第32話 ストーンゴーレムへの挑戦(1)
初めて大部屋を釣り出しなしでクリアしてから3日後。
釣り出しなしの大部屋にも慣れ、余裕を持って倒せるようになったところで、ダンジョン管理機構の佐藤さんに連絡を入れた。
次の部屋に挑むため、自衛隊の巡回ルートを変更してもらうことに決めたのだ。
翌日、洗い物を片づけていると家のインターホンが鳴った。
おそらく昨日お願いした自衛隊の巡回チームが訪ねてきたのだろう。インターホン越しに相手を確認すると、予想通り巡回の隊員だった。
少し待つように伝え、急いで玄関へと向かう。
「おはようございます」
玄関を開け、門の所まで行くと隊員の人から挨拶をされる。確か名前は小林さんと中村さんだったはずだ。
「おはようございます。今日はわざわざ訪ねてきてもらってすいません」
俺も挨拶を返しながら門を開け、2人の前に出る。
「いえいえ、ダンジョンの攻略を進めてもらえるのであれば大歓迎ですよ。ところで、どこの部屋に挑戦されるのですか?第2階層ですか?」
「いえ、まだ第2階層には行けていないので、第1階層の部屋なのですが……。えーと、挑戦したいのはストーンゴーレムがいる第1階層の奥にある大部屋ですね」
小林さんに第2階層に挑戦するのかと確認され、やや申し訳なくなりつつもストーンゴーレムがいた部屋を指定する。
「なるほど、あの部屋ですか。あの部屋には宝箱も設置されていますし、探索者である森山さんには都合がいいかもしれませんね。他に何か希望はありますか?」
「いえ、他には特にないです。しばらくはストーンゴーレムを相手にしようと思いますので。……先の話になりますが、挑戦する部屋を移そうとする場合はどうすればいいですか?」
大部屋に宝箱が設置されているという情報に内心喜びつつ、質問を返す。
「そうですね、挑戦する部屋を変える場合は、おそらく第2階層への挑戦ということになると思いますが、今回と同じようにダンジョン管理機構経由で連絡をいただければ同じように伺いますよ。なんでしたら、巡回は決まってこの時間から始めますので我々が来るのを待ってもらって直接伝えてもらっても構いませんが。まあ、いちいち我々が来るのを待ってもらうのもあれなのでダンジョン管理機構に連絡してもらうのが確実だと思います」
「わかりました。次の部屋に挑戦できるようになった場合は、また改めて連絡を入れさせてもらうことにします。申し訳ありませんが、しばらくは巡回ルートの変更のほうをよろしくお願いします」
「いえ、大した手間でもありませんし、気にしていただく必要はありませんよ。それよりも森山さんの方こそ気を付けてください。ストーンゴーレムはそこまで強いモンスターではありませんが、スライムと比べると硬さも攻撃の威力も段違いとなりますので」
最後に俺にそう注意をしてから、2人は軽く頭を下げてダンジョンへと向かっていった。それを見送りながら、ダンジョンに挑戦する前にもう1度ストーンゴーレムについて調べることを決めた。
午前中の用事を済ませ、昼食後にストーンゴーレムについて確認してからダンジョンへと向かう。
今日は、ストーンゴーレムという新たな敵に挑むことになるので、ダンジョンに入る前に装備の確認をしておく。
レザーアーマーもレザーブーツもやや汚れが付いているが特に痛みなどは見られない。汚れについても使い込まれたように見えて逆に味が出ている感じだ。
また、ヘルメットとバッティンググローブも確認するが、こちらも特に問題は見られない。
最後に金属バットを見る。
さすがにスライムとやりあう際に地面や壁を叩きつけているせいで、バットについては無傷といかないようだ。バットの先や側面にへこみが見える。
それを見て、ストーンゴーレムに挑戦する前に買い替えた方が良かったかな、という考えが頭をよぎる。
だが、バット本来の目的で使うわけではなくモンスターを殴りつけるために使う以上、多少のへこみは特に問題ないだろうと考えを改めた。
相変わらず巡回によってモンスターがいなくなっている通路を進み、第1階層奥の大部屋を目指す。
途中にある落とし穴の罠は生きたままになっているが、罠探知のスキルにより問題なく回避できている。そのまま何事もなく順調に進み、ダンジョンへの侵入から2、30分ほどで奥の大部屋の前までたどり着いた。
扉に手を当て、ひとつ深呼吸をする。
自衛隊の巡回チームが依頼した通りに巡回ルートを変更してくれていれば、以前確認したときとは違って部屋の中にモンスターが残っているはずだ。
慎重に扉を開いて中の様子を窺う。
――部屋の中には色とりどりのスライムと岩のようなものでできた巨人、おそらくはストーンゴーレムがいた。
1度扉を閉めてどうするかを考える。
といっても俺にとれる選択肢は特にない。そのまま突っ込むか、小部屋や手前の大部屋に挑戦したときのようにスライムを釣り出してから突っ込むかだ。
……まあ、さすがにそのまま突っ込むのはあり得ないので、スライムの釣り出しを行って数を減らしてから突っ込むのだが、選択できる行動が突っ込むしかないというのは改めて考えるとひどい。
やはり俺にも遠距離から牽制できるような手段が欲しい。今からの挑戦には間に合わないが、以前諦めたスキルスクロールの購入を考えるべきか。
魔法のスキルが1番良いのだが、なければ遠距離武器のスキルでもいいかもしれない。
それすらなければ補助系のスキルになるわけだが、こういう状況で活きるスキルはなんなのだろう?回避や高速移動などの回避系の強化か、頑強や受けのような守りの強化だろうか?
まあいい、考えるのはダンジョンを出てからだ。今はストーンゴーレムへの挑戦のことを考えよう。
そうやって思考を切り替え、スライムの釣り出しを行うために大部屋へと足を踏み入れた。
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