好きになったのが、お前なだけ
「にいちゃんの制服やるよ」
「別にいらない」
「遠慮するなって。どうせ僕は着れないから」
中学に上がる前、お前にそう言われてちょっと救われた気がした。どうしても俺はスカートが嫌だったからだ。
それでも親の手前、初めの頃はスカートを履いて中学に行ったものの違和感が拭えず、それで貰った男物の制服を着て中学に行った。
「やっぱりそっちの方が似合ってるよ」
と、お前はそう言って変わらず接してくれた。色々と言われていたのは知ってはいるけど、あえてそれには行動を起こさなかった。親とは不仲になったけど、まあそれは別にいい。
「八代さん。好きです、付き合って下さい」
なんて事情を知らない女子から告られる事もあったけど全てその場で断った。
運が良いことに胸はたいして成長せず、身体は丸みを帯びてはいるものの許容範囲。それより何よりお前の側に居られることが重要だった。
「浅田さんのことが好きなんだ」
と言ったお前には驚いた。マジかよ。と思わず口に出す。こんな自分より学校中の話題になったあの美少女に身の程知らずに惚れる様な男だったとは思わなかった。俺の知らない一面を見せられた気がした。
「やっぱり無理だよな〜」
上の空で口にするお前の姿は何処にでもいる男子と同じ様に俺の目には映って、
「まぁ、当たって砕けろよ。骨は拾ってやるからよ」
と、言ってやった。まさかそれを本気にするとも思わずに。
それからお前は土手で走り始めた。クラス対抗リレーの自主レンなんて言ってたけど、相変わらず馬鹿だな、それより早く告白でもして振られて来いよ、と思っていたけど、なんか呆れるぐらいに真面目に毎日走っているもんだから、たまには差し入れを持っていってやったりもした。
「ありがとう、八代」
と言って、渡したペットボトルをグビグビと飲む度に、お前の突き出た喉仏が上下に動き濡れたシャツから透けている鎖骨が俺とは違っていて、やっぱりこいつも男なんだよな、とあらためて感心してしまった。
俺とお前の関係は何なんだろうか、と近ごろよく考える。唯一無二の親友。互いにとってそれは間違いないはずだ。それは主に俺のせいな気もするが、ここまで続けば腐れ縁と言って良い気もする。
「高城くん、最近どう?」
なんて母親がたまに話し掛けて来るものの
「あいつは昔から変わんねえよ」
と、いつも通りに答えると
「そう、良かった」
なんて母親の口から溢れる。何でお前が気にすんだって、わかっていてもイライラしてしまう。
相変わらずこの世界は息苦しい。何で俺だけ、とは子供ゆえの視野の狭さなんだろうが、思っちまうもんは仕方ねえ。
それで屋上で新鮮な空気でも吸おうかと思って上がってみたらヤツがいた。バレー部の咲希とか言ったか、男より女の方から好かれていそうな奴で、ちょっと共感していたがよりによってあの浅田と付き合いがあるとは思っていなかった。
俺は惨めにも隠れて聞き耳を立てる。何で隠れなきゃならんのか、と自分に腹がたつもそこから離れる気も起きなかった。
「高城くん、いつも一生懸命走っているから運動部かなっと思って」
「へぇ何?もしかしてあいつのこと好きなの?あの高城をねぇ」
「きっとそうだね」
「うわっ何なのこいつ!そんなやつにはこうだ!」
といった会話が聞こえてきて情緒がぐちゃぐちゃになる。何だと!?高城の何処に惚れる要素がある?女々しさを煮詰めた様なヘタレだぞ。
と、思ったもののバレると気まずいのでその場から逃げ出した。
教室に戻ってもお前はいない。飽きもせずに今日も土手を走っているのだろう。久しぶりに顔でも出してやるか、と気持ちを切り替える。
学校の外へ出ると少し寒かった。季節の変わり目だ。もうじき冬が訪れる。遠い空の向こうに黒い雨雲が見えた。
あいつは傘を持っていなかったな。仕方ねえ。俺は土手でいつもあいつが休む河川敷の橋の下を目指すことに決めた。
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