第35話 考察と反省と相談と(1)
翌日、特に変わることなく普段通りの時間に目を覚まし、身体の調子を確認していた。
ベッドに腰掛け、腕を回したり、足を曲げたり伸ばしたりするが、特に異常は見られない。
ダンジョンから帰ってきてすぐは、疲労感が強く、肉体的にも精神的にもかなりきつい状態だった。しかし、一晩休んだことでそれらの不調も回復したらしい。
ダンジョンとはなんなのだろう?
朝食を食べながら今更ながらのことを考える。
昨日、ストーンゴーレムやレッドスライムからあれだけのダメージを食らったが、ダンジョンを出るとそれらのダメージは全て疲労という形に変換された。ダメージを受けたときの肉体的な苦痛は若干残っていたが、脱出するために移動している際にそれらもほとんど感じられない程度になっていた。
“ダンジョン内で受けたダメージはダンジョンを出ると疲労という形で還元される”
ダンジョンに対する調査が始まってすぐに発表された調査結果だ。
一応知識としては知っていたし、今までにもダンジョン内でダメージを負っていたのでこの現象も経験していた。だが、改めて考えると何とも言えない気分になる。
HPなどのステータスはダンジョン内でしか有効ではない。なので、ダンジョンを出る際に何らかの形で還元するというのはわからなくもないし、ダメージが疲労だけで済むというのは随分と良心的にも感じる。そもそもダメージである以上、肉体的な負傷に還元されてもおかしくはないのだから。
だが、現実には肉体的なダメージではなく疲労という形に還元されている。もちろん疲労であってもダメージ量が多ければ相応の休息時間が必要になるが、それでもせいぜい2、3日だ。
他にもダンジョンに関しておかしなところはある。
ダンジョンクリスタルに登録することで各人に応じた初期スキルと“ダンジョン適応”というダンジョン攻略に必須のスキルを得ることができるし、宝箱やモンスターからのドロップアイテムでは攻略に必要となるダンジョン産装備やスキルスクロール、魔法道具などを取得することができる。
ダンジョン攻略において“ダンジョン適応”の必要性は言わずもがなだ。このスキルがなければステータスの反映がなく、レベルアップもない。
また、ダンジョン産装備についても無くてはならない存在だ。一定以上のモンスターに対してはダンジョン産の武器やスキルでなければダメージを与えることができないそうだし、防具も通常の物とダンジョン産の物では効果が雲泥の差だ。
防具は単純な防御力もそうだし、装備箇所以外の全身を防御するという機能が圧倒的な性能差になっている。ダンジョン産の防具を身に着けていれば、適性レベルを超える攻撃を受けない限りは肉体的なダメージではなくHPでダメージを受けることが出来るのだから。
まあ、適性レベルを超えたダメージを受けてしまうと部位欠損などの肉体的なダメージを受ける可能性もあるのだが。
とはいえ、適正レベルを守っていれば基本的に怪我をすることはないということでもある。
なので、ダンジョンから出るとダメージが疲労に還元されることと合わせ、ダンジョンへの挑戦を終えると最終的に疲れているだけということになってしまうのだ。
これはよく考えるととても危険なことなのだろう。ダンジョン内のモンスターやスキルなどの非日常性と相まってダンジョンがまるでアトラクションか何かのように感じられてしまうのだから。
実際、例の事件があるまではそういった感覚で挑戦する探索者も多かったのだろう。ダンジョン産装備を揃えるのに数十万円もかかってしまうが、社会人であれば用意できない額ではない。車を買うよりも安い金額だし、運が良ければ宝箱やドロップアイテムでその金額以上を回収できるかもしれないのだ。
こうして考えてみると、やはりダンジョンは探索者を求めているように感じられる。
最初にスキルを与えてダンジョンへの挑戦権を与え、宝箱やドロップアイテムによって強化したり、報酬を与える。それにより、より多くの探索者をダンジョンへおびき寄せる。
さらに、ダンジョン出現当初にあったようにダンジョンへの挑戦を止めるとダンジョンからモンスターがあふれ出すということもある。それによってダンジョンを放置させることなく、継続的にダンジョンへ探索者を引き寄せる。
……だが、それによってダンジョンは何を得るのだろうか?
ダンジョン内の探索者の数によってダンジョンの成長が早くなるのではないかという説が流れていたが、その後の検証でそれは否定されている。
やはり、探索者を殺すことで何らかのエネルギーを得ているのだろうか?
それにしてはダンジョン攻略が探索者にとって有利になりすぎているようにも感じる。単に殺すだけであれば、わざわざダンジョン産の装備など用意せず、定期的にダンジョンからモンスターをあふれさせるだけでいいはずだ。
数は少ないがダンジョンコアを破壊され攻略されているダンジョンも出ているのだから。
「……はあ、分からないな」
結局、これといった結論を出せぬまま朝食をとり終えた。
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