第22話 釣り出し実験(2)

「もう少し休憩するか」


 そうつぶやいて、再び扉が見える位置に座り込む。

 小部屋から出てきたスライムたちは、俺にダメージを与えることなくすでに光となって消えている。


 しかし、あの火の矢にホーミング機能が付いていたのは予想外だった。最悪テキトーに走り回っていればレッドスライムの魔法もどうにかなるかとも思っていたんだが、それも潰された形だ。

 追尾される以上、対応は火の矢を受け止めるか撃たれる前に潰すかのどちらかだろう。

 とりあえず受け止めるものがバットしかない以上、しばらくは撃たれる前に潰せるように動くべきな気がする。どうしてもダメそうなら盾を持つことも考えないといけないかもしれない。



 十分に休憩をとったところで、再び小部屋の中へと足を踏み入れる。

 どうやら今度はすでに警戒態勢だったらしい。部屋に入った途端、部屋の中にいたスライムたちが一斉にこちらを向いてきた。当然レッドスライムも同様だ。

 ……まあいい、どちらにしても今度は奥にいるスライムたちが部屋から釣り出せるかを確認するのだ。気付かれるのが早いか遅いかの違いだけだろう。

 そう気を取り直し、奥にいるスライムたちへと向かって歩き出した。


 右の壁際にいるスライムたちに狙いを定めて歩く。

 このまま進むともう少しでグリーンスライム4匹と接敵しそうだ。

 バットを握る右手に力が入る。

 すると視界の隅でレッドスライムが火の矢を放つのが見えた。


「チッ」


 足を止め、バットを振りかぶって火の矢を迎撃する。

 衝撃とともに火の矢を相殺したことがわかる。

 だが、視界の隅にグリーンスライム3匹が飛び掛かってきているのが見えた。


 バットを戻して受け止めようとするが、間に合わず腕と腹に軽い衝撃を受ける。

 地面に落ちた3匹に向き直ると横から回り込んでいた最後の1匹が飛びかかって来た。

 少し後ろに下がり左腕で体当たりを受け止める。

 そのまま地面に落ちたグリーンスライムに対して右手で持ったバットを振るう。


 ダメージは与えたが、残りの3匹の動きが早い。

 すでにこちらに飛びかかってきている。

 バットを前に構え、ガードの動きをとる。

 2匹の体当たりを止めたが1匹は足にダメージを受けた。


 ダメージは少ないがやや押されている。ここは一旦距離を取るべきだ。

 そう決めると、地面に転がるグリーンスライムに1発入れ、バックステップで後ろに距離を取った。


「ふー」


 息を吐き出し、前方を見据える。

 3匹がまだ健在で1匹が地面に転がっている状態だ。

 転がっている1匹にとどめを刺したいところだが他の3匹が邪魔だ。


 真ん中のグリーンスライムが飛び掛かってくる。左右の2匹は様子見のようだ。

 バットを突出しグリーンスライムに合わせる。

 直後に左右の2匹も飛びかかって来た。

 左手をバットから放し、左のグリーンスライムの体当たりをガードする。

 右のグリーンスライムには強引にバットを振って対応した。

 ガードは成功したが、右のグリーンスライムにはバットではなく腕で殴りつけた形になってしまった。

 だが、ダメージは入ったようだ。今のうちに追撃といこう。


 壁際に転がった右のグリーンスライムに対して殴り掛かる。

 左手から別のグリーンスライムが体当たりしてくるが左腕でガードだ。


 右のグリーンスライムに2発ダメージを入れたところで左腕に衝撃を受けた。

 HPが結構な量削られている。どうやらレッドスライムの火の矢を受けてしまったらしい。

 左から体当たりを繰り返してくるスライムに隠れた火の矢を見落としたようだ。


 まだHPは8割ほどあるが、このグリーンスライムにとどめを刺したら一度部屋から出よう。スライムたちが釣り出せるか確認しなければいけないのだし。

 そう決めて、目の前に転がるグリーンスライムに対して両手持ちの一撃をくらわせて光に変える。

 そのままバットを振ってスライムたちをけん制すると、踵を返して小部屋から脱出した。



 小部屋を出てから5分ほど経過した。いまだにスライムたちは通路に出てきていない。

 これは失敗かと思い、小部屋に戻ろうとした時だった。

 ついに扉を擦り抜けてグリーンスライムが通路に顔を出した。


 それに安堵して足を止める。

 そのまましばらく待つと小部屋の中で相手をしていた3匹のグリーンスライムが揃った。

 どうやら部屋の奥にいようとこちらに対して攻撃判定を持ったスライムは通路に釣り出すことができるようだ。

 良かった。これであればレッドスライムに対してもどうにかなるかもしれない。

 実験の結果に気分を良くすると、そのまま一気にグリーンスライムたちを掃討していった。



「さて、どうするか?」


 壁にもたれながらつぶやく。

 時計を確認するとダンジョンに入ってからすでに1時間半近く経過している。

 小部屋の中にはレッドスライムが1匹、ブルースライムが1匹、グリーンスライムが4匹残っているはずだ。

 そして俺の残存HPは8割ほど。


「……帰るか」


 目を瞑り、しばらく考えて結論をつぶやく。

 今日の目的だった小部屋からのスライムたちの釣り出しが確認できた以上、無理をすることはないだろう。

 これからしばらくは小部屋からスライムたちを釣り出して通路で安全に倒してレベルアップを図ろう。もし、その過程でレッドスライムと少数でやりあえる機会ができれば挑戦すればいいのだし。

 そう結論を出し、ダンジョンを後にした。

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