第31話 力試し(3)
ブルースライムを片づけ、残ったレッドスライムと向き合う。
今までに火の矢は合計で7発放たれている。つまり、残りの火の矢は1発のみということだ。
HPもまだ100以上残っているし、焦らずいつも通り対処すれば問題なく倒すことができるだろう。
そんなことを考えていると、2匹のレッドスライムがこちらに向かって動き出した。
レッドスライムの移動速度はグリーンスライム、ブルースライムに比べると素早い。見る間に向こうの攻撃可能範囲まで距離を詰められてしまった。
慌ててバットを構えて攻撃に備える。
するとレッドスライムは俺の目の前で左右に分かれ、挟撃しようとしてきた。
「ちっ」
スライムのくせに連携を取ってくる行動にうんざりしながらも、後退して2匹を視界に入れるようにしつつ右側のレッドスライムに向き合う。
すると右側のレッドスライムは左右に小刻みに移動してこちらの狙いを外そうとしてくる。と、同時に左のレッドスライムから魔法の気配が感じられた。
「もう使うのか」
そうつぶやき、詠唱を止めるため、さらにはその隙を突くために左側のレッドスライムへと狙いを変えようとする。
しかし、そんな行動を右側のレッドスライムが許すはずもなく、俺に向かって体当たりを仕掛けてくる。
バットや腕でガードしても何度も繰り返し体当たりしてくるレッドスライムを振り払い、詠唱しているレッドスライムの前にたどり着く。
が、一瞬早く詠唱が完了し、目の前に火の矢が現れた。
「くそっ」
急いでガードしようとするが、間に合わず火の矢を至近距離からまともに食らってしまう。
「がっ」
火の矢を食らい、その衝撃によってふっとばされてしまった。HPも今の一撃で100を切ってしまったようだ。
HPはまだ十分に余裕があると言える数値ではあるが、レッドスライムが追撃しようとしているのが見える。
急いで体勢を立て直す必要があるだろう。
レッドスライムの体当たりを地面を転がって躱す。体当たりを躱した後も、レッドスライムから距離を取るためさらに地面を転がる。
微妙に目を回しつつも、レッドスライムから十分に距離を取ったところで立ち上がってバットを構えた。
再びレッドスライムと向き合う。2匹は俺が体当たりを躱したところから大して動かずに並んでこちらを見ていた。
「ふう」
レッドスライムの姿を確認したところで、ひとつ息を吐く。
最後にまともに食らってしまったが、今ので火の矢は尽きたはずだ。であれば、ここは一気に行かせてもらおう。
そう決めると、レッドスライムに向かって駆け出した。
俺が近づくとレッドスライムたちもこちらを迎撃すべく動き出す。どうやら、さっきと同じように左右に分かれて挟撃しようとしているらしい。
だが、先ほどと違ってこちらが攻めに行っているのだ。狙いを右側のレッドスライムに定めると交錯する際にバットを叩き込む。
レッドスライムが吹っ飛ぶのを確認し、そのまま追撃に移る。視界の隅で左側に移動したレッドスライムを確認したが、特にこれといって動きはないようだ。まあ、火の矢が尽きた以上、距離がある状態では何もできないだろうが。
吹き飛ばしたレッドスライムに駆け寄り、バットで追撃を加える。レッドスライムも体勢を立て直そうとしていたようだが、わずかに遅い。起き上がる前に俺のバットが直撃する。
その後も動きを止めたレッドスライム相手にひたすらにバットを叩き込む。
「っ」
転がるレッドスライムに5発ほど追撃を加えたところで後ろから不穏な気配を感じた。
目の前のレッドスライムはあと1、2発で倒せるはずだ。だが、今は後ろの不穏な気配を確認する方が先だろう。何となく嫌な予感を感じつつ、後ろを振り返った。
「はぁ!?」
振り向く前から何となくわかってはいたが、そこには詠唱をしているレッドスライムの姿があった。
「くそっ、こいつらの火の矢は打ち止めじゃないのかよっ」
文句を言いつつ、バットを正面に構えて火の矢に備える。が、その前に念のために転がっているレッドスライムを蹴り飛ばしておく。
すると、蹴り飛ばしたレッドスライムは壁にぶつかり、光となって消滅した。どうやら、本当にギリギリのHPしか残っていなかったようだ。
レッドスライムが消滅したのを確認した瞬間、もう1匹から火の矢が飛んでくる。
飛んできた火の矢をバットで叩き潰すと、そのままレッドスライムに向かって駆け出す。
結局、その後は1匹になったレッドスライムに対してフットワークを活かしながらバットを叩き込んでいくことで問題なく倒すことができた。
こうして大部屋への挑戦は終わった。
最後に予想外の出来事があったが、結果だけを見ればHPも半分以上残っているし、まあ問題ない結果と言えるだろう。
とはいえ、しばらくは今日と同じように通路への釣り出しをせずに大部屋へ挑んでみる予定だ。それを余裕を持って対処できるようになれば、第1階層奥の大部屋、ストーンゴーレムへ挑戦できる程度には成長しているだろう。
ダンジョンから帰った後、レッドスライムが火の矢を限界を超えて放ってきたことについて調べてみた。さすがにわからないまま放置しておくのは問題だと思ったのだ。
その結果、可能性として有り得るのはレッドスライムのMPが自然回復したか、あのレッドスライムのレベルが1ではなく2以上だったか、ステータスがMPに偏った固体だったかというものだった。
だが、MPの自然回復についての情報を調べると戦闘中に回復したのではなく1度部屋を離れてから再挑戦した際にMPが回復していたという話だった。なので、あれはレッドスライムが高レベルだったかステータスが特殊な固体だったのだろうという結論に至った。
本当のところを確認するには鑑定スキルでステータスを確認する必要があるし、すでにあのレッドスライムは倒してしまっているので確認のしようもない。
まあ、訳も分からず今まで限界だと思っていたものを超えられるよりは、とりあえずの理由付けができている方が安心できるので、特に本当のところを突き詰めて確認しようとも思わない。
とりあえず、今までの戦闘でレッドスライムの火の矢は4発だと思い込んでいたのを5発目以降があるかもしれないと頭に入れていればいいのだ。
そうやってレッドスライムの問題にけりをつけ、明日以降の挑戦に備えていつもより早く眠りに就いた。
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