第23話 レッドスライム(1)
スライムの釣り出し実験から3日。
昨日までレッドスライムを相手にせず、通路に釣り出したスライム相手に安全に経験値稼ぎをしていた。
その結果、およそ1週間ぶりにレベルアップを果たした。このペースは早いのか遅いのか。
なんにせよ今のステータスはこんな感じだ。
名前:森山 達樹(モリヤマ タツキ)
種族:ヒト
性別:男性
年齢:34
Lv.:3
HP:120
MP:118
STR:10
VIT:10
INT:12
MND:10
AGI:9
DEX:12
LUK:13
称号:探索者
スキル:ダンジョン適応、罠探知 Lv.1
上昇したステータスはHPが10、MPが9、STR、VITが1ずつだ。前回のレベルアップと同じ結果になったのは同じような行動をしているからだろう。
レッドスライムの魔法を食らいまくればMNDあたりが上昇するのかもしれないが試したいとは思わない。他のステータスの成長には今後に期待といったところか。
そして今日、ついにレッドスライムに挑戦するときがやってきた。
いつも通りに小部屋からスライムたちを2回ほど釣り出した結果、部屋の中にはレッドスライム1匹とブルースライム1匹、グリーンスライム2匹という状態になっている。
そして、俺のHPもほとんどダメージを受けていない。
レッドスライム相手に1対1という形になっていないのは残念だが、レベルアップも果たしたことだしちょうどいい機会だろう。
本日3度目となる小部屋への挑戦でレッドスライムを相手にすることを決めた。
小部屋の中に入ると正面にスライムたちが陣取っているのが見える。正面にブルースライム、左右にグリーンスライム、後ろにレッドスライムという布陣だ。
俺がさらに中へと歩みを進めるとスライムたちが警戒を強めたのを感じる。
見ればレッドスライムが詠唱に入っているようだ。周囲に魔力か何かの揺らめきが見える。
だが、スライムたちとの距離はまだ10メートル以上ある。
今から突っ込んでも中途半端な位置で火の矢を迎撃することになるだろう。
ここは迎撃態勢を維持したまま慎重に近づこう。
スライムたちとの距離が5、6メートルほどになったところでレッドスライムから火の矢が放たれた。
バットを上段に構えて火の矢を正面から見据え、そのままタイミングを合わせてバットを振り下ろす。
衝撃とともにバットが弾かれ、身体が後ろに反らされてしまった。
すぐさま体勢を立て直そうとするが、距離を詰めて飛びかかろうとするスライムたちの姿が見える。
どうやら、火の矢とともにこちらに向かってきていたようだ。
「くっ」
飛びかかってくるブルースライムの攻撃を受け止めることを諦め、そのまま後ろに倒れこむようにして避ける。
遅れて飛びかかって来たグリーンスライムたちの体当たりを受けつつ、横に転がって距離をとる。
すぐさま起き上がり周囲に目を向ける。
左手にブルースライム、右手にグリーンスライム、その後方にレッドスライムだ。
「どうすべきか」
スライムたちを前に、バットを構えつぶやく。
壁役になっているブルースライム、グリーンスライムを先に潰すか、それとも厄介なレッドスライムを先に潰すか。
……やはり、ここは一番厄介なレッドスライムを先に潰すことを考えよう。
グリーンスライムあたりはレッドスライムを狙っているうちに勝手に巻き込まれて倒れてくれそうな気もするし。
そう結論を出し、レッドスライムの前に立ちふさがるグリーンスライムに向かって走り出した。
スライムたちは俺の正面に移動し、こちらの行く手を遮るように正面から体当たりを仕掛けてくる。
だが、俺の目的は突破なので腕を身体の前に交差して突破を図る。
腕に軽い衝撃を感じた後もさらに進み続け、レッドスライムの前に到達した。
「ふー」
ひとつ息を吐き出し、バットを正面に構えてレッドスライムと対峙する。
しかし、近くで見てみてもレッドスライムと他のスライムには色以外の違いが見られないな。
サイズはバスケットボールほどで接地しているときは球形が崩れ、色の奇抜なグミや饅頭のようにしか見えないところも同じだ。
