第17話 小部屋初挑戦(1)
佐々木剣術道場から帰ると、昼食を済ませてからいつも通りにダンジョンへ入った。
ダンジョンの通路を歩き、初日に見つけた部屋を目指す。こちらの部屋は、2日目に見つけた部屋よりも小さかったのでおそらく小部屋のはずだ。
20分後、小部屋までの道順を記憶していたおかげで迷うことなく扉の前へとたどり着いた。途中でグリーンスライム1匹と遭遇したが、もはや1匹程度では問題にならなかった。
深呼吸をして左手で扉に触れる。右手に握った金属バットを強く握りしめ直し、左腕に力を込めて扉を押し開く。
前回と同様、異様なまでに重さを感じさせない扉は音もなく開いていった。
観音開きの扉の片方を全開にして小部屋の中を確認すると円形の部屋は学校の教室2部屋程度の広さであることが分かった。
扉から左手を離して小部屋の中へ入る。
扉が開かれたというのに部屋の中にいるスライムたちはこちらに一切反応していない。そのことを意外に思いつつ、さらに部屋の中へと歩みを進める。
不意に後ろから風を感じて振り向くと扉が音もなく閉じようとしていた。
それを見て、慌てて扉へと駆け寄る。まさかとは思うが、扉がロックされるなんてことになるとまずい。
しかし、その不安は杞憂だったようだ。確認した扉は、先ほどと同じように重さを感じさせることなくすんなりと開いた。
「ふぅ」
安堵の息を吐き、視線を部屋の中に戻す。
すると、扉の近くにいたグリーンスライム4匹とブルースライム1匹がこちらに気付いて移動し始めていた。
おそらく慌てて扉に駆け寄った時に音をたてて注意をひいてしまったのだろう。失敗した。
だがまあ、奥の方にいるスライムたちはまだこちらに気付いていないようだし、このままこいつらを相手に始めることにしよう。
そう決めると、その場でバットを正面に構えてスライムたちが近づくのを静かに待つことにした。
最初に動いたのは左から2番目のグリーンスライムだった。
2メートルほどの距離になったところでこちらに体当たりを仕掛けてくる。
他のスライムたちとはまだ距離がある。これならまずこいつを先に倒せるだろうか。
そんなことを考えつつ、バットでグリーンスライムの体当たりを受け止めて地面へと落とす。
そのままバットを振りかぶって追撃を加える。
しかし、2回殴りつけたところで他のスライムたちがすぐそばまで迫ってきていた。
目の前のグリーンスライムへとどめを刺すことを諦め、左端のグリーンスライムとの距離を詰めて蹴りを放つ。
残念ながら左端のグリーンスライムには、後ろに転がるように避けられてしまった。
しかし、牽制にはなったのだろう。残りのスライムたちの動きが止まった。
そのまま左端のグリーンスライムへと駆け寄りバットを突き込む。
グリーンスライムは回避行動から復帰できていないため体の中心に叩き込むことができた。
だが、俺の視界には右から残りのスライム3匹が飛び掛かってきているのが見える。
すぐさまバットを翻して攻撃を受ける体勢をとる。
しかし、バットは真ん中にいたブルースライムの攻撃を受け止めただけで、残りのグリーンスライムからは右腕と腹に攻撃を受けてしまった。
「チッ」
周りをスライムに囲まれつつあった状況を脱するため、ダメージを無視して右後方へと下がる。
スライムたちから距離をとり、周囲を確認する。
どうやら今の戦闘音で奥にいたスライムたちにも気づかれたようだ。こちらを見ている個体や、こちらに向かってきている個体が見える。
さて、どうするか。
ダメージは軽微なのでここにいるスライムたちにたかられながらでも1匹ずつ倒していけば倒しきることは可能だ。
しかし、それだと対複数との戦闘訓練を積むという当初の目的が果たせない。かといって、奥にいるスライムたちが追加された状態で戦闘をする技量はまだない。
そんなことを考えつつ目の前のスライムたちに注意を払っていた俺の視界に赤いものが飛んでくるのが見えた。
「!?」
驚いて飛んできた方向を確認するとそれは火の矢だった。
慌てて両腕で顔をかばう。
腕にスライムの体当たりとは比較にならないほどの衝撃が走った。
「ぐぅっ」
痛みに呻き声をあげつつ、顔を守っていた腕を下げる。
視線を火の矢が飛んできた先へと向けると、そこにはポンポンと跳ねる赤いスライムがいた。
「魔法使うのかよっ!」
レッドスライムからの遠距離攻撃に対して無駄な突っ込みを入れつつ、目の前のスライムたちに視線を戻す。
スライムたちはさっきの間に距離を詰め、いつでも飛びかかってこれる位置にまで近寄っていた。
まずはこいつらをどうにかしないと。意識をレッドスライムから目の前のスライムたちに切り替える。
目の前には3匹のグリーンスライムに1匹のブルースライムがいる。そのやや後方には先ほど突き飛ばしたグリーンスライムがおり、さらに後方には奥にいたスライムたちがやや距離をとってこちらを見ている。
バットを構えて一番近くにいたグリーンスライムへと殴り掛かる。
同時に他の3匹のスライムたちが飛び掛かってくるのが見えるが今は無視だ。
狙いを付けたグリーンスライムが横に転がり避けようとする。
それに合わせバットの軌道を横に変化させる。
バットはグリーンスライムへと吸い込まれるように叩き込まれた。
しかし、それと同時に横からスライムたちの体当たりを受ける。
ほとんど衝撃はないがHPは確実に削られている。HPを確認するとさっきのレッドスライムの攻撃と合わせて既に90を切っていた。
HPを気にしつつ、そのまま狙ったグリーンスライムに対して追撃を加える。
2発、3発とバットを叩き込むが、同時に他のスライムたちからの体当たりも受けている。
4発目を入れたタイミングでグリーンスライムが光となって消えた。
急いで他のスライムたちに向き直りバットを振るう。
ちょうど飛びかかって来ていたグリーンスライムに当たり後方へと弾き飛ばす。
しかし、レッドスライムの方から火の矢が立て続けに飛んでくるのが視界の隅に見えた。
「今度は2発かよ!」
無意味とわかりつつも文句を言ってバットで火の矢を迎撃する。目の前で飛び跳ねているスライムは無視だ。
2本の内、先に飛んできた火の矢にバットが当たり火の矢が弾ける。
バットから伝わる衝撃を腕に感じつつ2本目も同様に迎撃しようとする。
だが、2本目の迎撃は間に合わず火の矢の直撃を受けてしまう。
「がはっ」
胸に受けた衝撃で一瞬呼吸が止まる。
金属バット、というか物理攻撃で魔法が相殺可能だということが分かったのは良いが、ダメージが大きすぎる。ここは一旦出直すべきだ。
そう決めると、目の前のスライムたちをバットを振って蹴散らして扉へと駆けた。そして、そのまま体当たりするように扉を開けて通路へと逃げ出した。
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