第20話 側近の条件
私は篠崎さんと共にボスフロアを上がり、第3層へとやってきた。側近を選ぶとしたらこの中の精鋭から選ぶしかないかな。第2層の木の精は動けないし、第1層のモンスターは戦力に不安がある。逆に、第3層のモンスターなら戦力的に誰が側近になっても安心感はある。
「はい、みんなー! 集合!」
真っ先に駆けつけてきたのは翠華の銃士だった。第2層との間の階段って1番遠いところにいるのに、なんで早いの。
遅れてくること、やる気のないモンスターたち。近くにいたのに、1番遠いところにいた翠華君より多いってなんなの。
「ルネ様。ごきげんよう。なにか御用でしょうか」
翠華君が片膝をついて挨拶してくる。
「実は、ボスフロアに側近を配置しても良いことになりました! SPを使って解放したんだけどね。だから、これから、ボスフロアの側近を決めたいと思います」
私がそう言うとモンスターたちが一斉にざわつき始めた。それもそのはずだ。側近はボスモンスターに次ぐ権力者だ。貢献次第では魔界に帰れる可能性があるポジションである。
「側近ですか……ふむ」
翠華君がリーフブレイドを手に取って、それを周囲のモンスターたちに向けた。
「な、何をしているの!?」
「ルネ様の側近を務めるのであれば、強さは必要。ならば、この剣で証明するまで」
「仲間割れは禁止!」
「はっ……失礼致しました」
翠華君が剣を収めてくれた。危なかった。側近を決める前に軍勢が削られるところだった。折角のダンジョンの強化なのに、第3層の戦力が削られたら溜まった者じゃない。
「はいはーい。ルネ様ー。ここはあたしがー、側近に立候補したいと思いまーす」
青葉の銃士。通称、青葉ちゃん。銃士一族の女の子で、翠華君の後輩にあたる。真面目な翠華君と違って、ちょっといい加減なところがある。
「青葉がか……? なぜにそのようなことを抜かす」
「だって、ルネ様は女の子でしょー? 一緒にいるなら女同士の方がいいかなって。ほら、男子には言いにくいことや見られたくないものってあるじゃない?」
「え? 別にないよ」
「へ?」
「私は言いにくいことも、見られたくないものもないよ。全然、男子が来てくれても平気だから」
側近は1度決定したら簡単には変更できないので、性別だけで安易に決めたくないというのはある。青葉ちゃんも強いんだけど、翠華君と比べたら見劣りしちゃうし。
「むー。じゃあ、とりあえず、側近やりたい人は立候補で決める方向で良いんじゃないんですか? やりたくない人が無理矢理やったところで、意味ないですしー」
「そうだな。青葉に賛成だ。やる気のない者にルネ様を任せられん。特に青葉。お前」
「な! 翠華先輩ひどいじゃないですかー!」
「はいはい。同族同士で喧嘩しないの。それじゃあ、私が思う側近の条件を言います。それは私の退屈を解消してくれる人です!」
「は……?」
なぜか場の空気が凍った。私は何か変なことを言ったのだろうか?
「戦闘能力とかは……?」
「ああ、そんなの二の次、三の次。側近ともなるとずっと一緒にいるんだよ? 性格が合わない人と四六時中一緒にいるのって苦痛だよね?」
「む……確かに」
「翠華先輩。なんでそこで私を見るんですか」
私に一理あるとわかってもらえたところで、私は篠崎さんにもらったTCGのカードをみんなに見せた。
「私の側近に相応しいかどうかはこのカードで決めることにするよ!」
「カ、カード? な、なんで……?」
みんなが困惑している。そこですかさず篠崎さんが割って入って来た。
「ルネさんは、このカードゲームで遊びたいようなのです。つまり、カードゲームのルールを理解していること。それが最重要条件なのです」
「いやいや。篠崎さん。私たちはこの人間界のカードゲームなんて見たことも聞いたこともない。ルールなんて知るはずがないではないか!」
「翠華様。そのために、私がみな様にルールを説明するのですよ。きちんとしたルールを守って楽しく遊んでくださいね」
そんなこんなで篠崎さんのルール教室が始まった。最低限の知能しかない獣系モンスターはルールを覚えきれずに脱落。似たり寄ったりな知能の昆虫も遊びのルールという概念すら知らずにこれまた脱落。
「結局残ったのは、青葉ちゃんと翠華君だけだね」
「当然です。我々、銃士族は高い知能が持ち味の1つ。人間ごときが作ったルールなど覚えて当然」
「じゃあ、私と対戦して決めようか」
最初に私は青葉ちゃんと対戦することになった。
「よろしくお願いしまーす。ルネ様」
「うん。よろしく」
青葉ちゃんは……強かった。手も足も出なかった。ルールを覚えたての初心者なのに、こんなに強いことってあるの?
