第33話 ガチャの時間
「とりあえず、第1層の拡張をするとして……第1層の問題点は、モンスターの層の薄さにあると思うの」
「ほう。ルネさんも考えているんですね」
むしろ、ボスモンスターなのに何も考えてないって思われていた方が心外である。
「第1層にいるモンスターは戦闘能力は低いけれど、逃げ足が速いモンスターを配置していて、深追いしてきた探索者を罠にかけて倒すって構造になっているんだよ。つまり、直接戦闘でも探索者を殺しにいくようなモンスターが欲しい!」
「そうなると方法は2つですね。1つ目は、第1層にいるモンスターを強化するためにSPを使う。そして2つ目は、ガチャで新しいモンスターを獲得して第1層に配置する」
ガチャ。確か、SPを消費して引けるんだったよね。基本的にダンジョンにいるモンスターは、魔界から補充されてくる。そして、どのダンジョンにどのモンスターを送るかは予め決まっている。その制限を取っ払うのがガチャである。例えば、私のダンジョンは今はワイバーン種のモンスターを配置することができない。けれど、ガチャでワイバーン種を引き当てることができれば、ワイバーン種を魔界から送ってもらうことでダンジョンに配置できる。
「ガチャは運の要素が強いからね。モンスターとダンジョンとの相性もあるし……」
当たり前だけど、私がいる深緑のダンジョンは緑あふれる自然豊かな場所である。この場所で、火山地帯に住むようなサラマンダーやら、砂漠地帯に住むサソリ種とかを貰っても活かしきれない。
一応、救済措置としてダンジョンと相性が悪いモンスターを引き当てたとしても、そのモンスターの権利を放棄することでSPに変換することができる。まあ、ガチャを引く時に消費するSPに比べたらいくらか減らされてしまうけど。だから、結局ハズレを引かない方が良いんだよね。
ちなみに私がボスモンスターに就任した際は無料でSR相当のガチャを引くことができた。そこで、緑の銃士種を引き当てることができたから、翠華君や青葉ちゃんをこのダンジョンに引き抜けたのだ。銃士種は基本的に上位種だから、貴重な戦力である。
「それではウサギを強化しますか?」
「うーん。元が弱い下位種のモンスターを強化したところで、未強化の上位種には遠く及ばない戦闘力なんだよね」
「しかし、強化を積み重ねれば下位種でも覚醒することもあります」
「その覚醒に至るまでの道のりがね……」
下位種のモンスターは基本的に上位種に比べたら弱い。しかし、SPによる強化を繰り返せば、その種族全体を覚醒させることができる。そうすれば、上位種にも匹敵する強さを得ることができる。上位種はそもそも覚醒しなくても強いので、覚醒という概念はないから、ある意味で下位種の特権とも言える。
「うーん、ここはガチャでイチかバチかの賭けをしよう!」
「ほう。その判断の根拠はなんですか?」
「その方がワクワクしてドキドキするから!」
どうせやるなら面白い方が良い。
「あ。そうだ! 篠崎さん。ガチャの様子を動画に撮ろうよ」
我ながら名案である。人間界にはソシャゲなる文化があり、それのガチャ動画も一定の需要はある。
「はあ、いいんですか? ガチャで引き当てたモンスターが探索者にも公開されますが」
「良いんだよ! 公開しなきゃ撮れ高にならないでしょ!」
「まあ、それは構いませんが……どのガチャを引くんですか? 第1層の拡張分のSPを引くと残りのSPは7000です。消費5000のSRガチャが1回引けますが、他にも強化したいものがあるなら、妥協してRの2000ガチャで抑えることもできます」
「いやいや。しょぼい下位モンスターが出る可能性があるRガチャなんて引いてられないよ。たまにRガチャでも良いのは引ける時があるけど、動画にするんだったら、ここはレア度高い方でしょ!」
女は黙ってSRガチャ! 本音はURガチャも引きたいけれど、流石に1万SPは払えないから、仕方ない。
「わかりました。それでは、第1層の拡張とSRガチャの手配をします。良いモンスターが引けると良いですね」
そんなわけで篠崎さんが動画の準備と第1層拡張とSRモンスターガチャの手配と申請をしてくれた。
「はーい。深緑のダンジョンのボスモンスター。アルラウネのルネだよー! 今日は、なんとモンスターのガチャに挑戦したいと思います! ガチャを引くとソノモンスターがダンジョンに追加されるんだ。まあ、詳しい仕組みとかは教えられないけど、とにかくこのダンジョンに新しい仲間ができるってことは覚えておいてね。あ、みんなにとっては敵かな? それじゃあ、早速ガチャスタート!」
私は篠崎さんから受け取ったタブレット端末を操作してガチャの画面に移動した。画面には【ガチャを回す】と書いてあるボタンがあり、これを押すとSP5000を消費して、モンスターのガチャを引くことができる。
「それじゃあ、行くよ! それ!」
ガチャガチャマシーンからカプセルが出る演出の後に、そのカプセルが割れた。そして、光る演出と共に出てきたのは……
【デビルバニーガール】
「また、ウサギか! ぐぬぬ。第1層に配置するモンスターなのに、なんでこんなうさ耳の女の子の悪魔を引いちゃうの」
デビルバニーガールは戦闘力はそこそこあるけれど、基本的に自由気ままな性格で、自分より上位のモンスターの命令も聞かない傾向にある。戦闘力の面ではクリアしているけれど……ちゃんと第1層で探索者の相手ができるのかな。
しかし、デビルバニーガールは戦闘力的にはアタリの部類。これを放棄してガチャを引き直すのはリスクがある。デビルバニーガール以上のアタリが来るとは限らないし。
「ちなみにデビルバニーガールのビジュアルはこんなだよー」
私はタブレット端末を画面に映した。中々に胸がでかくて際どい恰好のウサミミの悪魔がそこにはいた。
「というわけで、ガチャの結果だけど……どうだったかな? 早ければ来週には魔界から送られてくると思うから。デビルバニーガールに会いたい人は深緑のダンジョンまで遊びに来てね」
ここでガチャ動画は終わった。さて、この動画の反響は……
『デビルバニーガール可愛い』
『ちょっと深緑のダンジョンに行ってくる』
『ルネちゃんでも心動かなかった俺が探索者になる時が来たか』
『ニートやめて探索者になります』
『父さんな。探索者で食っていこうと思うんだ』
「なんなんだよ! このコメントは!」
私はタブレット端末を投げたくなる衝動をなんとか抑えた。
「ルネ様、荒れてますね」
「聞いてよ! 翠華君! 普段は私を可愛いって言ってくれている人たちが! 浮気してるんだ! うわああああん!」
「はあ……そうですか」
視聴者のコメント欄にも腹が立つけれど、翠華君の興味なさげな態度もどうかと思う。
「まあ、それは仕方ないんじゃねえの。だって、バストサイズに格差がありすぎるし」
クジラのぬいぐるみが急に話に入ってきた。こいつは単純に腹立つ!
「な、なによ! 私だってあるんだから! 人間界基準で言えば、Dだよ!」
「でも、デビルバニーガールの平均サイズはGだろ」
「ぐぬぬぬ!」
私よりもランクが低い癖に、ボスモンスターにすら選ばれない種族の癖に! なんで私より胸がでかいんだ! こんなの理不尽すぎる!
「こうなったら、デビルバニーガールを返品してやる!」
「もう、申請しているので無理です。ガチャの放棄は、ダンジョンに配置申請する前ではないと認められませんから」
翠華君が冷静にツッコミを入れる。私は、私よりも巨乳な存在を受け入れるしかないのか。
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