第21話 釣り出し実験(1)
佐々木剣術道場から帰った後、車に積んでいた荷物を片づけてシャワーを浴びることにした。この後、ダンジョンに挑戦することを考えると無駄になる気もするが気分の問題だ。
シャワーを浴びてすっきりしたところで、防具を着込んでダンジョンへと出発した。
三度目となる小部屋へとやって来た。今日の目的は小部屋からスライムたちを釣り出すことができるかどうかの実験だ。
対複数戦闘に関して龍厳さんにも相談したんだが、とにかく大事なことは囲まれないことらしい。囲まれたとしても、龍厳さんくらいになれば駆け引きから相手を崩して突破することもできるらしいが俺には無理だ。
なので、小部屋の中に入って4、5匹を相手に対複数戦闘の訓練を実施、囲まれそうになったらそのまま通路まで後退。部屋から釣り出したスライムたちを掃討して次のスライムたちに移る。というのが今日の予定だ。
正直、部屋の奥にいたスライムたちを通路まで釣り出せるかどうかはやってみないとわからない。まあ、それも含めての実験なのだから気負わず、無理せずに行くことにしよう。
左手で扉を開けて部屋の中を見渡す。
昨日と変わらず10匹以上のスライムが思い思いに跳ねているのが見える。昨日5匹ほど削ったはずだが、その分もリポップして補充されたのだろう。というか、考えてみると調査の日に自衛隊の人たちが一度全滅させているはずなので今更だ。
扉から手を放し、部屋の中へと進む。
厄介なレッドスライムは今日も部屋の奥の方にいる。まだこちらに気付いてはいないようだが戦闘を始めると気付かれるだろう。レッドスライムの動きにも注意しないとな。
そんなことを考えつつ、まずは扉の右手にいた3匹のグリーンスライムを相手にすることに決めた。
バットを正面に構え、スライムたちとの距離を詰める。
通路で戦ったときのように相手の動きを制限することを考え、1番左のグリーンスライムに狙いをつける。左から攻撃を仕掛けて壁との間で動きを制限する作戦だ。
作戦通り1番左のグリーンスライムに向かって後ろからバットを叩き込む。
こちらに気付いていなかったため、問題なくバットが直撃する。
バットを構え直してスライムたちの様子を窺う。
1番左にいたグリーンスライムは今の一撃で動けなくなっているようだ。
だが、残りの2匹はこちらを向いて臨戦態勢となっている。
ひとまず、動かないグリーンスライムは置いておこう。
2匹のグリーンスライムが飛び掛かってくるが、焦ることなくバットで2匹の体当たりを受け止める。
スライムたちが地面に落ちたことを確認し、正面に落ちたグリーンスライムに向かって上段から力のこもった一撃を加える。
正面のグリーンスライムも今の一撃でしばらく動けないだろう。残りは右の1匹だけだ。
余裕ができたので周囲の確認を行う。
近くにいた数匹のスライムたちがこちらに気付いて移動してきているようだが、問題のレッドスライムはまだこちらに気付いていないらしい。
それを確認すると、目の前のスライムたちに向き合い、順番にとどめを刺していった。
3匹のスライムたちにとどめを刺した後、部屋の奥からこちらに近づいてくるスライムたちに目を向ける。
今度はグリーンスライムが3匹にブルースライムが1匹のようだ。
次いでレッドスライムの様子も窺う。
とどめを刺すときに結構な音がしたと思ったがまだ気づかれていないようだ。相変わらず部屋の奥の方で他のスライムとともにポンポンと跳ねている。
スライムたちに目を向けたまま壁沿いに移動し、左手と背後に壁が来るように位置取りを変えてスライムたちに向き合う。
スライムたちはブルースライムを先頭にこちらにやってくる。
先ほどのように壁を使って動きを制限することはできそうにない。ここは移動しながら敵をかく乱するように攻撃してみよう。
そう決めると、スライムたちとの距離を一気に詰めてブルースライムへと殴り掛かった。
