第51話 ウェブ小説特有の安易な擬人化

「それでは、魂の査定結果を発表します。まずは、周防1812ポイント。宇藤2677ポイント。榎本1410ポイント。合計5899ポイントです」


「うわあ、なんとも微妙にキリが悪い数字だ……」


 4桁いってるだけでもかなり凄い人たちだ。これで悪人じゃなかったら、どんだけ才能ある人物だったんだろう。その才能を人々の役に立つことに使っていれば、もっと違う未来。ううん、もっと美味しい魂に仕上がったのに残念。


「まあ、元々の所持SPと併せれば約6000ポイント使うことができます」


 それでも6000ポイント……ワタキセイグモの強化でかなり持ってかれたから元の所持SPが少ないんだよね。でも、6000もあれば結構なことができる。


「それでは、一旦は消費SP6000以下に絞ってできることをまとめてみましょう」


〇ダンジョン拡張

 ・第2層拡張……5000SP


〇素材強化

 ・ハーブ栽培効率アップ……800SP

 ・ハーブ香りアップ……100SP

 ・ハーブ効力アップ……2500SP

 ・ワタキセイグモ戦闘力強化……700SP

 ・ワタキセイグモ繁殖力強化……1200SP

 ・死爵イモ栽培効率アップ……2000SP

 ・コウキンコオロギ繁殖力アップ……800SP

 ・トラップ植物繁殖力アップ……500SP

 ・トラップ植物感知範囲拡張……2000SP


〇モンスター強化

 ・花粉耐性付与……700SP

 ・戦闘力アップ……1000SP

 ・知性アップ……900SP

 ・属性攻撃耐性付与……1200SP


〇ガチャ

 ・新規モンスター追加ガチャN……100SP

 ・新規モンスター追加ガチャR……2000SP

 ・新規モンスター追加ガチャSR……5000SP

 ・新規素材追加ガチャN……50SP

 ・新規素材追加ガチャR……2200SP

 ・新規素材追加ガチャSR……6000SP


「うーん、6000ポイントじゃURガチャは引けないかー」


「ガチャ引くつもりだったんですか」


「まあ癪だけど、デビルバニーガールが来てからSPの獲得量が増えたのは事実だし、ある意味でガチャで当たりを引いた経験があるからねえ」


「まあ、ガチャは余裕がある時に回すのが賢いやり方だと思います」


 篠崎さんが正論を言う。確かに、今は安定した戦力が欲しいところではある。エージェントビオラが率いてきたパーティ。あれに第3層の侵入まで許したのは、ちょっと痛かったかな。


「とりあえず、今度は第3層の強化をしたいと思うよ」


「ほう、その理由はなんですか?」


「正直言って第1層はもうあれで十分完成されていると思うんだ。多くの探索者が勝手に罠にかかってくれるなら、それ以上の強化は必要ないかな。あんまり第1層に戦力過多にしすぎるのも良くないと思う。第1層で探索者が窮地を感じすぎた場合は、出口がすぐそこにあるから撤退判断をされる可能性が高まる」


「まあ、確かにそうですね」


「探索者が撤退判断をするなら、できるだけ遅い方が、奥の方を探索している時にしてくれる方が良い。その方が帰還するのにも困難になるからね。つまり、第2層、第3層で撤退判断して、第1層に戻ってきた時に狩り取るっていう構造にもできる」


