第34話 ストーンゴーレムへの挑戦(3)

 最初と同じように前衛のスライムたちをかすめるように攻撃を繰り出す。こちらの動きにつられてストーンゴーレムから離れるスライムたちの動きを確認しながら、前衛に位置していたスライムたちが十分に散らばるように繰り返し突撃する。


 数度の突撃で前衛と後衛が分断される。

 それを確認し、前衛のスライムたちが再び集まる前にストーンゴーレムに対して攻撃を仕掛けた。


「はっ」


 ストーンゴーレムの側面に回り込み、気合とともにバットを振り下ろす。

 間にスライムもおらず、ストーンゴーレムも防御行動に入っていない状況だ。振り下ろしたバットはストーンゴーレムの左腕にきれいに直撃する。

 瞬間、ガンッという大きな音とともにとてつもなく硬いものを叩いた衝撃が腕に伝わってきた。

 同時にストーンゴーレムがこちらを振り向いて右腕で殴りつけてくる。

 それを見て、すぐさまバックステップで距離をとって攻撃をかわし、周囲を確認する。

 まだ周りにはレッドスライムしかおらず、残りのスライムたちとは距離がある。

 それを確認するとそのままストーンゴーレムの背後へと回り込み、今度はレッドスライムを狙う。

 1番近くにいた1匹に向かってバットを振り下ろす。


「なっ!?」


 バットを振り下ろした瞬間、驚きのあまり動きを止めてしまった。

 振り下ろしたバットは根元から折れ曲がり、レッドスライムにはかすりもしなかったのだ。


「がっ」


 驚きのあまり動きを止めていたが、ストーンゴーレムの拳によって強制的に再起動させられた。

 ストーンゴーレムの攻撃をまともに受けたことで吹っ飛ばされ、地面を転がる。

 痛みに顔をしかめながらストーンゴーレムの方を見るとレッドスライム3匹が詠唱を始めていた。

 すぐさま起き上がって避けようとするが間に合わず、目の前にレッドスライムから放たれた火の矢が飛来する。


「ぐぅっ」


 3発の火の矢の直撃を受けてさらに地面を転がる。

 痛みに耐え、目を開いて必死に状況を確認する。

 吹っ飛ばされたことでストーンゴーレムの攻撃範囲からは外れたようだが、ストーンゴーレムはこちらに向かってきている。その後ろにはグリーンスライムとブルースライムも続いているようだ。

 さらに悪いことに先ほどの位置から動いていなかったレッドスライムが再び詠唱を開始する姿が見えた。


 これはやばい。

 今までにない危機に焦りを覚える。HPもほぼ満タンだったのがさっきのダメージで100を切っている。


 早く逃げないと。

 詠唱するレッドスライムや近づいてくるストーンゴーレムの姿を見ながら必死に身体を起こそうともがく。だが、焦るばかりでうまく力が入らずまともに起き上がることができない。


 どうにかして身体を起こすとレッドスライムから火の矢が放たれるところだった。


「くそっ」


 悪態をつきながら火の矢から離れるように移動する。しかし、もともと大して距離が開いていたわけでもなく、軽い追尾機能が付いた魔法には対して効果はない。すぐに火の矢が目の前に迫ってくる。

 火の矢を撃ち落とすためにバットを振るう力もなく、さらに折れ曲がったバットでは防御も心もとない。

 火の矢が直撃する寸前、地面に身体を投げ出して転がるように回避行動をとる。


「くっ」


 地面に転がった瞬間、2発の衝撃を感じてさらに吹っ飛ばされる。

 どうやら1発は避けることができたようだが、今のでHPが半分以下にまで削られた。


 顔を上げて周囲を確認すると目の前には壁がある。今の攻撃で壁まで吹っ飛ばされたようだ。

 そのまま首を回して後ろを確認する。

 ストーンゴーレムとスライムたちとはまだ距離があるようだ。だが、ここに居てはすぐに辿りつかれるだろう。


 必死に立ち上がり、壁に手を突きながら扉を目指す。

 だが、扉まで10メートルほどとなったところでブルースライムに追いつかれてしまった。

 折れ曲がったバットで振り払おうとするが大して効果がない。体当たりを食らって地味にHPを削られていく。今はむしろ体当たりによって体勢を崩される方が痛い。


 扉まで5メートルを切ったところで後ろから魔法の気配を感じる。後ろを振り向いて確認するとレッドスライムが詠唱を開始していた。


 やばい、この状況で火の矢を食らうとスライムとストーンゴーレムに距離を詰められて終わる。

 焦りながら必死で足を動かす。

 扉にたどり着く前に詠唱が終わると俺も終わってしまう。

 最後の力を振り絞って扉へと急ぐ。まとわりついているブルースライムは無視だ。


 目の前に扉が飛び込んでくる。どうにか詠唱が終わる前に扉にたどり着けたようだ。

 そのまま倒れこむように扉を押し開け部屋から脱出する。

 部屋の外に出ると這うようにして扉から離れ、扉が閉まるのを確認する。

 直後、部屋の中から火の矢がぶつかったであろう衝撃音が聞こえてきた。


「ふう」


 どうにかして立ち上がって通路の壁に手を突き、とりあえずの危機を脱したことで安堵の息をつく。

 だが、目の前には部屋の中からついてきたブルースライムがいる。しばらくするとグリーンスライムも通路に出てくるだろう。

 つきまとってくるスライムを振り払い、懸命にダンジョンの出口を目指した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る