第32話 ダンジョン拡張計画

「さて、ルネさん。芝 天帝氏のSPの査定が終わりました。彼のSPの額は……」


 ゴクリと私は唾を飲んだ。なぜかもったいぶる篠崎さん。これは、きっと大きい数字なのかなと期待してしまう。


「約8900ポイントです」


「へ?」


「これでルネさんのダンジョンの合計SPは10142ポイントになりました」


 え? この人は何を言っているの。


「いやいや。篠崎さん、それおかしいって。桁間違ってない? 今まで1人倒したとしても数百ポイントだったじゃない」


「ええ。そうですね」


「ダンジョンの週間ランキングで1万ポイント取れば1位取れるレベルなんだよね」


「そうですね。今週の1位は9800ポイントだったので、深緑のダンジョンは2位です」


「たった1人で!?」


「ええ。たった1人でです。それだけ芝 天帝氏を狩った実績を評価されたんですね」


 な、なんだったの。あのお爺さん。確かに異様な強さだったけれど、それでSPが9000弱もあるなんて。


「まあ、ダンジョンではよくあることです。芝 天帝氏みたいな猛者はダンジョンで死ぬことはほとんどないのです。だからこそ、SPが高めに設定されているんですね。さて、ルネさん。どうしますか? このSPを使ってダンジョンを強化しますか?」


「うん。折角お爺さんがくれたSPだもの。有効活用しないとね」


「そうですか。では、目ぼしい強化項目をリストアップしておきました。こちらを参考にして下さい」


〇ダンジョン拡張

 ・第1層拡張……3000SP

 ・第2層拡張……5000SP

 ・第3層拡張……7000SP

 ・ボスフロア拡張……1万SP

 ・第4層追加……4万SP

 ・第5層追加……未開放


〇素材強化

 ・ハーブ栽培効率アップ……800SP

 ・ハーブ香りアップ……100SP

 ・ハーブ効力アップ……2500SP

 ・ワタキセイグモ戦闘力強化……700SP

 ・ワタキセイグモ繁殖力強化……1200SP

 ・死爵イモ栽培効率アップ……2000SP

 ・コウキンコオロギ繁殖力アップ……800SP

 ・トラップ植物繁殖力アップ……500SP

 ・トラップ植物感知範囲拡張……2000SP


〇モンスター強化

 ・花粉耐性付与……700SP

 ・戦闘力アップ……1000SP

 ・知性アップ……900SP

 ・属性攻撃耐性付与……1200SP


〇ガチャ

 ・新規モンスター追加ガチャN……100SP

 ・新規モンスター追加ガチャR……2000SP

 ・新規モンスター追加ガチャSR……5000SP

 ・新規モンスター追加ガチャUR……1万SP

 ・新規素材追加ガチャN……50SP

 ・新規素材追加ガチャR……2200SP

 ・新規素材追加ガチャSR……6000SP

 ・新規素材追加ガチャUR……9500SP


〇その他

 ・側近1人目追加……開放済

 ・側近2人目追加……1万SP

 ・側近3人目追加……未開放

 ・1万円支給……1000SP


「まあ、色々とツッコみたいところはあるけれど……この1万円支給ってなに?」


「ええ。SPを人間界の現金に換えることができます」


「それはどういう理屈なの……」


「それはちょっと汚い大人の話が色々とあるんですよ……そもそもの話、人間界と魔界が色々と条約を締結して表向きでは仲良くやっているていを装えているのも、それはお互いにメリットがあるからなのです」


「メリット……?」


 ちょっと何を言っているのかわからない。


「人間界は魔界のモンスターのために土地を貸している。一見すると人間側にはメリットがないように思えます。しかし、実のところは違います。人間というか、人間の政府は土地を貸した“お礼”として魔界からきんをもらっているのですよ」


「金!?」


 え? 金に一体何の価値があるのかわからない。あんなの加工しづらいし、他の金属と比べて柔らかくて脆いだけじゃないの?


「ええ。魔界では人間の魂を金に変換する錬金術が使えます。しかし、人間界というか、地球には金の埋蔵量に限界があります。なので、金の価格は高騰する一方……ですが、その高騰している状態で全く同じ素材の魔界製の金が紛れ込んだとしたら……その魔界製の金を多く保有している人物、団体が大儲けできるのです」


「ん? どういうこと?」


「ですから、早い話がルネさんがSPを魔界製のきんに変換。魔界がそのきんを欲深い人間に流す。その人間は“お礼”として報酬を渡す。その報酬の一部をルネさんが受けとるという流れです」


「よくわからないけれど、人間界にとって、そのきんは価値があるものなんだ」


「そうです。しかし、急に市場に金を流してしまっては、経済が混乱してしまう。だから、経済に影響が少ない範囲内で金の流通量をちょっとずつ増やしていく。政府が保有している量を全部流通させれば金は値崩れを起こす。その事実を知らない国民は、金を価値のある前提として取引をして、政府はそこから利益をちゅーちゅーする。それが汚い大人のやり方です」


「篠崎さん。それ、私に言ってもいいの?」


「まあ、今のは嘘なんですけどね。本気にしました?」


「え? 嘘?」


「はい。よくある陰謀論ですよ。まあ、なぜかこの陰謀論を吹聴しすぎると消されるといういわくはついていますけどね」


 篠崎さんの目が笑っていない。私は聞いてはいけないことを聞いてしまったのかもしれない。


「ま、まあ。とにかく。私はお金はいらないや。配信で稼げばいいだけだし」


「そうですね。ルネさんみたいに人間界のマネーを稼ぐ手段が持たないモンスターが人間界の物品が欲しい時に利用するものです。収益化しているルネさんにはSPの方が貴重でしょう」


「逆にお金をSPに変換はできないの?」


「残念ながらできません」


 そっか。まあ、篠崎さんが語った陰謀論が本当だとしたら、金の流れは魔界→人間界であって、人間界→魔界ではない。魔界が欲しいのは人間界の土地であってお金じゃないんだ。だから、人間界のお金は魔界にとって価値はほとんどないから変換できないのはしょうがない。


「さて、ルネさん。無駄話はこれくらいにして、そろそろダンジョンの拡張方針は決まりましたか?」


「うん。第1層を拡張しようと思う」


「ほう。それはなぜですか?」


「第3層は元々強いモンスターがいるから強化の必要はないと思う。第2層は花粉耐性持ちの蜂を用意したから、ここも守りが厚い。けれど、第1層はトラップがメインだから、それに引っかかってくれないと完全にただの無駄なフロアになっちゃうよね?」


 なぜか、探索者たちは第1層の罠にかかってくれない。だから、第1層での魂の回収率はかなり悪い。


「そうですね。それに、ダンジョンにおいて第1層は最も人の出入りが激しいところです。ここが厄介なダンジョン程、攻略難易度が高くなりますね」


「どうして高くなるの?」


「例えば、第1層のモンスターが強ければ、単純でそこで死ぬ探索者も多いです。そして、第2層に辿り着いて、命からがら逃げだそうとしても、第1層は帰還する時にも必ず通る。そう、実質探索者は途中で帰還する場合でも2回も第1層の攻略を強いられるのです」


 確かに。篠崎さんの言っていることはもっともすぎる。どうして、それを先に教えてくれなかったのか。


「それに第1層の拡張は、他のフロアに比べたら格安っていうのもあるし……残りのポイントの使い道は後で考えるとして、まずは第1層の拡張が急務かなって」


「はい。私もそのように考えています。良かったです。ルネさんが他の階層を拡張するなんて阿呆なことを言わなくて」


 阿呆……篠崎さんは私のことを何だと思っているんだろう。

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