第27話 巡回開始(1)
小部屋を突破し、その先の大部屋でストーンゴーレムを確認して以降、第1階層突破に向けたレベル上げを始めた。
といっても、やっていることは今までとあまり変わらない。これまで通り小部屋のスライムたちを通路に釣り出して掃討した後、手前の通路の先にある大部屋でもスライムたちを釣り出して倒すという作業を追加しただけだ。
手前の大部屋にはレッドスライムが2匹配置されていたため、残念ながらまだ攻略には至っていない。部屋に入ってすぐ近くにいるグリーンスライムとブルースライムを通路に釣り出して地道に経験値を稼いでいるだけだ。
ちなみに、大部屋での経験値稼ぎを始めたその日にレベルが1つ上がっている。だが、小部屋や通路でのスライムとの戦闘でもそれほど強くなったという実感はない。
この前の土曜日にも佐々木剣術道場へ行って龍厳さんから2度目の稽古をつけてもらったが、そちらの成果もまったくだ。しばらくは無理をせずに地道な経験値稼ぎを続ける必要があるのだろう。
そんな思いを抱えて小部屋と大部屋を利用したレベル上げを始めてから数日たったある日、珍しく朝からお客さんを迎えていた。
「今日はいったいどうしたんですか、佐藤さん?ダンジョンで何かありましたか?」
玄関を出て門の前に立つお客さん、ダンジョン管理機構の佐藤さんに問いかける。
「いえいえ、特に問題が起きたわけではありませんよ。というよりも問題を起こさないようにするために来たというところですね」
佐藤さんの答えの意味が分からず視線で問いかける。
「どうやらお忘れのようですが、今日でダンジョンが出現してから30日になるのですよ。ですので今日から森山さん宅に出現したダンジョンにも自衛隊の攻略部隊から巡回チームを派遣してもらいます。今日はそのご連絡と巡回チームの隊員の顔合わせのために伺ったのです」
そう言うと佐藤さんは視線を後ろに動かした。釣られてそちらに目をやると以前の調査の時に見かけた自衛隊の隊員が2名控えていた。
俺の視線に気付いた隊員の2人が無言で頭を下げる。俺も慌てて頭を下げながら頭の中で隊員の人たちの名前を思い出そうとする。
だが、俺が思い出すよりも先に佐藤さんから回答が告げられた。
「以前にもご紹介しましたが、こちら自衛隊の小林さんと中村さんです。今日から森山さん宅のダンジョンの巡回をお願いすることになります。お二人以外にももう1チーム交代で巡回するチームがいるのですが、そちらはまた巡回の日に改めて挨拶に伺わせてもらいます。森山さん宅のダンジョンは巡回ルートの最初のダンジョンになりますので、基本的には午前中に巡回が終了することになると思います。明日からは特にご挨拶などなしに巡回に入りますが、ダンジョンに関して何かあった場合は私でも巡回チームに直接でも構いませんのでご連絡ください」
そう言うと佐藤さんは軽く頭を下げて隊員の2人とともにダンジョンの方へと向かっていった。
しばらくそのまま見ていると3人はダンジョンクリスタルの前で少し話した後、隊員2人がダンジョンへ入り、佐藤さんは車に乗って帰っていった。
佐藤さんも言っていたが本当に今日はただの顔合わせだったようだ。何となく拍子抜けしつつ、俺も誰もいなくなった門から離れて家の中へと入っていった。
その日の午後もいつも通りにダンジョンへ入った。
だが、小部屋にたどり着いて部屋の中を見たところで異変に気付く。
小部屋の中にモンスター、スライムがいなかったのだ。というか、あまり気にしていなかったがここに来るまでに一度もモンスターと出会っていない。
小部屋の中へと進みながらどうしたことかと考え、ちょうど部屋の真ん中あたりに来たところでやっと原因に思い当たった。
巡回だ。
自衛隊の隊員による巡回によってモンスターたちが掃討されたのだ。
しかし、原因には思い当たったがこれからどうしようか。
自衛隊の隊員による巡回でどこまで回っているのかわからないが、巡回したルートのモンスターはここと同じようにいなくなっているだろう。かといって、モンスターがいるであろう巡回していない場所まで行くと今度は相手が強すぎて俺がやられてしまう。
……あれ?もしかしてあまりいい状況じゃないのか?
こんなことであれば佐藤さんに巡回時にどこまで進むのかを聞いておけばよかった。
とりあえず、前回の調査の時には第3階層まで制覇したと聞いたはずだ。あのときは6人の隊員がダンジョンに入って5時間ほどかけて調査していた。
今回は2人で1、2時間程度だろう。戦力的には三分の一、時間的にも三分の一程度か。
でも調査の時と違って隅々まで巡回しているというわけでもないはずだ。であれば、第2階層まで行って往復したくらいだろうか。
まあいい、とりあえず先にある大部屋を抜けた先までは確認に行ってみよう。以前聞いた情報から考えると、その先に第2階層へ続く階段があるだろうし。
それに、この前見たストーンゴーレムの動きは大して速くなかった。大部屋の先から戻ってくるときに復活していたとしても逃げるくらいはできるだろう。
そう結論を出すと、先の通路へと続く扉を開け、大部屋へと向かっていった。
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