第24話 レッドスライム(2)

 グリーンスライム1匹を片づけたところで、一度スライムたちから距離をとった。

 レッドスライムの様子がおとなしいのだ。

 今までであれば、とどめを刺すために一ヶ所にとどまっていると火の矢を放ってきていたというのにどうしたのだろうか?

 もしかして、MPがなくなったのか?

 スライムたちを釣り出すときに1回ずつ撃たれ、今回は2回撃たれているので合計4回だ。

 レッドスライムの火魔法は4回が限度なんだろうか?


 ……うむ、わからん。我ながら、なぜこういう必要な情報を収集していないのか。

 まあいい、一応これまでと同じようにレッドスライムからの火魔法が飛んでくるかもしれないと警戒しながらグリーンスライムとブルースライムを相手にしよう。



 バットを正面に構え、スライムたちに向き合う。まずは左のグリーンスライムだ。

 バットを下段に構え直し、グリーンスライムへと素早く近づいてすくい上げるようにバットを振るう。

 グリーンスライムは転がるように避けようとしたが、上部をバットが抉った感触があった。

 足止めのためのダメージは十分と判断し、ブルースライムに向き直る。

 直後、視界の隅でレッドスライムが飛び込んでくるのが見えた。


「なっ」


 驚きつつも後ろに跳び下がってレッドスライムの体当たりを避ける。

 そのまま後ろへと下がり、スライムたちと距離をとる。


「MPが切れて直接攻撃に切り替えたのか?それとも単に壁が少なくなったから直接来たのか?」


 レッドスライムの突然の攻撃に疑問を口にするが、もちろん答えなど返ってこない。


「まあいい、直接来てくれるのであればこちらもありがたい。速攻で決めてやる」


 そう言って、スライムたちに向かって駆け出す。


 まずは一番近いブルースライムへと殴り掛かる。

 ブルースライムは横に転がって回避しようとするが、その回避パターンは読んでいる。

 バットの軌道を回避方向に合わせて変化させてダメージを与える。

 直後にこちらに攻撃に来たグリーンスライムにはバットを返してそのまま打ち上げる。

 4、5メートルはあるかという天井近くまでうまく打ち上がったことに満足しつつ、ブルースライムへの追撃に移る。


 ベチャッという落下音とともにグリーンスライムが光になるのが見えた直後、最後に残ったレッドスライムがこちらに突撃を仕掛けてきた。

 ブルースライムへの追撃の手を止め、バットでレッドスライムの体当たりを受け止める。

 地面に落ちたレッドスライムにバットを叩き込むが、レッドスライムは横に飛び跳ねて避ける。

 転がるだけじゃないのかよと思いつつ、バットを構えレッドスライムの攻撃に備える。


 レッドスライムは左右にポンポンとリズムよくはねた後、こちらに向かって飛び込んできた。

 バットを突き出して迎撃する。

 瞬間、グリーンスライムたちとは比較にならない衝撃が腕へと伝わってきた。

 どうやらレッドスライムは魔法だけだはなく、物理も強くなっているらしい。


 だが、バットにまともに衝突したレッドスライムも無事ではないはずだ。

 バットに弾かれてやや離れた位置を跳ねているが先ほどよりも弱々しく感じる。


 だが、レッドスライムへの追撃よりも先にブルースライムを片づけることを優先した。

 ないとは思うがブルースライムに回復されてまた2対1になるのは面倒だ。

 そう思い、ブルースライムにバットを何度も叩き込んで光へと変えると、その瞬間に再びレッドスライムが飛び掛かってくる。


 バットを水平に構えバントの要領でレッドスライムを受け止め、そのまま地面へと打ち付ける。

 これにはレッドスライムもダメージを受けたようで明らかに動きが鈍った。

 このまま一気に畳み掛けよう。

 動かないレッドスライムに対しバットを振りかぶってこれでもかというくらいにバットを叩き込んで光へと変える。

 正直、10回を超えたところで回数を数えるのをやめたんだが、どんだけタフなんだよ。


 だが、悪いことばかりではなく、良いこともあった。ドロップアイテムが入手できたのだ。

 ドロップアイテムを残したのはレッドスライムだ。やはり上位種の方がドロップアイテムを残しやすいのだろう。

 で、問題のドロップアイテムだが、“銀貨2枚”だ。


 ……正直、しょぼいのは認める。だが、初ドロップなんだ。喜んでもいいだろう。とりあえず、初ドロップの銀貨2枚は大事にしまっておく予定だ。

 で、この銀貨についてなんだが、大きさはおよそ500円玉くらいで表には剣と盾、弓矢を重ねた意匠が施されている。

 それなりにきれいで価値のありそうなものに感じるのだが、ダンジョン管理機構の買い取りでは1枚5~600円程度となっていたはずだ。


 2週間にわたって1日2時間ほどダンジョンに入った結果が約1000円。かかった諸経費約50万円。


「……」


 いや、きっとこれからだ。レッドスライムも倒したし、これから宝箱とかを入手して収益が上がるはずなんだって。


 その後、ダンジョンから出るまで誰に向けたものかもわからない言い訳を延々と繰り返すことになった。

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