第41話 新しい力の確認(1)

 ダンジョン管理機構のアイテムショップを後にし、空腹を覚えて時計を確認する。見るとすでにお昼時だ。

 せっかくだし昼は外で食べて帰るかと、そう考えて車に戻る前に近くの定食屋に足を向ける。


 店に入ると店の中は近くに勤めているのであろうスーツ姿の人たちでほぼ満席だった。わずかに空いていたカウンターの席に案内され、日替わり定食を注文する。


 定食が来るまでの待ち時間の間、なんとなしに店内を観察する。

 テーブルに座り部下と思しき男性と話している男性、同じようにテーブルで給料が安いと文句を言っている女性たち、カウンターで並んで愚痴をこぼしている男性2人組など、店内には俺が自由を得た代わりに失ったかつての日常風景があった。


 それを見て今日が平日であったことを思いだす。単純に探索者の数が減ったからだと思っていたが、アイテムショップに客がいなかったのはそのせいだったのかもしれない。曜日感覚すら忘れ始めているが、もう少し世間とのかかわりを持つべきなのだろうか?


 まあ、そんなことよりも今はダンジョンの攻略を考えるべきか。老後というにはまだ早いが、今後の生活をどうやって過ごすかはダンジョンが片付いてからゆっくりと考えよう。

 そんなことを考えながら店内の観察を終え、カウンター横の天井近くに設置されているテレビに視線を移す。画面ではお昼のワイドショーが流れ、ちょうどダンジョンに関する特集を行っていた。


 やって来た定食を受け取り、メインの焼き魚に箸を付けながらテレビを眺める。テレビのボリュームが抑えられているので音声はよく聞き取れないが、テロップの文字や映像で大体の内容は読み取れる。

 それによると、例の“闇のクリスマス事件”以降のダンジョン攻略の鈍化はかなりのものらしい。事件が起こる前、去年のダンジョン攻略は月に20~30件の成果があったらしいが、事件後の今年の攻略ペースは月に10件もないそうだ。

 これは活動している探索者が減った影響で、自衛隊内のダンジョン攻略を行っていた部隊までもがダンジョンの反乱を抑えるための維持管理に回る必要が出たためらしい。もちろん、ダンジョンが成長していることによってダンジョン攻略のために必要な時間が増えていることもあるのだろうが、攻略部隊の減少が一番の原因だろう。


 そもそもダンジョン攻略の自衛隊隊員に余裕があれば、家のダンジョン程度は調査に来た隊員たちによって1週間もかからずに攻略されていた気がする。そうされなかったということは、今はその程度の融通すら利かないほど余裕がないのだろう。まあ、単にお役所仕事で調査だけをやって後に回されただけの可能性もあるが。


 続けてテレビから流れる情報を眺めていると、この状況を憂慮して政府が対策を検討しているらしいと専門家らしきコメンテーターが説明していた。曰く、対策としては自衛隊の攻略部隊への人員の追加投入か、探索者への支援を追加することによる探索者の活動数を増やすことが考えられるそうだ。

 なお、政府としては探索者の活動数を増加させることによる人員確保を考えているらしい。具体的な内容はまだ詰めている段階なので不明とのことだが、近いうちに正式に発表されるだろうとのことだ。


 何というか、例の事件からまだ半年もたっていないというのに、腰の重い政府が対策を検討しているということに驚く。それほどまでにひどい状況なのだろうか?正直、自衛隊の攻略部隊や初期から活動している高レベルの探索者がいれば、時間は必要でもそこまで心配することではないと思っていたのだが。

 まあ、探索者として活動している俺からしてみれば、政府が探索者支援を行ってくれるというのであれば、ありがたくその恩恵を受けさせてもらうだけだ。

 そんなことを考えながら、次の話題に移っているテレビから目を離して店を後にした。






 次の日、早めに昼食を済ませ、ダンジョン管理機構のアイテムショップへと向かった。


「いらっしゃいませー」


 店に入ると昨日と同じように店員の声に迎えられる。店の中を見るが、今日も俺以外に客は来ていないらしい。そのまままっすぐにレジカウンターまで向かい、用件を告げる。


「昨日スキルスクロールを注文した森山ですが、届いているでしょうか?」


「はい、森山様ですね。確認いたしますので、少々お待ちください」


 そう言うとレジカウンターに立っていた女性店員は店の奥へと消えていった。

 しばらくすると先ほどの女性店員ではなく店長が箱を持って店の奥から出てきた。


「お待たせしました、森山様。取り寄せとなっていた“メイス”のスキルスクロールも問題なく届いています。こちらが商品となりますのでご確認ください」


 そう言うと手に持っていた箱からスキルスクロールとマジックストーンを取り出し、俺の前に並べる。

 確認してくれと言われても、俺は“鑑定”スキルなど持っていないのでスキルスクロールの区別などつかない。スキルスクロールが入れられた袋に貼られているラベルで名称を確認するくらいしかできない。なので素直に質問することにした。


「何かそれぞれのスキルを確認する方法があるのですか?」


「あっ、すいません。ここではラベルで確認してもらうしか方法はないです。スキルを取得する際にはスキル名がわかりますので、そのときに改めて間違いがないかをご確認ください」


 取得時にスキル名が確認できるのであれば問題ないか。そう結論を出し、支払いを済ませて店を出た。



 家に帰って装備を整えると、すぐにダンジョンへと向かった。

 といってもダンジョンへ挑戦するためではなく、スキルを覚えるためである。

 残念ながら、スキルスクロールからスキルを覚えるのもダンジョンエリア内でなければできない。不便に思いながらもダンジョンの入り口、ダンジョンクリスタルの前に立ってスキルスクロールを広げる。

 すると、頭の中にスキルを覚えるかどうかのメッセージが現れる。


《スキル:“メイス”を取得しますか?》

《“はい”“いいえ”》


 スキルを覚えるためにスキルスクロールを広げたのだ。スキル名にも間違いがない以上、選択肢は“はい”しかないだろう。

 そんなことを考えていると、頭の中に浮かんだメッセージで“はい”が選ばれ、手に持っていたスキルスクロールが光の粒となって消えた。

 スキルスクロールが消えたことに驚きながらも、スキルを覚えたかどうかを確認するためにステータスを表示する。すると、問題なく“メイス”のスキルが追加されていた。

 それを確認すると、続けて残り2つのスキルについても取得していった。



「さて、じゃあスキルの確認に向かいますか」


 予想していたよりも簡単にスキル取得を終え、時計を確認してからそうつぶやく。いつもよりも遅い時間だが、ダンジョン産武器と取得したスキルの確認だけであれば、そんなに時間はかからないだろう。そんなことを考えつつ、新調した魔鉄のメイスを片手にダンジョンの入り口へと足を向けた。

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