「ふむふむ、一理ありますね」


 第1層を強くした方が良いのは間違いない。けれど、強くしすぎるのも撤退判断を早めにされてしまうリスクがある。難しいところだなあ。


「だから、私は……強化することに決めた!」


「なにをですか?」


「それはずばり、第2層のフロアボス! 樹の精だよ!」


「はあ……あれを強化しようがあるんですか?」


「まあ、現状だと花粉をまき散らすだけのモンスターだし、身動きができないのは大きなマイナス点だねえ」


「汎用的なモンスター強化だけではなくて、個別の強化も見てみましょうか」


「うん」


〇樹の精強化

 ・若返り……2200SP

 ・歩行可能……2400SP


「うわ……消費SP高すぎ。若返りってなに?」


「えっとですね。カタログサイトの説明文には以下のことが書かれています」


【樹の精を全盛期の状態に戻す。彼の全盛期は修羅樹しゅらじゅと呼ばれた程の猛者で1秒間に16発のパンチを放てる最強の拳闘戦士だった】


「多分だけど、これ若返っても歩行可能にならないと強くならないよね?」


「そうですね。移動できなかったら折角のパンチも当たりません」


「ってことは、修羅樹として覚醒させるためには4600ポイント必要? うわあ、残り1400ポイントじゃん」


 結構痛い消費だなあ。榎本を3人殺してもギリ足りないくらい。


「まあ、モンスターのSRガチャ1回分と考えればいいかと思います」


「なるほど。強化された樹の精にSR級の価値があると考えればむしろ若干安いくらいかなー」


 そう考えるとそこまで大したことないように思えてきた。消費SPも榎本も。


「うーん。まあ、そうだね。樹の精を強化しよう。私のやりたいことも残りのポイントでできるし」


「やりたいことですか?」


「うん。前に日下部の戦いを見てちょっといいなって思ったことがあったんだ。まあ、それはおいといて……樹の精を強化っと」


 カタログサイトに早速樹の精の若返りと二足歩行化を申請した。これで強化されたはずだ。


「ねえ、篠崎さん。ちょっと樹の精がどうなったか見てみようよ」


「ええ。そうですね」


 というわけで、私たちは第2層へとやってきたのだった。


 第2層には見慣れない人が……人……? なんで人型のモンスターがいるの?


「おお、ルネ様か。はっはっは。どうだ、なんか知らんが、オレが全盛期の力を取り戻したみたいだ」


 身長が180センチメートル程の大きくて細マッチョの爽やかイケメンがそこにいた。肌の色は茶色く焼けていて、そこだけなんか樹っぽい感じがする。


「えっと。樹の精だよね……?」


「ああ。種族名はそうだが……今のオレのことはシュラとでも呼んでくれ。シュッシュッシュ」


 なんかシャドーボクシング始めたよ。この樹。


「いやー。若い体っていいな。久しぶりに誰かを殴り殺したい気分だ。早く探索者のクソヤロウ来ないかな。チクショウ」


 口悪い上に血の気が多い……元の温厚そうなお爺さんはどこに行ったの。いや、元はこっちの方か。歳を取って丸くなっただけで。


「えっと。シュラ君でいいのかな? もうちょっと強化を施したいんだけどいいかな?」


「お、いいねえ。どんな強化を施してくれるんだ?」


「それは属性攻撃付与だよ。篠崎さんカタログサイトを見せてあげて」


「はい」


 篠崎さんがシュラにタブレットを見せる。しかし、シュラは首を横に振った。


「悪い。オレは機械の類は苦手なんだ。デジタルとか見るだけで吐き気がする」


 そこは普通に年寄りなんだ。


「じゃあ、どんな属性攻撃を付与して欲しいか希望はある?」


 日下部の電撃バチバチと冷気キンキンのあの攻撃を見ているとウチのダンジョンにもそういう属性攻撃の使い手が欲しくなってしまった。


「うーん。そうだな、やっぱり、おとこは黙って燃える炎だ! オレの熱血の拳を探索者に叩きこんでやるぜ!」


「あ、うん。篠崎さん。お願い」


「はい。火属性攻撃付与でよろしいですね。では、申請します」


 申請してしばらく経つと樹の精もといシュラ君が急に光り出した。


「お、おぉ!! キタキタキタキタキタァー!」


 シュラ君の拳が真っ赤な炎に包まれる。わあ、本当に属性攻撃がついた。


「ははは。ルネ様。こんな年寄りにここまでしてくれて本当にありがとう。このお礼は探索者をこの土に還すことで返すからそれまで待っててくれな!」


「うん。期待している」


 なんか、この選択が正しいのかどうかよくわからない……けれど、まあ。花粉撒いて蜂で襲うだけよりかは強化されたと思う。後は実戦でどれだけやってくれるかだねえ。

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