第46話 工場潜入

 榎本たちは工場の敷地内に潜入が完了したっぽい。工場のドアにはなにやら変な機械みたいなものが取り付けられている。


「これはカードリーダーだな。専用のカードがなければ中には入れない……か」


「ああ。抜かりはない。しっかり、入手済みだぜェ」


 榎本が変な窪みがある機会にカードを差し込むとガチャって音がした。そして、ドアを開けて工場の建物内に侵入した。


「よし。ここからもきちんとオレについて来いよ。ここは奴らにとって最重要な拠点だァ。非合法な組織の用心棒がウロウロしていることだろうぜ」


「ああ。神木君もしっかり付いてくるんだぞ」


「はい。おじさん」


 榎本の後を付いていく残りのメンバー。榎本がどこに向かっているのか。それは作戦を聞かされていない私にはわからない。


 工場にある階段を上り、2階へと向かう……途中で榎本が止まった。


「待て……2階に巡回中の警備員がいやがる。ここは素直に待つぞ」


「え? 倒さないの? おじさんたち強いんでしょ?」


「警備員がこっちに気づいた瞬間にブザーを鳴らす可能性がある。そうしたら援軍を呼ばれて、流石のオレでも対処しきれないだろうよ。それにオレたちはダンジョンで通用する装備しか持ってねェ。それに対して、ここはダンジョンじゃないから銃火器は使いたい放題だ。非合法な組織なら銃火器は標準装備だろうよ」


 銃火器。私は見たことないけれど、もしこれがダンジョン内でも使えてたとしたら、モンスターはあっと言う間に制圧されていたレベルでパワーバランスがひっくりかえるほどのものだと聞いたことがある。そんなヤバい武器を持っている相手に立ち向かうなんて、命知らずだなあ。


「よし……巡回中の警備員が視界の外にはずれた。このまま死角を通れば目的地につく」


 榎本が進行の指示を出した瞬間だった――


 バァンという音と共にカキンと金属が弾く音がした。


「うお……あ、危なかった」


 日下部は両手に剣を持っている。右手に持っている方の剣に焦げ跡がついていて、私にはなにをされたのかわからない。だけど、階段の下の方に銃を持った女がいるのが見えた。


 そして次の瞬間。工場内にジリジリイイイと警報音が鳴り響いた。


「まずい。オレたちが潜入したのがバレた」


「榎本。お前は神木君とネコを連れて先に行け。僕はこの銃を撃ってきた女の相手をする」


 日下部は両手に持った剣を構えて女を睨みつけている。


「大丈夫なのかァ? 相手が銃を持っているなら遠距離武器を持っているオレの方が……」


「大丈夫だ。それに目的地までのルートを知っているのはお前だけだろ」


「それもそうだなァ。よし、神木行くぞ」


「で、でも……日下部さんが」


「日下部なら大丈夫だろ? 知らんけどなァ。ハッハッハ」


 笑いごとじゃない状態なのに笑っている榎本。神木君と一緒に走り始める。視点の動きからネコのぬいぐるみもそれについていっているみたい。


「ねえ、翠華君。ここから先どうなると思う?」


「榎本たちが侵入しているのが工場全体にバレた。それはまずいことでしょう。きっと、工場にいる人たちも撤収を始めてるかもしれません。宇藤や周防を含めて」


「えー……」


 それは最悪の展開だなあ。私がただ無駄にSPを消費しただけになっちゃうじゃない。投資した分はきっちり払ってもらわないと。


「こらー! 榎本ー! 根性入れてがんばんなさいよー!」


 一方その頃の榎本たちはあるドアの前に立っている全身スーツに身を覆った大男と対峙していた。大男は手には大きな重火器を持っていてそれを榎本たちに向けていた。


「オマエ、ナニモノ。シンニュウシャ?」


「そこをどけ。死にたくないのならなァ」


 榎本が手裏剣を投げる。それが大男のスーツに刺さるも……刺さっただけで大男にはダメージがなさそうである。


「オレ、ココ、マモル。ソレダケ」


 大男が手にしている重火器を向ける。そこから炎が勢いよく噴出する。榎本はその炎を寸前のところで回避した。


「うお……なるほど。これは魔界の技術を応用して作られた火炎放射器だな。魔界の素材を使えば、生物のみを燃やす炎を作ることができるって聞いたことがある。建物内で炎をまき散らしても平気ってやつか。厄介だなァ」


