心と不安を抱えながら壁に足を掛ける。


「うわっ」


 壁を3歩進んだところでバランスを崩して地面に落ちる。幸い、ステータスにより向上した身体能力によって転倒することなく地面に足を付けることができた。


「これは練習が必要か……」


 誰に向けるでもなくつぶやく。

 1歩目は特に違和感もなく足を進めることができた。だが、2歩目からは感覚が異なっていた。

 足が壁に吸い付くのである。下半身だけが壁からの重力に引っ張られるような感覚だろうか。それでいて上半身に関しては通常通り地面からの重力に引っ張られるという何とも妙な感覚だった。

 何にしてもこのスキルを活かすためにはこの感覚に慣れるしかないだろう。練習あるのみだ。そう決意し、壁を走りながらダンジョンを先に進み始めた。



 30分ほど経過した頃、正規ルートから外れた手前の大部屋の前に到着した。

 “壁走り”の確認をしながら進んできたので、さすがにいつもよりも時間がかかっている。だが、そのおかげで“壁走り”の特性についてはある程度つかむことができた。


 最初に感じたとおり、壁を走っている間は壁からの重力によって足が壁にひきつけられるようだ。だが、走っていても進んだ距離か時間経過によって徐々に壁からの重力が小さくなるらしい。なので、足を動かし続けていれば壁を延々と走ることができるというようなことにはならなかった。

 とりあえず、現段階で壁を走ることができるのは5歩というところだ。ただ走るだけであれば10歩ほど進むことができたが、メイスを構えてモンスターを相手にしながらであればこれくらいが限界だろう。


 正直、この程度であればステータスが高ければスキルなしでもできるのではないかという考えが頭をよぎったが、深く考えないこととする。きっとスキルを取得して間もないからうまく使えないだけなのだ。決してこのスキルが使えないというわけではない。改めて考えると俺に壁や天井を駆けるなんていうアクロバットなことができるわけがないと考えたのも気のせいだ。


 ……。

 思わずマイナス方向の考えに傾いてしまったが、気を取り直して他の確認を進めよう。新しく得たものは“壁走り”だけではないのだ。いや、決して“壁走り”を諦めたわけではないが。

 誰に向けたものかもわからない言い訳をしつつ、扉を開ける。部屋の中にはいつもと変わらず、赤、青、緑のスライムたちが飛び跳ねていた。


「さて、どちらから確認するか」


 “投擲”スキル、“メイス”スキル、そして魔鉄のメイスの使い勝手を確認するのだが、“メイス”スキルと魔鉄のメイスの確認は同じことだ。

 なので“投擲”か“メイス”かということになるのだが、考えている間に近くにいたグリーンスライムに気付かれてしまった。ここはまず、迎撃ついでにメイスの確認をすることにしよう。


 向かってくるグリーンスライムは3匹。真ん中の1匹を先頭に残りの2匹がやや遅れてついてきている。

 メイスを両手で構え、グリーンスライムを待ち構える。

 先頭のグリーンスライムは俺の目前にまで迫るとフェイントや連携もなく、俺に向かってまっすぐに飛びかかって来た。

 それに合わせ、慌てることなく構えたメイスを振り抜く。


 パンッ。


 目の前のグリーンスライムが音を立てて弾けた。


「は?」


 意外な光景に思わず間の抜けた声を出してしまう。だが、遅れて迫って来た残りの2匹が視界に入ると慌てて迎撃に入った。


 とりあえず、グリーンスライムはメイスの確認に向いていないということが分かった。残った2匹については弾け飛ぶようなことはなかったが、どちらも1撃で片付いてしまったのだ。

 まあ、金属バットの頃でも2、3発で片付いていたのだから当然といえば当然かもしれない。メイスの確認は奥の方にいるブルースライムとレッドスライムに改めてお願いするとしよう。

 だが、そのためには手前の方にいるグリーンスライムが邪魔だ。メイスを使ってさっさと片付けてもいいのだが、ここは“投擲”スキルの確認に付き合ってもらおう。


 そう考え、腰に巻いたウエストポーチからここに来るまでに拾っておいた小石を取り出す。ウエストポーチは今回から着けはじめたものだ。投擲のために用意したものを入れている。


 まずは左手にいる2匹だ。幸い、先ほどの戦闘でも特に気付かれた様子はない。

 狙いをつけて1投目を放つ。

 狙い通りグリーンスライムの中心に直撃した。

 が、どうやら小石では1撃で仕留めることはできないらしい。こちらに気付いたグリーンスライムたちが向かってくる。


 2つ目の小石を取り出してすぐさま投げつける。

 2つ目の小石も問題なく命中し、グリーンスライムに対してダメージを与えているようだが、一瞬動きを止めるだけでそのまま迫ってきている。

 3投目、4投目と続けて投げる。

 4投目が直撃したところでグリーンスライムは動きを止め、光となって消えた。どうやら倒したようだ。

 だが、もう1匹のグリーンスライムが目の前まで迫っている。

 後ろに跳び下がって距離をとるが、この距離で投擲は微妙だろう。あきらめてメイスで殴りつける。こちらは1撃で仕留めることができた。


 軽く周囲を見回してスライムが迫って来ていないことを確認し、右手にいるグリーンスライム3匹に対しても同じように投擲の効果を確認する。

 こちらも先ほどと同様に小石4発でグリーンスライム1匹を倒すことができた。だが、距離を詰められた残りの2匹についてはメイスで倒している。わかってはいたが投擲だけで倒しきるのは無理そうだ。やはり投擲は牽制に使う程度になるだろう。



 さて、次はどうするか。

 部屋に入ってすぐのところでスキルの確認を行っていたので、奥の方にいるレッドスライムたちは今のところ反応していない。それなりに音は出ていたはずなので、気づいているのかもしれないがこちらに対して攻撃を仕掛けてくる気配はない。


 残ったスライムたちは大きく分けて2か所に分かれている。右奥にレッドスライム2匹を含めた10匹の集団。左奥にブルースライム3匹とグリーンスライム2匹の計5匹の集団だ。

 まあ、普通に考えれば数の少ない左側から攻めるんだが、間違いなく右にいるレッドスライムたちにも気づかれるだろう。そうなると結局はいつも通りの乱戦だ。

 ただ、今日の俺には“投擲”スキルがあり、魔鉄のメイスに“メイス”スキルもある。最終的にいつものような乱戦になるとしても、それまでに新しく得たスキルがどれほどの効果を発揮するかを確認させてもらおう。

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