第12話 レベルアップと課題(2)
レベルアップを果たした次の日、いつも通りダンジョンに挑戦していた。
モンスターのいない通路を見て、そろそろダンジョンの部屋に挑戦してみてもいいかもしれない、そんなことを考えながら。
おそらくレベルアップしたことで心に隙ができていたのだろう。十字路で見つけたグリーンスライムに殴り掛かったときにそれは起きた。
「はっ」
掛け声を出しながらグリーンスライムにバットを叩きつける。
するとグリーンスライムは転がって避けようとしたので、それに合わせて叩きつけたバットの動きを水平に変化させる。
しかし、バットはグリーンスライムの上部をかすめただけで終わる。
バットを構えなおし、まだ余裕のあるグリーンスライムに対して追撃を加えようとしたとき、背中に衝撃が加わった。
「ぐぅっ」
痛みに後ろを確認するとグリーンスライムがポンポンと飛び跳ねてこちらを見ていた。さらに周りを見回すと十字路の別の通路からもグリーンスライムが近づいてきているのが見えた。
「くっ」
不意打ちを受けたことに焦りつつ、後ろのグリーンスライムに向けて駆け出す。しかし、最初に見つけて攻撃しようとしていた1匹目のグリーンスライムが足に向かって体当たりをしてきた。
「うわっ」
駆け出そうとした足に攻撃を受け、前のめりに転んでしまう。
そのままうずくまる俺に向かって3匹のグリーンスライムが体当たりをしかけてきた。
腕で頭を守りつつ、次々に繰り出されるグリーンスライムたちの体当たりを受け続ける。
ステータスのHPを確認すると60を切っていた。
このままではまずい。そう思って右手に持ったバットをでたらめに振り回す。
するとバットからグリーンスライムを捉えた感触が伝わってくる。どうやら1匹は吹っ飛ばせたようだ。
体当たりを受けつつ、そのままバットを前に構えて立ち上がる。
視線を前にやると2匹が数歩の距離に、残りの1匹が通路の先の遠くに転がっているのが見えた。
目の前の2匹が同時に飛びかかってくる。
慌ててバットを水平にして2匹の攻撃を防ぐが、ステータスのHPを見るとわずかに減っている。どうやらバットでは完全にダメージを防ぐことはできないらしい。
ならばと、ダメージ覚悟で近くにいた1匹に狙いを絞って突きを繰り出す。
グリーンスライムは横に転がって避けるが、それは読んでいたので避けた方向にバットを振りぬく。
「ふんっ」
気合とともに振りぬくと、バットはグリーンスライムを完璧にとらえて通路の先へと吹っ飛ばす。
同じタイミングで反対側から体当たりしてきた別のグリーンスライムの攻撃に耐え、そちらを振り向く。
そして、すぐそばに着地したグリーンスライムに向かって上段からの振り下ろしを叩き込む。
攻撃の直後を狙ったので避けられることなく真芯でとらえることができた。
さらに3発追加で叩き込んだところで、グリーンスライムは光となって消える。
グリーンスライムが消えたことを確認し、すぐさま残りの2匹に視線を移す。
どうやらまだ吹っ飛ばした場所から動けていないようだ。
痛む身体を動かして近くまで駆け寄り、ダメージを受けて動きの鈍った2匹にバットを叩き込んで光へと変えていった。
「ふぅ」
残りの2匹にとどめを刺した後、周囲に他のモンスターがいないことを確認して腰を下ろす。
「今のはマジでやばかった」
通路の壁に身をもたれさせながらつぶやく。
何が悪かったのだろう?いや、考えるまでもなくレベルアップで調子に乗って油断していたことが原因だ。この程度でやられそうになっているくせにダンジョンの部屋に挑戦しようなんて自殺行為以外の何物でもない。
いくら不意打ちを食らった上に相手が3匹だったといっても最弱のグリーンスライム相手に殺されかけるのはやばすぎる。スライム程度であれば問題ないと思っていたが、ダンジョン産の防具を用意すべきだろう。
あと、通路で1対1の戦闘しかしていなかったせいで複数を相手にするのがうまく出来ていない。ダンジョンの部屋に入るのであればスライムに囲まれる状況を想定すべきだろうし、対複数の戦闘経験をもっと積む必要がありそうだ。
しかし、部屋に入らずに対複数の戦闘経験を積むことができるのだろうか?今日まで通路で複数を相手にしたことはなかったし、見つけたスライムを追い立てて複数が相手になる状況を作り出すか?
まあいい、その辺は防具を用意してから考えよう。
その場でしばらく身体を休めた後、明らかになった課題を抱えつつ慎重に周囲を窺いながらダンジョンを後にした。
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