第8話 準備(2)

 探索者講習の翌日、隣町にあるダンジョン管理機構のアイテムショップへとやってきた。ダンジョンへ挑戦するための装備を揃えるため、ダンジョン産の武器、防具にどのようなものがあるのかを確認に来たのだ。

 店の中に入ってすぐに大きな鎧と大剣が飾られた展示スペースが目に入る。この店の目玉商品なのか結構なインパクトだ。


 今日の目的は武器と防具の確認なので、まずは武器売り場を探す。どうやらこの店のレイアウトは右側に武器、左側に防具があり、奥側のレジカウンター近くにスキルスクロールや魔法道具となっているらしい。

 武器売り場に移動してみると映画で見るような長剣や大剣、槍、斧といった武器が壁や棚に展示されていた。

 近くにあった長剣に近づいて商品説明を読んでみる。どうやらこれはダンジョン産の“魔鉄の長剣”という武器らしい。

 ちなみに魔鉄というのはダンジョン産の金属で魔素を吸収した鉄のことで、上位の素材には同じように魔素を吸収した魔鋼や空想金属と言われていたミスリル、オリハルコンがある。

 これらのダンジョン産の金属を再現しようという試みもあったようだが、うまくいっていないらしい。そもそも、ダンジョン産の武器、防具については加工が一切できないようで、手を加えようとしても全く歯が立たないか壊してしまうかという結果にしかならないそうだ。


「武器をお探しですか?」


 長剣の説明を読んだ後、ダンジョン産武器について考えながら隣の大剣の説明に目を向けたところで横から声をかけられた。

 声をかけられた方を向くと白髪交じりの人のよさそうな顔をした50くらいの男性が立っている。胸には店長と書かれた名札がついていた。


「ええ。昨日探索者になったんですが、ダンジョン産の武器にはどういったものがあるのかと思って確認に来たんですよ」


「そうですか。この売り場にはダンジョン産の金属製武器を置いています。当店では魔鉄素材と魔鋼素材の2種類しか扱っていないのですが、それ以上のランクをお求めの場合でもお取り寄せという形で対応は可能です。金属製武器以外ですと隣の売り場に杖や弓が置いてあります」


 店長の言葉を聞いて隣の売り場に目を向けると、言葉通り木製の杖や弓が置かれている売り場があった。しかし、俺には魔法のスキルもなければ弓を扱う技術もない。残念ながら隣の売り場には用はなさそうだ。


「魔法のスキルも弓を扱う技術も持っていないので杖と弓はいいです。こちらにおいている武器を持ってみてもいいですか?」


「もちろんです。ですが、本物の武器ですので取扱いには注意してください」


 俺は店長からの了解を得て、先ほど見ていた魔鉄の長剣を手に取る。手に取ってみるとずっしりとした重さを感じる。軽く構えてみたが長い刀身を少し持て余すように感じた。

 他にも大剣や槍、斧を手に持たしてもらったがどれもしっくりこなかった。素人がいきなり扱ってもケガをするだけだろう。

 なので、ふと思いついたことを質問してみる。


「そういえば、武器のスキルスクロールはありますか?」


 そう、武器のスキルを取得すれば扱いなれていない武器も使えるようになるのではないかと考えたのだ。しかし、期待を込めた俺の質問はあっさりと否定されてしまう。


「申し訳ありません。現在、武器や魔法のスキルスクロールが品薄状態となっておりまして、在庫がない状態なのです。取り寄せようにも数か月はお待ちいただくことになるかと思います。補助系のスキルスクロールであればご用意できるのですが」


「そうですか。では今回はあきらめることにします」


 補助系のスキルスクロールであれば在庫があるようだが、戦い方も何も決まっていない現状では手を出すのはやめておいた。スキルスクロールの価格はランクごとに一律で、一番低い下級ランクでも120万円もするからだ。いくらお金があるからといって、使えるかどうかわからないものに120万円もの大金は使えない。

 ちなみにどういったスキルのスキルスクロールがあるのかを質問すると、店の奥からダンジョン産アイテムのリストを持ってきてくれた。

 このリストは今までにダンジョンから産出されたアイテムが全て記載されたものらしく、ダンジョン管理機構から定期的に発行されているらしい。すべてのアイテムが書かれているので物によっては在庫がないかもしれないが問い合わせれば確認して取り寄せてもらえるとのことだ。


 ダンジョン産アイテムのリストを受け取り、次に防具売り場へと移動した。だが、残念ながらこちらにもめぼしいものはなかった。さすがに金属製の鎧で探索には入りたくない。

 目当てにしていたレザーアーマーはないのかと聞いてみると売り切れているらしい。スキルスクロールと違ってこちらは取り寄せれば購入可能だと言われたが、結局防具についても保留することにした。


 やはり、ダンジョン産の武器、防具となると金属製の物が大半となるようだ。インターネットで調べた限りでは布製防具や革製防具もそれなりの数が出ているとあったのだが、これも探索者が減少してしまった影響なのだろうか。レザーアーマー以外にもあわよくば魔法のスキルスクロールを買って魔法を覚えてみたかったのだが。


 特にめぼしい装備を見つけることができなかったので、予定通り市販品で装備を揃えることに決めて店を後にする。ダンジョンの調査結果で1階層のモンスターがスライムであると聞いたときに考えていたものがあったのだ。

 車へと戻り、次の目的地である駅前のショッピングセンターに向かって車を走らせた。




 日曜日で混み合うショッピングセンターの中を歩きながら目的の店を探す。エスカレーター横のフロア案内で確認すると、目的の店は3階のようだ。

 そのままエスカレーターに乗って3階まで移動してフロアを歩く。

 しばらく歩くと店の前に到着した。店の前には春のスポーツフェアと書かれたのぼりが立っている。そう目的の店はスポーツ用品店だ。


 普段ろくに運動をしていない俺だが、高校までは野球をやっていた。なので、俺が扱える道具で武器となるものを思い浮かべて出てきたのが金属バットだったのだ。

 それにダンジョンで出てくるスライムは打撃攻撃も有効という話だ。であれば、扱ったこともない剣や斧を振り回すよりはよっぽど確実だろう。


 店に入り、商品が陳列された棚の間を抜けて目的の物が置かれたコーナーを目指す。野球用品のコーナーはテニス用品のコーナーを抜けた先にあった。

 金属バットが展示された棚の前に立ち、商品についている説明書きを読んでみる。だが、さすがにモンスターに対してどれが有効かなどはわからない。仕方がないので店員を呼んでおすすめの品を3本選んでもらった。

 3本のバットを軽く振らせてもらい、感触を確かめる。15年以上のブランクがあったがそれほどひどいスイングにはなっていなかった。

 その3本の中から一番しっくりきた黒のバットを選び、ついでに両手用のバッティンググローブも購入することにした。


 その後、店を出ようとしたところでヘッドライトの展示品が目に入った。店の入り口の右手には登山用品のコーナーがあり、それを見つけたのだ。

 ダンジョン内は薄暗く、慣れるまでは明かりが必要だと説明されたことを思い出す。

 会計を終えた後で申し訳なく思いながらも、再び店員を呼んで明るく長持ちするヘッドライトとヘルメットを選んでもらう。「夜間歩行にも最適ですよ」とは選んでくれた店員の言葉だ。

 結局、バット、バッティンググローブと合わせて3万円ほどの出費となった。



 スポーツ用品店での買い物を済ませ、ダンジョンに挑戦するための準備を終えた後は特に寄り道することなく家へと帰った。そして、明日からのダンジョン挑戦に向けて英気を養うため、いつもより早く眠りにつくことにした。

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