「榎本さん。相手には手裏剣が効いてません。どうすればいいでしょうか」


「シンニュウシャ、モヤス。コロス」


「とりあえず……逃げるぞ。相手は全身スーツだ。動きも見た感じスーツ全体に相当な重量があるだろうし、動きが鈍くなっているはずだァ」


「はい」

 

 榎本と神木君とネコのぬいぐるみは大男に背を向けて走って逃げた。まあ、しょうがない。私だってあんな化け物がダンジョンにやってきたら嫌だし。


「ニガサナイ」


 ガシンガシンとした音と共に物凄い勢いで大男が追いかける。


「うお、なんて身体能力だ。人間とは思えねェ……まさか、こいつもドーピングを使っているって言うのか?」


「榎本さん! どうしましょう!」


「防御力、スピード。殺傷能力。どれをとっても高すぎる。クソ、計算外だぜェ。相手が悪すぎる」


「シネェ……」


 大男が火炎放射器を榎本たちに向けた。ああ、榎本たちが燃やされちゃう。


「太陽! 魔界樹の木刀を使え!」


 翠華君がなにか叫んでいる。魔界樹の木刀? 炎相手にそれが役に立つって言うの?


「ど、どうやって?」


 ネコのぬいぐるみを通じて翠華君の言葉が太陽君に届いた。


「死ぬ気で木刀を握るんだ。全身の陽の気のエネルギーを送り込むイメージ。気のコントロールができなきゃ死ぬぞ」


「そ、そんなこと言われても陽の気ってなに!?」


 太陽君の言っていることはもっともである。そんなこと急に言われても人間にはわからないと思う。


「太陽! とにかくやってみろォ!」


「ん……わ、わかった! えい!」


 太陽君が木刀を握りしめる。そして、魔界樹の木刀が光り出した。次の瞬間……


「アレ、ホノオ、デナイ」


「ど、どういうことだァ? 太陽。お前なにかしたのか?」


 魔界樹の木刀? その効力は私も知らない。翠華君はこれの効力を知っているみたいだけど、一体なにが起こったんだろう。


「魔界樹の木刀は陽の気を送り込むことで、周囲の環境を魔界と同じように適応させる。つまり、一時的、局所的にではあるが、人間界でもダンジョンと同じく電子機器や機械の作動を阻害させる。あの大男が持っている火炎放射器は、恐らくは魔界の素材と人間界の技術のハイブリットだ。人間界の技術が使えなくなったから、正常に作動しなくなったんだろう」


「へー。なるほど。凄いね。っていうか、ぶっつけ本番でも上手くいくようなもんなんだね」


 まさかの事態に私は関心してしまった。人間は基本的に超常現象を使うことはできないけれど、こうした魔界の素材の補助があればできるもんなんだねえ。


「ナゼ……ナゼ、ホノオ、デナイ!」


 大男がカチカチと火炎放射器を弄っている。この応用性のなさよ。


「今だ! 食らえ!」


 動揺している大男の顔面に神木君が木刀で思いきり叩きつけた。パワーがそんなにない子供でも、木刀で殴られてしまってはかなりの衝撃だと思う。大男はその場でぶっ倒れてしまった。


「ガ……ガガ……ググ……」


「んー。どうやら、魔界樹の木刀でこの全身スーツの防御性能も消えてしまったみたいだなァ。どういう仕組みで防御力が高くなっていたのか。それはオレにもわからんが……とにかく、こいつはもう戦闘不能だァ。やるじゃねえか、太陽」


「へへ……俺でも大人を倒せたんだ」


「さあ、この部屋に入るぞ。情報によるとこの部屋に工場中の機械を管理するプログラムがあるらしい。その機械を物理的にぶっ壊せば、一先ず、最初の任務は完了だ」

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