突然の攻撃にブルースライムの回避が遅れたようだ。直撃ではないが、ダメージを与えた感触が伝わってくる。
そのままスライムたちの間を駆け抜けると、一番後方にいたグリーンスライムに対して振り向きざまに一撃を放つ。
不安定な体勢からの一撃はこちらの動きに反応できていなかったグリーンスライムに直撃した。
だが、威力は不十分だったようだ。まだ動きを止めるまでには至っていない。
バットを前に構えてやや後ろへと下がり、スライムたちを視界に収める。
すると、攻撃を加えていないグリーンスライム2匹が飛びかかって来た。
そのうちの1匹に狙いをつけてバットを突き出し、弾き飛ばす。
そのまま身体を回転させるよう動き、もう一匹の体当たりをかわす。
攻撃をかわしたことで、先ほど攻撃を加えたグリーンスライムの正面へと移動していた。
先ほどの攻撃で動きが鈍っているグリーンスライムに攻撃を加える。
直後にその奥からブルースライムが飛び込んでくるのが見え、バットを持ちあげてブルースライムの体当たりを正面で受け止める。
地面に落ちるブルースライムに攻撃を加える。
続けて隣で動きを止めているグリーンスライムにも攻撃を加え、2回繰り返したところでグリーンスライムは光となって消えた。
そのタイミングで位置を入れ替え、残りのグリーンスライムを視界に収める。
先ほどあしらった2匹のグリーンスライムはすでに攻撃可能な距離にまで復帰していた。
バットを正面に構えて攻撃に備える。
右のグリーンスライムが飛び込んでくる。一拍遅れて左のグリーンスライムも飛びかかってくるのが見えた。
バットを伸ばして右のグリーンスライムを弾くと、そのままバットを振りまわして左のグリーンスライムを打ち抜く。
続いてブルースライムが飛び込んでくる。
腕でガードしながら後ろに跳び下がる。
腕に軽い衝撃を残しブルースライムが目の前に落ちる。
だが、俺の目は部屋の奥から飛んでくる火の矢を捉えていた。
体の向きを変え、バットを振りかぶる。
衝撃とともにバットが弾かれた。だが、火の矢を相殺することはできたようだ。
視線を目の前のスライムたちに戻す。
ブルースライムとグリーンスライム1匹がこちらの様子を窺っている。先ほど打ち飛ばしたグリーンスライムは転がったままだ。
さて、どうするか。
今日の目的は、部屋の中からスライムたちを釣り出すことができるかの確認だ。レッドスライムに気付かれた以上、一度部屋の外に出るのもありだろう。
バットを構えながら考える。
そこで部屋の奥から火の矢が飛んでくるのが見えた。
「立て続けかよ」
一度部屋を出ることにしよう。
そう決めて、火の矢を避けるように扉へと駆けだす。
すると火の矢が俺の後を追うように軌道を変えた。
「はあ!?初期魔法っぽいのにホーミング付きってマジかよ!」
仕方なく足を止め、バットを構えて火の矢に備える。
構えたバットに火の矢が直撃し、衝撃によろけそうになるのを必死でこらえる。
だが、その隙にブルースライムとグリーンスライムが飛び掛かって来ていた。
「くっ」
腹部に軽い衝撃を受ける。ダメージは軽微だがうっとおしい。
バットを振るってスライムたちを振り払うと扉へと駆け、小部屋から脱出した。
「ふう」
扉を出て少し離れたところで一息つく。
予想通りであれば、しばらくするとブルースライム1匹とグリーンスライム2匹が出てくるだろう。
それまで少し休憩するか。そう考え、通路の壁を背に座り込んだ。
数分後、予想通り扉を擦り抜けてブルースライム1匹とグリーンスライム2匹が通路へと出てきていた。
立ち上がり、スライムたちに向き合ってバットを正面に構える。
厄介なレッドスライムはいないのだ。一気にけりをつけよう。
そう決めてスライムたちに向かって駆け出した。
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