第26話 小部屋の先へ(2)

 100メートルほど進んだところだろうか、左側に横道を発見した。

 よって進路の選択肢は直進か左折かということになるのだが、直進する通路の先に小さく扉のようなものが見える。

 なので、ここは直進して扉を確認しに行くことに決めた。


 更に数100メートル進んだ後、先ほど遠目に見えていた扉の前にたどり着いた。

 自衛隊の探索チームの報告では、第1階層から第3階層まで各階層には3部屋ずつ部屋があったと言っていたはずだ。であれば、ここが第1階層最後の部屋になるわけだ。


「ふぅ」


 短く息を吐き出してから扉に手を触れる。

 そしてゆっくりと扉を開き始め、慎重に部屋の中を窺い――。


「……」


 ゆっくりと音を立てないように扉を閉めた。



「マジかー」


 通路の天井を見上げつぶやく。

 中をのぞき見た感じ、部屋の大きさは以前見た大部屋と同じサイズだろう。それは良い。

 で、モンスターについてなんだが、スライム以外のモンスターがいた。距離が遠いためダンジョン適応の識別が効かなかったんだが、あれはゴーレムだ。見た目的にはストーンゴーレムっぽいが実際のところは対峙して識別してみなければわからない。

 だが、遠目から見ても強そうなことが分かった。ごつごつとした岩のような体表に太い手足、胴体も重量感のある巨体だった。正直、あんなものに殴られることを想像したくもない。

 さらに問題なのはレッドスライムも3匹いたことだ。

 俺はやっとレッドスライム1匹に対して勝てるようになったところだ。それも通路への釣り出しなどの小技を駆使した上で。

 それなのにそれが3匹もいるのだ。加えて当然のようにグリーンスライムやブルースライムもいる。


「まあ、まだ無理だな」


 少し考えた後、分かりきっていた結論を口に出す。

 そう、まだ無理だ。少なくとも小部屋にいるスライムたちを釣り出しなしで掃討できる程度に強くならなければどうしようもないだろう。

 より慎重を期すのであればもう一つの大部屋をクリアしてから挑戦すべきだろう。

 まあ、しばらくはレベル上げだな。

 そう結論を出し、後回しにした横道の探索へと向かうことにした。



 通路を戻り、横道に入ってから5分ほどで通路の奥にまで達した。

 そして、この通路の奥なんだが初めて見るものがある。

 宝箱だ。


 ……なんだが、この宝箱からものすごい違和感を感じる。あの落とし穴を見つけた時のような違和感だ。

 つまりはこの宝箱には罠が仕掛けられているということなんだろう。

 残念ながら俺には罠を解除するような技術はない、さらにスキルの罠探知も探知するだけで解除には別のスキルが必要だとこの前調べたときに確認している。

 要するにこの宝箱はあきらめるしかないというわけだ。


「……はぁ」


 結局、見つけた宝箱に対して有効な手段を講じられなかった俺はそのままダンジョンを後にした。






 翌日、背中に背負ったリュックに秘密兵器を入れてダンジョンへと入る。

 レッドスライムの小部屋をいつも通り通路への釣り出しを利用して突破し、再び宝箱の前にやって来た。


 背中のリュックを下ろし、家の物置で見つけた秘密兵器を取り出す。

 マジックハンドだ。

 ……正直、なぜマジックハンドが紅葉くれはおばさんの家に置いてあったのかはわからないのだが。何にせよこれがあれば罠のある宝箱に対しても安全な位置から開けることができるはずだ。


 マジックハンドを慎重に操作して宝箱の留め金を外す。

 ここでいったん間を置くが、これだけでは特に何も起きないようだ。


 続いてマジックハンドを蓋にひっかけ慎重に宝箱を開いていく。

 蓋が持ち上がり、中身が見えるかというところになった瞬間、宝箱は爆発した。


「……」


 正直、呆然とするしかない。

 使っていたマジックハンドも先の方が吹っ飛んでしまい、もう使い物にならなくなっている。

 というか、宝箱が爆発するとか、マジックハンド程度では不用心だったかもしれない。幸い爆発の範囲が狭かったからマジックハンドだけの被害で済んでいるが、もう少し周囲を巻き込むような爆発だった場合は俺自身も危なかった。

 今後はもう少し慎重に行動する必要がありそうだ。


 一応、宝箱があった場所に行って中身が残っていないか確認してみるが、そこには宝箱の残骸しか残っていなかった。

 結局、この日は他を探索する気力をなくし、ダンジョンをとぼとぼと出て行くことになった。



 なお、翌日確認してみると宝箱は元通りに復活していた。……罠付きで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る