第7話 準備(1)
土曜日になり、探索者登録の講習会の受講日となった。佐藤さんも探索者登録の申請をすぐに行ってくれたようで、週の半ばには受講案内が届いていた。
講習会の会場に指定されていた市役所へと向かい、受付窓口で確認した会議室へと向かう。
人のいない室内で開始時間が来るのを待っていると、入ってきた講師から衝撃の事実が告げられる。講習会はまさかのマンツーマンだった。
探索者の資格は20歳以上の学生を除く男女に与えられているのだが、想像以上に“闇のクリスマス事件”の影響は大きいようだ。
正直、微妙な時期に登録に来たというのも原因だとは思うが、ダンジョンが他人事ではなくなった今となっては探索者が減少している事実は不安に思えてしまう。単に探索者の数を増やすだけであれば、資格の取得条件を大学生にまで広げれば良さそうに思えるが、それはそれで別の問題が出てきてダメなのだろう。まあ、そのあたりは数の不足を質で補ってくれるよう既存の探索者に期待するか、行政からの何らかのテコ入れがあることを期待するしかないのだが。
受講した講習内容についてはありきたりな内容だった。探索者の規則の説明から始まり、攻略時の事前準備の大切さや最近のダンジョン内での事故の傾向からの注意事項の説明、その後にダンジョンへ入退場する際の手続きの仕方と続いて、最後にダンジョンで入手したアイテムの取り扱いについての説明があった。
探索者の規則や注意事項は基本的に当たり前のことばかりだったが、1点だけ意外な事実が分かった。ダンジョン内では探索者同士の争いができないということだ。
規則として探索者同士の争いを禁じているのは当然だが、ダンジョンのシステムとして探索者同士で争おうとしても攻撃が無効化されるらしい。ただ、魔法によるフレンドリーファイアは有効らしいので、ダンジョンは個人の思考を読み取ることができるのかもしれない。そう考えると、ダンジョンに対して恐ろしさを感じる。
ダンジョンの入退場についてはICカードになっている登録証を使用して管理しているらしい。また、ダンジョンに入る際は退場予定時刻も申請する必要があるそうだ。退場時間を過ぎても退場手続きが取られていない場合、捜索隊が組まれるケースがあるらしい。俺の場合はダンジョンから出られなくなっても、心配する家族がいないのでしばらく放置されるかもしれないが。
ダンジョンで入手したアイテムについては、事前に調べて確認していた通り全て探索者の所有物となるらしい。ただし、金貨や銀貨、ポーション類以外の魔法道具などのアイテムはダンジョンエリアの外で使用することができないので、自分で使わないものはダンジョン管理機構に買い取ってもらうのが普通らしい。
また、アイテムの買い取り金額の資料が配られていたが、上級ポーションの買い取り金額がすごいことになっていた。なんでもアメリカでダンジョンから得られた上級ポーションを使用して植物状態だった人が回復したらしい。まあ、ダンジョンから得られるアイテムはほとんどが金貨や武器でポーションは稀らしいが。ましてや上級ポーションになると少なくとも30階層以上に行かないと手に入らないだろうとのことだ。
1対1の何とも言えない講習を終えた後、俺は無事に探索者としての登録証を受け取った。登録証はシンプルなデザインで探索者としての管理番号と名前が書かれているだけだった。
まあ、なんにしてもこれでダンジョンへ挑戦するための資格を手に入れたわけだ。うちのダンジョンを消滅させるのにどれだけの時間がかかるかわからないが、時間はいくらでもある。ゆっくりと自分のペースで進めていけば良いだろう。
そんなことを考えつつ、久しぶりの座学に疲れていた俺はそのまま食事を外食で済ませて帰宅することにした。
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