第10話 ダンジョン初挑戦(2)
しばらく通路をまっすぐ進むと道が左右に分かれていた。それぞれの方向を覗き込んで確認してみるが特に何も見えない。
「さて、どうするか……」
独り言をつぶやきつつ腕時計を確認する。ダンジョンに入ってからまだ5分しかたっていないようだ。
「バットで決めるか」
そう言って、地面にバットを立てて手を放す。
コトッという音を立て、バットは左に倒れた。
左の通路を進み始めて少しするとヘッドライトの照らす光の中を緑色の物体が横切った。
バットを両手で持ち直し、緑色の物体が移動した方へ少しずつ進む。
すると緑色をした半透明の丸い物体が視界の中に入ってきた。
どうやら、スライムと遭遇したようだ。色から判断すると最弱のグリーンスライムと思われる。
そう思った瞬間、スライムの上に“グリーンスライム”という表示が現れた。
ちょうどいいので俺の初ターゲットになってもらおう。
そう決めて、バットを下段に構えながら慎重に距離を詰めていく。
どうやらまだ気づかれていないようだ。グリーンスライムはポンポンと小さく跳ねながら奥へと進んでいる。
グリーンスライムとの距離が5メートルを切ったところで一気に距離を詰める。
そしてバットですくい上げるように攻撃した。
しかし、攻撃は直前で気付かれ、わずかにかすっただけだった。
攻撃を外した俺は2メートルほど離れたところでグリーンスライムと向き合った。
グリーンスライムはその場でポンポンと跳ねている。
するとグリーンスライムがこちらに向かって勢いよく飛びかかってきた。
「うわっ」
驚きながらもバットを使ってグリーンスライムの体当たりをガードする。
しかし、グリーンスライムは地面に着地するや否やすぐに2度目の体当たりを仕掛けてきた。
「ぐぅっ」
再びバットでガードするが、先ほどよりも勢いがあったのかダメージを殺しきれなかった。
たまらず後ろに下がって距離をとる。
グリーンスライムはまたポンポンと跳ねながらこちらの様子を窺っているようだ。
「ふぅ」
ひとつ息をついてグリーンスライムをしっかりと見据える。
今度は外さない。
そう意気込みながら再びグリーンスライムめがけて駆けていき、ポンポンと跳ねているグリーンスライムに向けて上から叩きつけるようにバットを振り下ろす。
するとグリーンスライムは跳ねるのをやめて横に転がるようにして避けた。
「なっ」
グリーンスライムが転がって移動したことに驚きつつも振り下ろしたバットをそのまま横に振りぬく。
今度はうまくとらえることができたようだ。
ゴムのような感触を感じながらバットを振りぬくとグリーンスライムは壁まで飛んでいき、そのまま地面に転がる。
素早く距離を詰めるとグリーンスライムに振りかぶったバットを2度3度と叩きこんでとどめを刺した。
「思ったよりも手間取ったな」
光となって消えていくグリーンスライムを見つめながらそうつぶやく。いくら初戦闘だからといって最弱のグリーンスライムからダメージをもらうとは思っていなかった。
もっと簡単に1撃入れれば終わる程度に考えていたが実際には合計で4発、かすったものも含めると5発ダメージを入れなければいけなかった。
これは思っていたよりもダンジョン攻略は大変かもしれない。そう思いながら再び通路の奥へと歩みを進み始めた。
5分ほど進み続けると、今度は行き止まりに行きついた。前方の壁を触って確かめてみるが周囲と同じ壁のようだ。仕方がないので来た通路を戻り始める。
その後、入り口へと続く道を通り過ぎ、さらに5分ほど進むと再び分かれ道があった。今度は直進するか左に曲がるかの選択だ。
少し考えた後、再び左へ進むことを選択する。今日は左に進むことにしよう。何となくそう思った。
左へ進んでしばらくすると今度は十字路に行き当たった。ここも左に進もう。
左に曲がって進み続けると再びグリーンスライムに遭遇した。
今度はどうやらすでに臨戦態勢のようだ。こちらを見てポンポンと飛び跳ねている。
それを見た俺もバットを正面に構える。
じりじりとすり足で距離を詰めていくと向こうから飛びかかって来た。
それを見て、突きを合わせる。
今度は落ち着いていたためか、うまく当てることができた。
しかし、まだ致命傷にはなっていないようだ。少し離れた位置でグリーンスライムが起き上がるのが見える。
バットを正面に構えなおして慎重に近づく。
そして距離が詰まったところで、一気に距離を詰めて突きを放つ。
グリーンスライムは横に転がって避けようとするが動きが遅い。
突きの軌道をわずかに変え、グリーンスライムの中心に叩き込むことに成功した。
あとは吹っ飛んだグリーンスライムに近寄ってタコ殴りにすれば討伐完了だ。
今度も3発叩き込んだところでグリーンスライムのHPが尽きた。
どうやら今の俺の力ではグリーンスライム相手に5発入れる必要があるらしい。
その後、再び通路を進んでみたがまたしても行き止まりになっていた。運がないと思いつつ十字路まで戻る。
直進か左か迷ったが、とりあえず今日は左だと左に進むことを決めた。
左に進むと今度は長く通路が続いていた。
今度こそ正しい進路かと思い始めたころ、地面に違和感を覚えた。
何かあるのかとバットを使って慎重に地面を調べる。すると地面にバットを強く押し付けた瞬間、目の前の地面が消えた。
「うわっ」
突然力を加えていた先がなくなり、バランスを崩す。危うく目の前にできた穴に落ちそうになりながらも、手前の地面に手をついて踏みとどまる。
「落とし穴か。というか罠探知で罠を見つけるとこういう感じなんだな。頭の中で音がしたり、罠の場所が光って見えたり、もっとわかりやすいものかと思っていたんだが」
立ち上がりながらぼやく。まあ、罠に引っかからなかっただけましか、と思い直して目の前の穴を迂回して道を進み始めた。
10分後、俺は扉の前に立っていた。
3部屋あるという部屋の内の1つだろう。インターネット上で仕入れた情報からダンジョンの部屋には扉がついているということは知っていたが、実際に洞窟の中で観音開きの巨大な扉を見るとものすごい違和感を感じる。
ちなみに、扉が付いた部屋にはいくつかの形態があるそうだ。
単純に部屋としてスペースを区切っただけの大部屋、小部屋から、中に入ると扉がロックされて大量のモンスターが出現するモンスターハウス、そしてこのダンジョンの第4階層にあるらしい迷宮エリアにも同じように扉が設置されているらしい。
扉を前にしてそんなことをしばらく考えていたが、意を決して扉の片方に手を触れる。
徐々に力を加えていくと、扉は思っていたよりも重さを感じさせず開いていった。
慎重に開いた扉から部屋の中を窺い――、ゆっくりと扉を閉めた。
「……」
部屋の中には大量のスライムがいた。グリーンスライムだけでなく青いのや赤いのも。初めて見たがブルースライムとレッドスライムだろう。
現状、最弱のグリーンスライム相手にも時間がかかっている以上、上位種がいる部屋に侵入するのは無謀だ。
そこまで考えたところで時計を確認する。
気付けば、ダンジョンに侵入してから1時間以上経過していた。
行き止まりに行き当たっていたことを考えると少し早いがちょうどいい。今日の探索はここまでにしよう。
そう決めて通路を引き返す。
その後、ダンジョンを出るまでにグリーンスライム1匹と遭遇したが特に問題なく倒すことができた。
結局、俺のダンジョン初挑戦はグリーンスライム3匹討伐という結果で終わった。
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