第18話 小部屋初挑戦(2)

「はぁ……、はぁ……」


 小部屋から逃げ出した後、先ほどの戦闘で乱れた呼吸を整えるために扉から少し離れたところで座り込んだ。


「というか、スライムのくせに魔法とか卑怯だろ」


 ダンジョンの虚空に向かって文句を吐く。

 正直、レッドスライム以外のグリーンスライム、ブルースライムの大群だけであればどうにかなっていたと思う。だが、レッドスライムの魔法はダメだ。あれはやばい。

 HPが半分近くまで減っているが、大半があの火の矢によるダメージだ。

 あの火の矢に対する対策をどうにかしないと小部屋に挑戦するのは厳しそうだ。盾を持ってガードするか、レッドスライムまでの距離を詰めて魔法の出だしを潰すかといったところか。どちらにせよ、周りにいる他のスライムたちを相手にしながら対処することができるようになる必要がありそうだ。


 そんなことを考えていると扉の方からグリーンスライムがやってくるのが見えた。

 面倒に感じつつ立ち上がる。もう少しゆっくりと休憩したかったんだが。

 そう思いながら視線を扉の方に向けると扉を擦り抜けてブルースライムが出てくるのが見えた。


「ふぁっ!?」


 驚きのあまり、変な声を出してしまった。モンスターって扉を擦り抜けられるのかよ。

 そんなことを思っている間に通路にはブルースライム1匹、グリーンスライム3匹が出てきていた。

 先ほど部屋の中で相手をしていたのと同じ数だ。俺を追いかけて部屋の外まで出てきたのだろうか?

 何にしても好都合だ。先ほど倒せなかったうっぷんを晴らさせてもらおう。

 右手に持ったバットを強く握りなおし、スライムたちに向かって歩き出した。


 スライムたちへ攻撃可能な距離まで近寄ると、そのまま一気に右端のグリーンスライムへと殴り掛かる。

 グリーンスライムはいつも通り横に転がって避けようとするが、いい加減にそういう行動の予測はできるようになっている。グリーンスライムの動きに合わせてバットの軌道を変化させてバットを叩き込む。

 遅れて他のスライムたちが体当たりを仕掛けてくるが左腕でガードする。ブルースライムの一撃だけダメージが入ったようだが、気にせず目の前のグリーンスライムへの追撃を行う。

 動かないグリーンスライムへ更に3発のダメージを加えるとグリーンスライムは光となって消えた。

 そのまま残りのスライムたちへ向き直り、同じように1匹ずつ片づけていった。




「やっぱりレッドスライムがいなければ問題ないな」


 再び通路に座り込んで今の戦闘を振り返る。

 幅に制限のある通路で右端のスライムを狙って残りのスライムたちからの攻撃を左からだけに制限する。そのうえで攻撃を左腕でガードして右手に持ったバットでスライムへの攻撃を行う。

 この戦い方であれば、ダメージを抑えつつ多数を相手にすることができそうだ。


 小部屋の中の戦闘では周りにスペースがあったためにスライムたちをうまく抑え込むことができなかったが、その辺の立ち回りについては明日の稽古で相談してみよう。

 立ち回りさえどうにかしてしまえば小部屋の中でもレッドスライムの火魔法以外はどうにかできるだろう。やはり問題はレッドスライムをどうするかだ。


「そういえば、他のスライムも部屋の外におびき出せるんだろうか?」


 ふと思いついたことを口にする。

 先ほどのスライムたちは部屋の中で攻撃を加えてきた奴らだ。もう一度部屋へ入って適当な数のスライムに攻撃を加え、こちらに注意をひきつけてから部屋の外に出れば残りのスライムたちもおびき出せるのではないだろうか?

 レッドスライムの火魔法は脅威だがバットでも防げないわけではない。1対1、そこまでいかなくてもさっきの戦闘のように片腕で防げる程度の数にまでスライムたちの数を減らせれば、レッドスライムに魔法を使わせる前に潰すことができる気がする。


 そう考え、実際に試してみようと立ち上がる。

 だが、ステータスのHPを確認してその考えを改める。休憩したことで若干回復していたがHPが6割しかなかったのだ。

 部屋の中からスライムたちをおびき出すだけであれば大丈夫な気もするがここは用心しておこう。

 そう決断し、扉に背を向けてダンジョンの入り口へと歩き出す。


 結局、ダンジョンの小部屋への初挑戦はレッドスライムの魔法の前に退散という苦い結果で終わった。

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