第33話 ストーンゴーレムへの挑戦(2)

 大部屋からスライムを釣り出す作業を繰り返す。

 扉の近くにいるスライムたちは簡単に釣り出すことができるが、奥の方にいるスライムたちは釣り出すことが難しいようだ。

 レッドスライムは相変わらず釣り出しには引っかかってくれないし、ブルースライム、グリーンスライムについても奥にいる奴らは少しついてくるだけで奥からは離れてくれない。どうやら、この部屋を攻略するにはある程度のスライムが残った状態で挑まなければいけないらしい。


 5度目の釣り出しの後、10分以上経過してもスライムたちが通路に出てこなかったことを確認し、覚悟を決めて大部屋への扉を開いた。



 部屋の中に入り、改めてモンスターたちの様子を窺う。

 モンスターたちはストーンゴーレムを中心に部屋の奥の方に固まっている。中心にストーンゴーレム、前方にグリーンスライムとブルースライム、後方にレッドスライムという陣形だ。前方のスライムたちは10匹程度、レッドスライムは3匹、ストーンゴーレムは1体となっている。

 ちなみに、スライムの釣り出しの際に部屋にいるゴーレムがストーンゴーレムであることは識別で確認している。


 さて、どうするか。モンスターたちの様子を確認し、改めて方針を考える。

 安全に行くのであれば周囲のスライムたちを片づけてからストーンゴーレムに挑む形にしたい。特にレッドスライムは火の矢が面倒なので先に潰しておきたい。

 インターネットで調べた情報によるとストーンゴーレムの動きは大して速くないらしい。となれば、いつも通りヒットアンドアウェイの戦法で周囲のスライムを削っていく形になるだろう。

 だが、あの巨体だ。リーチは長く、周囲のスライムを狙った場合でもすぐにストーンゴーレムの攻撃範囲に入ってしまう。いつも以上に接近と離脱を速くしないといけないはずだ。

 そのように方針を決め、バットを強く握りしめ直して前方に向かって駆け出した。


 前方にいるスライムたちをかすめるように斜めに走り、交錯する際にバットを叩き込む。だが、いつもより距離をとることを意識していたため、バットはブルースライムにかすっただけで大したダメージは与えられていない。

 近くを通過する際に体当たりしてきたスライムたちを無視し、ある程度距離をとったところで向きを変えて今度は後方にいるレッドスライムを狙って走り出す。

 レッドスライムたちもこちらの動きを見て狙いに気付いたのか、ストーンゴーレムの後ろに隠れられるように移動を始める。

 接近してレッドスライムにバットを振ろうとした瞬間、ストーンゴーレムが腕を振りかぶっている姿が視界に入る。


「くっ」


 どうやら、ストーンゴーレムに接近しすぎたようだ。バットを振るうのを止めて、慌ててストーンゴーレムから距離をとる。

 直後、俺がいた場所を豪快な音を立ててストーンゴーレムの腕が通り過ぎた。


「……」


 間近で見たストーンゴーレムの攻撃の威力に呆然としていると、スライムたちがこちらに向かって攻撃態勢に入っているのが目に入る。


「ちっ」


 バットを振り、近づいてくるスライムたちをけん制しながら後ろへ下がる。


 まだ一当てしただけだが、レッドスライムの動きが面倒だ。今の動きを見る限り、レッドスライムはストーンゴーレムの攻撃範囲から離れないのではないだろうか。

 となると、ストーンゴーレムの攻撃をくぐり抜けながらレッドスライムを狙う必要が出てくる。

 だが、それは難しいかもしれない。今回の戦闘ではレッドスライムからまだ火の矢が1発しか放たれていないのだから。

 1発、2発であれば火の矢を警戒しつつ、ストーンゴーレムに注意してレッドスライムを狙うこともできるかもしれない。しかし、その状態を維持したまま、レッドスライムを倒し切るまで攻撃を加え続けるのは厳しいだろう。


 そんなことを考えつつ、前衛に位置するグリーンスライム、ブルースライムの数を削るべく攻撃を加えていく。

 グリーンスライムとブルースライムはこちらに攻撃を加えようとしてくるので、何度か攻撃して気を引くことでストーンゴーレムから距離を離すことができる。

 だが、レッドスライムについては合間に何度か攻撃を加えようとしているが、1回目と同じようにストーンゴーレムの後ろに隠れるように移動されてうまくいかない。


 さらに数度攻撃を加え、グリーンスライムとブルースライムを1匹ずつ減らしたところで、モンスターたちから距離をとって息を整える。

 いくらダンジョン内でステータスが上がっているとはいえ、全力でダッシュを繰り返して攻撃を加えるのはしんどい。


 距離をとったことで再びストーンゴーレムの近くに集まり始めるスライムたちを見ながら、次の行動を考える。


 今までの動きを見る限り、レッドスライムとストーンゴーレムは一緒に相手をする必要がありそうだ。少なくともレッドスライムは火の矢を撃ち尽くすまでストーンゴーレムの側を離れないだろう。

 このまま同じことを続けていけば、グリーンスライムとブルースライムを倒しきることは可能だろう。だが、残ったストーンゴーレムとレッドスライムを倒しきることができるかは不明だ。


 ストーンゴーレムの攻撃は近くで見る限りかなりの威力に見えるが、さすがに1発でどうこうなるほどのものではないと思う。

 ただ、ストーンゴーレムの真骨頂はその防御力にある。このまま突っ込んだ場合、ストーンゴーレムを攻めあぐねている間にレッドスライムからの火の矢を食らうことになるだろう。

 火の矢についても1発でどうこうなるということはないが、ストーンゴーレムの攻撃と合わさってくると厄介だ。おまけに今回はレッドスライムが3匹もいる。何らかの対策は必要だろう。


 ……ここはとりあえず、最後にストーンゴーレムに一当てして撤退するか。

 グリーンスライムとブルースライムだけであれば倒しきることは可能だろうが、ストーンゴーレムを警戒しながら倒しきるのは疲れる。経験値としてどの程度になるのかはわからないが、経験値稼ぎであれば手前の大部屋に行けばいい。


 そう結論を出し、最後に一当てするために再度モンスターたちに向かって走り出した。

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