それでも私は、あいつの事は好きではない

 上手くやってんかなぁ

 なんて思いながら部活の練習をしていたらミスが多くて怒られた。

 部活の顧問は矢継ぎ早にサーブを打っては部員はそれをレシーブしてトスして打ち返す。

 自分の番だ。綺麗な軌道で私に向かってきたボールはそのまま綺麗に私の顔面を打ち抜いた。

 あちゃー、やっちまったな。なんて顧問のうるさい叱責を右から左に流しつつ、全部あいつが悪い。私は悪くない。と自分を納得させる。

 そもそもあいつ、浅田が悪い。誰が見ても絶世の美少女と言うべき金髪碧眼スレンダーのあいつは、それに無自覚なのか無防備過ぎる。誰構わずに笑顔を振りまくから、勘違いした馬鹿な男子共があいつ目当てに近寄ってきては私が追い払った。

 何もそこまでする必要無くない?なんて皆は言うけれど、昔からあいつを見てきた私に言わせれば必要な措置だ。なんでこうも湧いてくるのか不思議でならない程あいつはモテる。学校内だけではない。外からも来るし、何なら大人の男性から告白されることすらあった。気もない癖にあいつは曖昧な返事しかしないから付きまといに変化するのもザラだった。それにモテる女子を良いように思う女子は少ない。イジメられる寸前までいった事も両手で数えられない。

 つまりあいつは危なくて仕方ない。少しは友人であるこっちの身になって自衛してほしい。あいつに近寄って来る男共を千切っては投げ千切っては投げていたら知らぬ間に女子公認のカップルになっていた。

 よく見ろ!私は女だ!この制服が見えんのか!っと愚痴る。それを笑ってやり過ごすあいつには腹がたつ。その度に弁当を分けてくれるので良しとするが。

「先生、すいません。保健室行ってきます。」

 と、言って体育館を後にした。保健室には向かわず屋上へと向かう。あそこからは土手が見える。きっとあいつは土手で高城を待っているだろう。アレの何処が良いのかわからない。ちょっと足が速いぐらいしか取り得ないだろって思う。

 屋上には先約がいた。吐く息が白い。それは直ぐに空気に溶けて臭いだけが残る。

「門田、てめえは部活じゃねえのかよ」

 口も悪いなこいつは相変わらず。

「テメェこそ先公にチクるぞ。不良が出てけ」

「屋上はテメェのもんじゃねえぞ。指図すんな、サボりが」

 まったく水野は変わらんな。こっちは女子だぞ気を遣えや。

「私は屋上に用があんだよ。テメェはタバコが吸いたいだけだろうが」

 と、言ったそばから水野は新しいタバコを口に咥える。舐めてんのかテメエ!

「別に俺が何処にいようが勝手だろうが」

「タバコが見つかったら私も怒られんだよ。良いから出てけよ」

「お前が先公にビビる玉かよ」

 もう切りが無いので私は水野の横に行ってフェンスに寄りかかる。

「そう言えば浅田はどうした?お前らはコレだろ?」

 と、小指を上げて茶化してきた。

「いつも一緒じゃねえの。浅田は帰宅部。今頃、土手だ」

「お前の彼女は帰りは待っていてくれねえのな」

「彼女じゃねえよ!それにあいつは今日告白するかもしれねえし」

「マジかよ……」

「お前、もしかして浅田が好きなのか?バカだな。もう一度投げられてえのか」

「言っとくが、あれはテメェの勘違いだからな」

「テメェの事情なんて知らねえよ」

 あの時何があったかは知らねえ。浅田がまた男に付き纏われて困っていると言われて駆け付けたら、浅田とコイツに倒れていた男がいた。私は問答無用でコイツを投げ飛ばした。柔道二段。たとえ男でも油断した素人なら投げられる。

「それにしても、誰か知らんがそいつは浅田と付き合って良いのかよ」

「その浅田がそいつのこと好きって言ってんだよ。私の出る幕じゃないさ」

「誰だよ、そいつは」

「浅田と同じクラスの高城。テメェが知ってんのかは知らねえが」

「あの高城ねぇ。知ってるよ。ある意味、有名人だよ」

「何だそれ。あいつに目立つ所なんて無いだろ」

「俺はあいつと同中だったからな。馬鹿だよ、俺より馬鹿」

「留年でもしたのかよ」

「違えよ。まぁテメェに言う義理はねえがな」

 何なんだ、高城という男は。こいつより駄目な男だったのか。今からでも止めに行くべきか。

「しかし、高城は浅田の事が好きなのかね。ちょっと興味があるな」

「はぁ~、うちの浅田に惚れねえ男はいねぇよ。身に沁みて知ってんからよ、私は」

「それはテメェが高城を知らねえだけだろ。それにあいつとはダチだからな。ちょっと気になるわ。見に行ってみんかな」

「ぶん投げられてぇのかテメェは!」

 と言い合いながら、私達は土手を見る。何でこんな奴と、と思いながら。

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