第43話 新しい力の確認(3)
ウエストポーチから小石を取り出し、確実に命中させられるように距離を詰める。まずは左側のスライムたちを狙い、釣り出したところを速攻で倒し、右側のレッドスライムたちへというのが理想だ。
レッドスライムたちからできるだけ距離をとるような位置取りを考えるが、やはり奥にいたスライムたちにも気づかれていたようだ。レッドスライムの周りにいたブルースライムとグリーンスライムがこちらを囲むように移動を始めた。
実際に囲まれてしまっては面倒なので、すぐさま行動に移すことにする。
右手に持った小石を振りかぶり、全力で左手にいたブルースライムへと投げつける。
同時に俺自身もスライムたちに向かって駆け出す。
投げた小石はブルースライムに命中したようだが、当たった瞬間に小石が砕けるのが見えた。正直、ダメージが入ったかどうかは微妙な気がする。ただまあ、一瞬ブルースライムの動きが止まったので全くの無意味ということはないはずだ。
スライムたちが目の前に迫る。
まずは先頭にいた、小石が命中したのとは別のブルースライムに殴りかかる。駆け抜けつつ、他のスライムたちが飛びかかってくるのをかわしながら殴ることができたが、ブルースライムはさすがに一撃とはいかないらしい。殴った勢いで弾き飛ばされ、転がっていくのが見える。
スライムたちから距離をとったところでターンし、再び強襲する。俺を待ち構え、正面から飛びかかってきたグリーンスライム2匹をまとめて薙ぎ払い、横から突っ込んできたブルースライムは無視してダメージを耐える。
グリーンスライムは片付いたかと思ったが、クリーンヒットしなかった1匹が残ってしまったようだ。
地味に損したような気分になるが、今は動きを止めないことを優先する。
再びターンし、先ほど殴ったブルースライムを狙いに行く。途中で先ほど薙ぎ払ったグリーンスライムを撥ねるように蹴り飛ばし、消滅したことを確認しながら殴りつける。
残念ながら2発でもブルースライムはダメらしい。残りの2匹の攻撃をかわしつつ距離をとり、残ったブルースライム3匹と向き合う。
周りにも目を向けるとレッドスライムのそばにいたスライムたちが囲むように展開しているのが見える。どうやらここからは部屋に残ったすべてのスライムを相手にすることになりそうだ。
乱れた息を整えるために間をとっていると、奥にいたレッドスライムの片方が詠唱を始める。それに合わせるように徐々に距離を詰めてきていたブルースライムが突っ込んできた。
ダメ元で用意していた小石をレッドスライムに向かって投げつけ、突っ込んでくるブルースライムに備える。タイミング的にレッドスライムからの火の矢が飛んでくるのは、ブルースライムが突っ込んできた後になるはずだ。レッドスライムを視界の隅に収めつつ、正面のブルースライムをメイスではじき、残りを腕と足を使ってガードしようとする。
「!?」
瞬間、意外な光景が見えた。レッドスライムの詠唱がキャンセルされたのだ。
どうやらダメ元で投げた小石が当たったらしいが、予想外の光景にワンテンポ遅れて突っ込んできた第2陣の攻撃の対処が遅れる。腹に受けたダメージに後退しつつ、近くに着地したブルースライムを殴りつける。
さらに右から飛びかかってきたブルースライムを弾き飛ばし、そのまま空いたスペースを飛び出して一気に距離をとる。
だが、スライムたちの追撃は止まらない。今度はレッドスライム側に残っていたグリーンスライムが飛びかかってきた。さらに、今度は奥で2匹のレッドスライムが詠唱を始めているのも見える。
詠唱がキャンセルされたときのMPがどうなるのかとか、かなりテキトーに投げた小石がなぜあたったのかとか、気になることがあるのに考える時間を与えてくれない。とりあえず、気になることはダンジョンを出てから考えるなり、調べるなりすることにして、今は目の前の状況を片付けるべきだ。
そう結論付け、目の前のスライムたちをかわし、いなし、なぐりかかって1匹ずつ片付けていった。
「あー、しんどい」
周囲にいたスライムたちを片付けてそうこぼし、残ったレッドスライムたちを見る。一応、付き従うようにグリーンスライムが1匹残っているが、1撃で倒せるので無視してもかまわないだろう。
