第37話 考察と反省と相談と(3)
電話に出た龍厳さんに訪問しても構わないかと確認すると、今日はもう特に用事はないのでいつでも構わないとのことだった。午前中は知り合いのところに出かけていたようだが、その用事も終わったとのことだ。
時計を確認すると15時を少し回ったところ。
相談に行くだけなのでアイテムショップに立ち寄ってから訪ねようかとも思ったが、とりあえず今日は龍厳さんへの相談だけで構わないかと思い直す。なので、15時30分ごろに訪ねると告げた。
その後、龍厳さんからうまい酒をもらったので晩飯を食べて行けと言われてしまった。車で向かうつもりなのだが、泊まれということだろうか。
……まあいい、抵抗しても無駄だろう。どうせ急ぎの用事もないし。
そんなことを考えながら電話を終え、龍厳さんの家へと車を走らせた。
「おう、来たか。まあ、上がれ」
龍厳さんの家に着き、玄関を開けると待っていた龍厳さんからそう声をかけられた。今日は稽古日ではないので道場ではなく、住まいである母屋の方に来ている。
そのまま以前と同じように居間に通されると、これまた同じように龍厳さんからお茶を出された。
「それで、今日はどうしたんじゃ?何やら相談したいことがあると言っておったが」
用意したお茶に口を付けると、龍厳さんはすぐにそう聞いてきた。
「あー、それなんですが、昨日ちょっとダンジョンで危ないところがありまして、それでその相談をさせてもらえればと思って訪ねさせてもらったんですよ」
そう切り出し、昨日のことを命の危険があったことをぼかしながら説明し始めた。
だが、適当にぼかして話してもなぜか龍厳さんに突っ込まれてしまい、結局、昨日の戦闘のすべてを話すことになってしまった。
「えーと、なぜ俺は道場で竹刀を構えているんでしょうか?」
すべてを話し終えた後、なぜか道場で竹刀を構えて龍厳さんと向き合っていた。
「なぜもなにも、お前さんを鍛え直すために決まっておるじゃろう。戦いにおける心構えなんてものは、口で言ったところで身に着くものではない。じゃが、戦いにおける動きであれば体に叩き込むことができるじゃろう」
「じょ、冗談ですよね?」
目の前で嬉々として竹刀を構える龍厳さんに問いかける。
「心配するな、竹刀で人が死ぬことはないじゃろう」
俺の一縷の望みをかけた問いかけは、龍厳さんの笑顔とともに告げられた言葉によって砕かれた。
「うぅっ」
「はー、情けないのう。たかが30分程度の打ち合いで動けなくなるとは」
龍厳さんの言葉に首を動かして時計を確認すると、確かにそれくらいの時間しか経っていなかった。感覚的に数時間は経っているように感じられたのに。
「まあいい、儂は先に戻るがお前さんはしばらく休んでから来ればいいじゃろ。その後で晩飯の用意と説教の続きじゃ。さすがに1時間以上も動けないということもないじゃろうしな」
「……」
龍厳さんの言葉に声を出して答えることができず、わずかに頭を動かして答える。それを見た龍厳さんはため息をつき、竹刀を肩に担いで道場から出て行った。
「はぁ」
10分ほど経っただろうか、俺はため息をつきながら身体を転がして道場の床に大の字になった。
道場の天井を見ながら、さっきの打ち合いについて考える。
相談しているときにも言われたが、やはりまだ戦いに身を置くということに慣れていないのだろう。というか、戦いに対して現実感を持つことができていない。
朝にも考えていたが、ダンジョン攻略についてアトラクション感覚で挑んでしまっているのかもしれない。特に最近はスライム相手にレベル上げを繰り返していたし、よりそういう感覚が強くなっているように思える。
それに対して龍厳さんとの打ち合いでは、龍厳さんの竹刀を受けたり、よけたりするために必死だった。龍厳さんの方が威圧感があるということもあるが、より戦いに対して集中できていた気がする。
おそらくこれと同じくらい集中できていれば、ストーンゴーレムの一撃をもらうこともなかっただろう。
であれば、これからも龍厳さんに追い込んでもらって、より戦いに集中できるようにするべきなのであろうか?
……いや、これを毎回はきついな。
そんなことを考えた後、重い身体を動かして龍厳さんが待つ母屋へと戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます