第47話 主人公って誰だっけ?

 火炎放射器を使う大男が守っていた部屋に入ると、そこには色んな機械が置かれていた。魔界には機械の類がないから、私には全くこれらが何に使うものなのかはわからない。けれど……榎本は躊躇することなく、鉄パイプで機械をガシガシと叩き始めた。


「オラァ! このクソがァ! お前のせいで……! お前が……!」


 とにかく、鉄パイプで滅多打ちにする。


「ほら、太陽! お前も手伝え!」


「あ、はい」


 神木君も魔界樹の木刀で機械をバチコチと叩き始めた。魔界樹の木刀は鉄にも匹敵する硬度を持っているため、機械をボコボコにできる。


 景気のいい音がネコのぬいぐるみを通じてここにも響いてくる。金属が響く音が妙に気持ちが良い。


「あははははは。気持ちいいなあ! 太陽!」


「ええ。これはいいストレス発散になりますね」


 やっている当人たちも楽しそう。私もあの場にいたら、ボコボコにしてやるのに。


 そんなこんなで機械を思う存分に破壊した2人は満足気な顔をして息をついている。


「よし、これくらいやればいいだろう。太陽。逃げるぞ」


「はい!」


 榎本と神木君が部屋から出て、元いた場所に引き返していく。一方で、階段で日下部と銃を持っている女が交戦をしていた。


 女が銃を撃つ。それを日下部が双剣で防ぐ。


「くっ……弾切れか」


 女は銃をカチャカチャと弄り始めた。弾の補充とやらをしているのかな?


 女がなにかやっている間に、日下部は双剣を頭の上に持ち上げて、その2つをキンキンキンキンと打ち付けた。


 右手に持っている剣からは電気がバチバチとして、左手に持っている剣に水滴がついてそれが凍っていく。


 キンキンキンキンキン! バチバチバチバチ!


「これは……打雷石だらいせき打氷石だひょうせきを使った武器ですね。この両者は打たれることによって、それぞれ電気と冷気を発生させる」


「へー」


 翠華君が解説をしてくれた。一応、私も魔界出身だからその2つの石の存在は知っていた。でも、それが人間の手によって回収されて武器として利用されているなんてねえ。


 …………私は別にここにいて戦ってないし、解説も翠華君がやってくれる。なんか、私ここにいる意味があるのかわからなくなってきた。


「超電導波ァ!」


 日下部の双剣から電撃がバチバチと光り、それが銃を持っている女に伸びていく。女はその電撃を食らってその場で失神した。もう勝負はついたのかな?


「おっす。日下部。丁度終わったところだな」


「榎本。神木君。そっちも無事か」


「ああ。どうやらこの工場には、周防も宇藤もいねえ。周防は事務所の方でデスクワークをしているだろうけど……宇藤は研究室の方にいるかもしれねえ」


「榎本。どっちを先に叩く?」


「周防の方が逃げ足が早そうだな。先に事務所にいるであろう周防を叩くぞ」


「ああ」


 なんか話がまとまったみたい。榎本、日下部、神木君、ネコのぬいぐるみは工場を出て、事務所の方へと向かっていった。


 事務所にいる人間たちは突然の襲撃者になんか慌てふためいている。榎本たちは真っすぐと周防がいる部屋へとやってきた。


「お前たちか。襲撃者は……何者かはあえて聞かない。これから喋りたくなるような目に遭うのだからな」


 なんか豪華な装飾の机と黒い皮の椅子に座っている白髪まじりのおじさんがいる。そのおじさんが周防なのかな?


「よお。周防。オレはお前をぶち殺しにきたぜェ。恨まれてる自覚はあるだろォ?」


「ああ。恨みなんて売るほどあるだろうな」


 周防は葉巻に口をつけて火をつけた。そして、それを吸った瞬間……体が急に大きくなった。


「な、なにあれ……」


「あの葉巻の中にドーピングが仕込んであったようだなァ。油断するなよ太陽。お前も戦力としてカウントしてやるけど、魔界樹の木刀が効くような相手には思えねェ」


 確かに魔界樹の木刀は、銃火器や電子機器を阻害する効果は持っている。けれど、自然由来のものや魔界にある素材、純粋なる肉体に対しては何の効力も発揮しないっぽいね。ってことは、ただの強めの木刀……?


「自らをクスリ漬けにするとは……正気を失ったのか?」


 日下部が呆れている。確かに、話によるとドーピングは心身共に破壊する副作用がある。しかし、日下部の言葉に周防はくっくっくとわざとらしく笑った。


「私がそんな間抜けなクスリを使うわけがないだろう。私が吸ったのは、その副作用を極力抑えた完璧な代物。保存期間や製造コストに難があり、実用化や商品化はされていない。だが、効力は高く、副作用の弱点も克服している高級品なのさ!」


 周防が机を蹴飛ばす。次の瞬間、その机が爆発して、部屋の中が煙に包まれた。


「くっ……机の中に爆弾を仕込んでいた……? 襲撃者対策は万全ってことかァ?」


「うわあ!」


 こちらもネコのぬいぐるみの視界からは何も見えない。けれど、なにか悲鳴が聞こえる。


「うわああ」


 子供の声。これは神木君だ。


「太陽! ……く、何が起きているのか煙で見えねえェ」


「がは……」


「ふふっ……まずは1人だ。安心しろ。相手は子供だ。殺してはいない。ただ、確実に戦力を削るために弱そうなやつから狙わせてもらったよ」


 なんて卑劣なやつ。モンスターの私でも子供に手出しなんてしないのに。これが人間のすることなの……?


「さあ、榎本。日下部。次はどっちを始末しようかな」


「いいや、始末されるのはお前だァ!」


「ごふ……な、なに……なぜ私の姿が見える……」


 ネコのぬいぐるみ視点では何が起きているのかわからない。けれど、周防が榎本にやられたっぽいのは確かだ。


「ふん。探索者の勘の良さを舐めるなよ。ダンジョンによっては光が届かなくて、夜目が効いてないと踏破不可能なものがある。煙の中でわずかに見えるシルエット。それだけで、オレにとってはターゲットとして十分なのさァ」


 なんかよくわからないけど、やってくれたみたい。


「お、おのれ……き、傷が……」


 ほら、窓を開けて換気してやるよ」


 榎本が窓を開けたっぽい。そこから爆発の煙が外に逃げて視界がクリアになっていく。


 そこには、腹部を刺された周防の姿と横たわっている神木君の姿があった。


「神木君。無事か?」


「う、うーん。目まいがする」


 神木君の頭には大きなコブができている。人間は頭が弱点でそこを強く打ちつけると最悪の場合、死に至ることもある。


「日下部。お前は太陽を医者に連れていけ」


「榎本。お前は?」


「オレはまだ用があるやつがいる。そいつをぶっ倒して、周防と一緒に例の場所にぶち込んでやるのさ」


 例の場所。私のダンジョンのことだね。ちゃんと約束を守ろうとするなんていい心がけじゃない。


「でも、こいつ、出血がひどくてそのまま死にそうだぞ」


「ああ。そうだな。とりあえず止血だけでもしておくかァ。ちょっとした延命治療だ。後、2、3時間くらい持てば大丈夫だろう。行くぞ、ネコ助」


「あいあいー」


 榎本はネコのぬいぐるみと一緒に再び工場の方に戻っていった。今度は宇藤の方を倒すつもりなんだ。


「ネコ助」


「ん?」


「周防は商品化されてない強力なドーピングを持っていた。ってことは……これから、相手をする宇藤。そいつは、それと同じか……もっと強力な試作品を持っている可能性が高い」


「そうだニャ」


「周防は不意打ちでなんとか倒せたけど、真正面から戦ったらオレでもどうなっていたかはわからねェ。宇藤を相手にするってことは……命の危険を覚悟するってことだ」


「うう……脅しかニャ?」


「まあ、逃げたくなったらいつでも逃げろ。最悪、オレ1人でもやってやらァ」


「まあ、逃げるつもりはないニャ。ボクをダンジョンの外に連れだしてくれたご主人と共に戦うニャ」


「そうか……」


 なんか榎本がふっと不気味に笑ってる。

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