第6話



村を逃げ出し5日が過ぎた…。


山道、峠道を歩いて来たが、やっと小さな集落が見えた…。


一軒の民家の扉を叩く…。


「北の方からやって来ました…天涯孤独な百姓の娘です。焚き木拾い、水汲み、子守何でもやります。食べ物か銭を少々戴けませんか?」


「駄目じゃ駄目じゃ、他所に食わす飯なぞねぇ」


「何でもやります…仕事ないですか?」


「悪りいが、間に合っとる」


引き戸をぴしゃんと閉められる…。


最後の家の扉を叩くとまだうら若い女房姿の女が出てきた…。


「そうかね…握り飯と干した魚ぐらいやれんが明日はこの子のお守りをしてくれんかね…明日は街まで野菜を売りに行くから助かるよ…今日は、こん家に泊まったら良いが…」


生まれて始めて他人に優しくされた…。


夜になり、ただ飯は申し訳ないと見様見真似で覚えた勝手仕事…子供を背負い晩飯の支度をふみは手伝う…。


芋を刻み、塩で煮て、味噌を練って、葱に添えた…。


久々のご馳走と若い夫婦に感謝して、ふみは、納戸で床につく…。


母屋では、若い夫婦が話している…。


ふみが寝たかと何やら話している…。


「あの娘、顔は泥汚れだったけど、ひと目で器量良しだと判ったで…」


女房が亭主に話し掛ける…。


「おぅ…顔を拭いたが綺麗な顔じゃ…」


「ありゃ、騙して売ろうかね?」


「まだ年端も行かねぇおぼこだべ…こりゃ高値で売れるだな…」


聞き耳立ててた訳では無いが、ふみは、ちょっとの話し声でも目を覚ます…。


庄屋の家でそうなっていた…。


売られる?


また、誰かに虐げられる…。


やっぱり、おらは禁忌の子…優しくなんて夢だった…。


ふみは夫婦が寝静まる頃を図って逃げ出した…。


暗い夜道を走って走って…小さなお堂に辿り着く…今夜はここで寝かせて貰おうと観音様に手を合わせ、ふみはやっと眠りについた…。


小鳥の鳴き声で目を覚ます…。


もう、煎餅も味噌も無い…。


来た道戻る訳にもいかず、ふみはまた、西へ向かって歩き出す…。


山道は険しいが、あけびやザクロで飢えを満たす…。


秋深む…直に聞こえる霜の声…。


これより寒くなる前に、住み着く場所を探さなきゃ…。


街で仕事を探そうとふみは西へ南へ迷いながらも歩いて行く…。


庄屋の家から逃げ出して、もう、かれこれ、ひと月余り…ふみは疲れて今日もお堂で泊まる…。


菩薩様に手を合わせ、お供えものを分けて頂き、川原に出ると小枝で魚を掬い上げ、何度も何度も掬い上げ、やっと捕らえた一匹を、お堂で灯るロウソクの小さな火を藁に移し、種火につけて、焚き火をし、1日掛かりで魚を喰らう…。


食える野草を生で食い、街へ街へと歩んで行く…。


ふみは数えで直に13歳になる…。


季節はもう冬…川原で身体も洗えない…。


フラフラ歩き、やっと古びた一軒の山寺に辿り着く…。


そこには、老いた僧侶がひとり、門前に倒れたふみを見つけ、中へ運び、粥を食わせる…。


「御仏のお導きじゃ…」

 

ふみは寺で介抱される…。


本当に本当に救われた…有り難いお坊様だとふみは感謝で寺で過ごす…。


飢餓で痩せた身体も戻り、さて、これからは、お寺の掃除や洗濯や食事の用意で恩返し、老いたお坊様の役に立とうと働き出す…。


しばし後になにやら腹が、重くなり、見ると股から赤い血が流れ出てきて大変と、お坊様に、これは病か何事かと伺うと、僧侶はふみに教えてくれた…。


「お前は幾つになったのか?少し早いがそれは月のものじゃ。晒で押さえて暫く寝てなさい…これでお前も女になった…これでお前は子が産める…」


ふみは、言い付け通りに横になり、三晩、四晩と過ぎ去れば、経血は止まり、腹の重さも治まった…。


「これからは、月ごとにやってくるのが月のもの…心配せずとも、病ではないぞよ…」


「しかし、ここは、山寺で老いたとは言え男の僧侶…女に成ったお前を置く訳にもいかなくなった」


「丁度、檀家の知り合いで、奉公人を探してる…お前はこれからそこへ行き、一生懸命働けよ…」


ふみは黙って頷いた…。

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