第19話 ダンジョン強化計画

「ふんふふーん」


 私は鼻歌混じりにダンジョンの泉にて水浴びをしていた。なにせ、今週に入ってから魂の回収に成功したからだ。ダンジョンに訪れたのは8人。その内の死亡者数は5人。2層で死んだのが1人。3層で死んだのが4人だ。やはり、3層は強いモンスターで固めているため、死亡者数が多いなあ。翠華君とかかなり強いからね。あの子はボスモンスターとしてもやっていける実力があったけれど、ウチのダンジョンに来てくれた貴重なエースだ。


 水浴びを終えてタオルで体を拭いて服を着る。もうすぐ篠崎さんが来る時間だ。篠崎さん褒めてくれるかな。



「ルネさん。おめでとうございます。ついに魂の回収に成功しましたね」


「うぇへえええっへへへへ。まあ、私の実力ならこんなもんよ」


 私はモンスターだから、人間がどれだけ死のうと関係ないけれど、篠崎さんは同族が死んでどういう気持ちなんだろうか。やっぱり、悲しんだりするのかな?


「篠崎さんは、人間が死んで悲しくならないの?」


「確かに、傷ましい事故で亡くなった方がいれば自分とは無関係でも悲しい気持ちになります。しかし、それはその場限りの綺麗ごとです。私の知らないところで、私の知らない人がこの瞬間にも亡くなっている。けれど、私はその間にも喜んだり笑ったりすることもある。このダンジョンで亡くなった方々も所詮は私にとっては知らない人なのです。覚悟を決めてダンジョンに入った以上はこういうこともありえるのです。彼の死を悼む気持ちはあっても、悲しむ気にはならないですね」


 そういうものなのか。確かに今でも私とは無関係のダンジョンで討伐されているモンスターはいる。けれど、私はそれで一々悲しんでないなあ。そういうものなのか。


 篠崎さんはなにやらタブレット端末を操作している。そして、私のタブレット端末の画面を見せてきた。


「こ、これは……噂に聞くダンジョンのカタログサイト! 実在したんだ……!」


「ええ。ルネさんが魂の回収に成功したので、ようやくこのサイトを使うことができるようになります。魔界に魂を送れば、その魂の質に応じてボスモンスターにSPソウルポイントが付与されます。そのSPを消費して、ダンジョンの改築やら素材の質向上やモンスターの強化などができます」


 要はたくさん人間を倒せば、より人間に対して殺意が高いダンジョンに改造することができるというものである。


「更にSPの累積値が溜まれば、魔界に貢献したとみなされて、魔界の要職に就くこともできます。要職に就く。つまり、魔界に帰れるということです。累積値ですので、SPを消費しても評価が削られることはないので安心してください」


 篠崎さんが丁寧に説明してくれた。最初に私がボスモンスターに就任された時も説明されたけど、改めて説明してくれるのは助かる。こういうのは記憶違いで誤解しちゃうこともあるし。


「そうだね。私が目指すのはこのSPを溜めて魔界に帰ること。うん、この際要職とかどうでもいいから、早く帰りたいよ」


「ええ。私も全力でサポートさせて頂きます。それで、現在溜まっているSPは2122ポイントですね」


 ギリギリ、ゾロ目じゃないのがなんかもやもやする。


「それってどれくらいのことができるの?」


「そうですね。例えば、特定の種族のモンスターに花粉耐性を付けるとしたら700ポイントかかります」


「そんなにかかるの!?」


「はい。なにせ種族全体が強化されるわけですからね。花粉耐性を付ければ第2層にモンスターを配置することも可能です」


 まあ、確かに……第2層は花粉対策さえすれば突破されちゃうから、花粉耐性は欲しいかな。


「今溜まっているSPをフルに使えば、3種類のモンスターに花粉耐性を付与できますね。2層の守りを固めたいなら、オススメです」


「でも、データによると2層で死人が出ているんでしょ? その人はなんで死んだの?」


「はい。剣を持っている状態でくしゃみをしたら、運悪く自分の剣が胴に刺さったみたいです」


「んなアホな……」


 そんな理由で死んだなんて色々とやり切れないと思う。


「まあ、今のところ、2層の守りを固めたいとは思わないかな。特に重要な素材もないし。他にないの? 素材の強化も出来るんでしょ?」


「えーとですね……ハーブの栽培効率上昇は800ポイント。レッドハーブの香り強化は100ポイントですね」


「おお! ハーブは香りが命なのに、100ポイントって安価で強化できるの!? いいじゃん! それにしよっかな?」


 私の神がかった采配になぜか篠崎さんが苦い顔をする。


「ルネさんがそれでいいなら、私は止めませんが……レッドハーブの香りを強化したところで性能が上がるわけではないんですよ」


「でも、ハーブティー飲みたいじゃん」


「まあ、他のを見てから決めましょうか……ダンジョンの改築。1層の拡張は3000ポイント、2層の拡張は5000ポイント、3層の拡張は7000ポイント,ボスフロア拡張が10000ポイントですね」


「たっか。なにそれ、たっか! え? ダンジョンの空間拡張ってそんなにかかるの? ぼったくられてない?」


「基本的にダンジョンは広くて複雑な程、攻略難易度が高くなりますからね。どのボスモンスターも真っ先にこれを目指そうとするのは、自明の理。需要が高い分、消費SPも高くなるのです」


「うへぇ……階層の追加は出来ないの?」


「できますが、40000ポイントかかります」


 聞かなきゃ良かった。どれくらいの人間を殺さないといけないの。


「まあ、できない範囲のことを知ってもしょうがない。現状でできる範囲のことで他に有能なのはないかな?」


「そうですね。ボスフロアに側近を配置できる……というのがあります。こちらは2000ポイントで可能です」


「そ、側近を配置!? え? ってことは、私はボスフロアでぼっちじゃなくなるってこと?」


 特別な条件を満たした時に申請をすればボスフロアにも他のモンスターを配置できる。そう聞いていたけれど……まさか、SPを溜めることで解放されるとは……!


「そうですね。基本的にボスを倒されたらダンジョンは終わりですので、ボス戦の難易度を上げるために、側近を配置するというのは有りですね」


「それしかないじゃない! だって、え? 側近がいてくれたら、話し相手にもなるし、一緒にカードゲームもできるじゃん! 漫画やラノベの感想を語りあったりもできるし、え? これ選ばない理由ある?」


「……まあ、そっちの面でもルネさんにとっては有用ですし、探索者にとってもボス戦で複数相手しないといけないのは辛いものがあるので、有りですね」


 私は身を乗り出した。


「よし! 決めた! それにする!」


「ええ。ただ、申請をする前にどのモンスターを側近にするかを決めなければなりません。側近モンスターは1度申請をすると、条件を満たさない限りは変更することができません」


「条件……? なにそれ」


「条件その1。SPを1000支払うこと。そうすれば、いつでも側近を変更できます」


 ええ……SP取るの……?


「条件その2。側近のモンスターが死亡すること。死んでしまったらそのまま別のモンスターを指名できます。こちらはSPを消費しません」


「良かった。側近が死んでSPも取られたら踏んだり蹴ったりだもんね」


「条件その3。側近のモンスターが魔界に帰った場合……ボスモンスターよりも側近の方が優秀だと魔界側が判断した場合は、ボスモンスターより先に側近の方が魔界の要職に就くことがあり得るそうです。そうなった場合も、側近の枠が空くので、SPの消費なしで別の側近を指名できます」


「ええ……側近に先を越されたら、私が悲しくて死にそうになるんだけど」


「まあ、とにかく。側近は簡単に変更できないので慎重に選んでくださいよ」


「はーい」

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