それなのにこいつは火魔法を放ってくるという。
正直、俺の持っていたスライム観はすでに崩壊している。もともとネットの情報でも雑魚としか書かれていなかったので俺もそのイメージでダンジョンに挑戦を始めた。
その結果がこれだ。
最弱のグリーンスライムには嬲られ、レッドスライムには火魔法の洗礼を受ける。
ダンジョンへの挑戦を始めてから約2週間。第1階層の突破どころか小部屋の攻略すらできていない。
これもすべてスライムが悪い。雑魚なら雑魚らしく簡単に蹴散らせてくれてもいいのに。……まあ、結構な確率で俺の準備不足のせいだという気がしないでもないが。
どうやら敵を前に長いこと考えことをしすぎたようだ。
レッドスライムが魔法の詠唱に入っている。
さすがに目の前で詠唱をされて、それをみすみす見逃すほど俺は優しくない。
一気に距離を詰めて上段からバットを叩き込む。
だが、グリーンスライムが横からバットに向かって体当たりを加えてくる。
横から入ってきたグリーンスライムは今の一撃で横に転がっていったが、肝心のレッドスライムに攻撃が届いていない。
慌ててバットを構え直し、今度は正面からバットを突き込んだ。
だがやはりというべきか、横からもう1匹のグリーンスライムがバットに向かって体当たりをしてくる。
しかし、それは予想できていたので間に挟んだグリーンスライムごと突き込む勢いでレッドスライムへと突きを放つ。
「ぐっ」
突きを放った瞬間、背中に衝撃を受ける。
後ろを振り返るとそこにはこちらを狙うブルースライムの姿があった。
どうやら1撃目の攻撃をグリーンスライムに阻まれたタイミングで後ろに回り込まれていたようだ。
イヤな気配を感じて視線を前に戻す。
そこには頭上に火の矢を掲げ、こちらを狙うレッドスライムの姿があった。
「くっ」
慌ててバットを身体の正面に構える。
直後、バットに受けた大きな衝撃とともに後ろへと吹き飛ばされた。
宙を飛ばされて地面に落ちた衝撃が背中に響く。だが、防具のおかげで吹き飛ばされたことによるダメージはなさそうだ。
火の矢による攻撃では2割ほど削られたようだが。
やってしまった。レッドスライムに気を取られるあまり、ブルースライムのことが意識から外れていた。
バットを手に立ち上がりながら、そんなことを考える。
だが、グリーンスライムについてはさっきの攻撃でそれなりのダメージが入っているだろう。
ここからどういう風に立ち回るかが肝心だ。
視線を前に戻すとスライムたちの陣形は最初のものに戻っていた。すなわち、正面にブルースライム、左右にグリーンスライム、後ろにレッドスライムという布陣だ。
スライムたちはさらに奥へと移動したようでこちらとの距離はまた5、6メートルにまで開いている。
さて、どうするか。
面倒なレッドスライムを先に倒しておきたいのはそうなんだが、さっきのようなことが起きることを考えると先にまわりのグリーンスライムとブルースライムを倒しておいた方が後々の面倒がなさそうだ。
では、グリーンスライムたちから片づけることにするか。
そう決めると、右手にいるグリーンスライムに向かって駆け出した。
スライムたちがこちらに反応する。
だが、レッドスライムの保護を優先しているのかこちらに飛び出したりはしてこないようだ。
ならこのまま突っ込ませてもらおう。
右にいたグリーンスライムに狙いをつけてバットを突き入れる。
微妙に避けられてかするような形になったがまあいい。
そのまま上段からの追撃を加える。
そこでやっと別のグリーンスライムとブルースライムがこちらに向かって突撃してきた。
後ろに跳び下がってスライムたちの体当たりを避ける。
そしてスライムたちが地面に落ちた瞬間を狙ってバットを叩きいれる。
グリーンスライムは今の一撃で動けなくなったようだ。
ここはブルースライムを警戒しながらとどめを刺してしまおう。
そう決めてブルースライムからの体当たりを腕でガードしながらグリーンスライムへととどめを刺した。
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