というか、グリーンスライムを1匹だけ残すくらいなら乱戦時に突っ込ませた方が戦力の使い方としては効果的だと思うんだが、どうなんだろうか。スライムたちも連携をとったりしているのでそれなりの知能がありそうなんだが、個体差があるのか?……まあ、考えても仕方ないか。
とりあえず、レッドスライムたちからは乱戦中に計6発の火の矢が放たれている。なので、残りは2発プラスαのはずだ。詠唱キャンセルでもMPを消費するのであれば1発プラスαだが、まあ2発は残っていると考えるべきだろう。
ゆっくりとレッドスライムたちに向かって歩き始める。左手にメイスを持ち、右手には投擲用の小石だ。
俺は右利きだから右手で小石を持っているが、“投擲”スキルを持っていれば利き手ではない左手でも同じように投げられるんだろうか?ふと気になったので、メイスと小石を持つ手を入れ替える。
と同時にレッドスライムの片方とグリーンスライムが飛び出してきた。さらに、残ったレッドスライムも詠唱を開始している。
……さすがに敵の前で隙を見せるような真似はすべきではなかったな。すでに手遅れであることを理解しつつ反省する。ついでに先行して飛びかかってきたレッドスライムに対して小石を投げつける。
「!?」
本日2度目の驚きだ。慣れない左手で下からトスするように投げた威力のない小石は、予想外にも飛びかかってきていたレッドスライムを止めた。
驚きで一瞬動きを止めそうになるが、慌ててその場に落ちたレッドスライムをメイスで殴り飛ばす。ついでに無謀にも飛びかかってきたグリーンスライムを片付ける。
「ちっ」
だが、グリーンスライムの行動にも効果はあったらしい、数瞬遅れて飛んできた火の矢の防御が遅れて体勢を崩される。若干の焦りを覚えるが、残っているのはレッドスライム2匹なので追撃はない。急いで体制を立て直し、メイスを構える。
構えなおした俺に向かって、レッドスライム2匹が同時に飛びかかってくる。火の矢を放ったレッドスライムもすぐさま距離を詰めてきていたらしい。
メイスと腕で防御し、バックステップで距離をとる。
検証のため、右手で小石を取り出して駆け出す。
メイスが届く直前の距離で、手首のスナップを利かせて小石を右側のレッドスライムへと放つ。
こちらへ飛びかかろうとしていたレッドスライムの動きが止まった。それを視界の隅で確認すると、左側のレッドスライムに向かってメイスを全力で振りかぶった。
その後も残ったレッドスライム2匹を相手に“投擲”スキルの検証を行ったが、思ったよりも使えそうなことが分かった。というか、命中補正と行動阻害の効果が予想以上に優秀だ。
しかも、俺が投擲というか投げるという認識であれば十分なようで割とテキトーな投げ方でもスキルの効果が発揮されていた。さすがに小石を指で弾いて飛ばすのはダメみたいだったが。
命中補正については、狙った対象に向かって投げていればほぼ100パーセント命中した。さすがにあらぬ方向に向かって投げた場合は当たらないが、おおよその狙いがあっていれば追尾するように軌道が変化して命中するらしい。
もう一つの行動阻害のほうは、結果からそう思っているだけで、実際には単なる威力の上昇効果かもしれない。なので、一定以上のレベルのモンスターには効果がない可能性がある。だが、少なくともスライムに対しては命中すれば必ず行動をキャンセルさせることができた。
検証する必要はあるが、より上位のモンスターに対しても投擲物を強化することで同じような効果が狙えるかもしれない。
“メイス”スキルと魔鉄のメイスについては、残念ながら単に威力が上がったということしかわからなかった。スキルの効果でメイスを扱う技量も上がっていそうなものだが、現状の戦い方がメイスを振り回しているだけみたいなものなのでよくわからない。
より強い敵を相手にメイスを振るうことになればわかるのかもしれないが、自分の技量が上がったのかスキルの効果なのかはおそらくわからない気がする。
どちらにせよ、新しいスキルと武器の確認は、“壁走り”の効果に不安を覚えつつもおおよそ成功といえる結果に終わった。
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