第3話 Eat me

ある日、鳥になった夢を見た。

夢の中の僕は世界中を飛んで旅する、小さな旅人だった。

鳥の僕は、いろいろな国を見て回っていた。いろいろな人も。

国民みんなが逆さまに生きている国、裁判の前に人を処刑する国、猫が二足歩行する国。自分を解剖し続ける人を見た。ずっと旗を掲げている子供も。僕はたくさんの場所に行って、たくさんの人を見て、そうやってずっと旅をしていた。

が、僕はある時捕まえられてしまった。案外あっけないものだった。石で殴打され、僕は本当にあっさり死んだ。じゃあ死んだから、夢が終わりというわけでもなく。なぜだか僕は、丸焼きにされバラバラに切り分けられても僕という意識のままだった。もう鳥の面影すら残っていないだろうに、それでも僕は終わらない。焼かれて切られて味付けされて、僕は綺麗にお皿に盛り付けられた。僕を食べたのは、ふわふわとした金髪の、可愛い女の子だった。その子は小さな口で一生懸命僕を頬張る。僕はもちろん死んでいるから、痛みなんてものはなくて。その子の舌は柔らかくて温かで、蕩けそうだった。だんだん僕という輪郭が曖昧になって、溶けていく。

最後のひとくち。女の子が僕をおしまいにしようとした時、僕はようやく目が醒めた。

チチチ、鳥の哭く声がして、窓から薄く光が差していた。朝だった。

ベッドのそばには白くまあるい骨箱がたたずんでいて、僕は夢の中の女の子がきみにそっくりだったということに、ようやく気がついた。

泡のようにこの世界から消えてしまったきみ。

どうしてきみだったのだろう。僕ではなくて。


「たべてほしかったな」


きみとひとつになりたかった。そうしたら、ずっとふたりで旅をする。きみが泣いたら、僕も泣いて、きみが笑えば、僕も笑う。食べてくれたら、きみが死んだ瞬間に、一緒に死ぬことだってできたのに。

ひとりになんて、しなかったのに。


コツっと蓋をあけてちいさなきみの骨を取り出す。抱き込むようににぎりしめて、僕はまたベッドに倒れ込んだ。しん、と冷えたきみの感触をてのひらに刻んで、世界から目を閉じた。

僕は今日もきみを抱いて、都合のいいエソラゴトを夢に見る。


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