「やったー。ルネ様に勝ったー」
「負けた……がっくし」
「次は私ですね」
「うん!」
翠華君は……弱かった。引きはそこまで弱くないけど、プレイングがとにかく雑。駆け引き、パワーカードの使用タイミング。どれもが、腐っていて――
「負けた……流石、ルネ様。お強い」
「ははは。ざまあないですねー! 翠華先輩!」
「よし、翠華君。側近に決定!」
「「は?」」
翠華君と青葉ちゃんが一緒に驚いている。
「な、なんで。勝ったのは私の方なのに」
「青葉ちゃん。私はね……カードゲームをするのが好きなじゃないんだよ。相手に勝つのが好きなんだ! 翠華君の強さは正に丁度良い! 相手していて楽しい!」
「は、はあ……それはどうも」
さっきまで、側近になりたがっていた翠華君なのに、なんか嬉しそうな感じがしないのはなぜだろう。
「ぐぬぬ。結局、最後には接待力が強い方が勝つのか……!」
「ルネさん。翠華の銃士さんを側近登録しますが、よろしいですね?」
「うん。やっちゃってー」
篠崎さんがタブレット端末を操作する。
「完了しました。これより、翠華の銃士さんはボスフロアへの立ち入りが認められるようになりました。おめでとうございます。ルネさんと一緒に探索者からダンジョンを守る最後の砦としてのご活躍をお祈り申し上げます」
「言われなくても、私の剣がルネ様をお守りする!」
「側近に指定されたモンスターは、ダンジョンの不思議な力によって、戦闘能力に補正がかかります。つまり、総合的に見てもダンジョン内の戦力アップにつながると言う訳です」
そうなんだ。知らなかった。篠崎さんはなんでも知ってるなあ。
◇
私は翠華君を連れてボスフロアへと降りた。やっと、1人じゃなくなった。話し相手と遊び仲間がいて助かる。
「ここがルネ様が戦闘なさる場所ですか。なるほど。有事の際は私も全力で戦わせてもらいます」
「うん。期待しているよ。翠華君」
「ところで……このフロアって、この戦闘の間とハーブ庭園とルネ様のお部屋しかないようですが……?」
「ん? なに言ってるの? 私の部屋じゃなくて、私と翠華君の部屋でしょ?」
「なっ! な、何を言いますか! ルネ様! 婚姻を結んでない男女が同じ部屋で……!?」
「大丈夫だよ。私のベッドはクイーンサイズだから、翠華君も寝るのに困らないよ」
翠華君が頭を抱えだした。一体この人は何をしているんだろう。
「な、なりません! ルネ様! 私は、このバトルフィールドで立ったまま寝ます!」
「えー。それじゃあ、私が寝る時寂しいじゃん」
「いくらルネ様の頼みでも、それだけは……それだけは聞けません!」
なんかここまで拒絶されるとかえって傷つく。私って実は嫌われてたりするの……? 翠華君に嫌われてるんだったら、かなりショックなんだけど。でも、1度決まった側近は変えるのは簡単なことじゃない。翠華君には死んでほしくないし、SPも消費したくないから、翠華君に実は嫌われてたとしても一緒に過ごすしかないのかあ。
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