第6話 魔界の両親
「あぁー……ヒマだー……」
篠崎さんに頼んでいた動画を見終わってしまった。収益化記念動画も旬を逃した感じがあって今更撮影する気にもなれない。なにかヒマつぶしに最適な遊びはないのだろうか。そうだ。花占いでもしよう。私は適当にその辺に生えている草を引き抜いて、花弁を1枚1枚剥がしていく。
「ダンジョンに人が……来る、来ない、来る、来ない、来る、来ない……」
そんなことやっている内に最後の1枚になった。そして私は重要なことに気づいた。
「あれ? 最後の1枚をぶちって引き抜いた時に、どっちの方が適応されるんだろう。抜いた時に宣言した方? それともしてない方?」
なんと、私は花占いのルールを知らないことに気づいてしまった。これは大発見だ。花のモンスターであるアルラウネなのに、花占いについて知らないとは……こんな発見ができるとは、なんでもやってみるものである。
そうこうしている内に私の部屋をノックする音が聞こえた。どうせ、探索者なんて来やしない。また篠崎さんだろう。
「ルネさん。今日も来ましたよ」
ほら、篠崎さんだ。私が知っている唯一の人間。
「篠崎さん。私、ヒマでヒマで死にそうなんだけど」
「はあ……そうですか。そんなことを私に言われても困ります。私にもモンスターのマネージャー業務以外にも仕事はあるので」
この人が人間界でどの程度のポジションかはわからない。けれど、篠崎さんは人間界では若い方って言うし、そこまで上のポジションではないのかもしれない。
「なにかヒマつぶしの道具とかないの?」
「そうですね。次回来るときまでに検討しておきます」
検討ねえ。なんか信用ならない言葉。
「それはそうと、故郷のお父様とお母様より、お手紙を預かっています」
「ええ! 本当!」
私は身を乗り出して、篠崎さんに近づいた。彼は革製のカバンから封筒を取り出して私にくれた。封筒は2つあって、1つはパパの、もう1つはママのだ。まずは、パパの手紙から読もう。
『親愛なるルネへ
人間界のダンジョンでいじめられてないか?
もし、ルネをいじめる人間がいたら、パパが魂をぶっこ抜いてあげるからいつでも言うんだよ。
魔界の我が家の庭に梅の花が咲いたよ。一足早い春の訪れを感じます。ルネのダンジョンの気候はどうかな? 寒くない? 植物は寒さが天敵なので、温かくして過ごしてね。
梅の剪定をするようにルネのダンジョンにやってくる探索者の首を剪定したいな。
どうせ、ルネのダンジョンにやってくる探索者なんて、可愛い可愛いルネを目当てに来るゲスな野郎に決まっている。本当なら悪い虫がつかないようにパパがルネのそばにいてあげたいのに、人間界との条約のせいでルネに会いに行けない。
ルネ。体に気を付けて過ごすんだよ。そして、ルネに色目を使う探索者なんて遠慮なくぶっ殺していいんだからね。
それと、マネージャーの篠崎さんという人は男性だってね。一応、ルネを助けてくれる立場みたいだけど、油断はしないでね。少しでもセクハラだと感じたら、すぐにパパに相談してね。上に掛け合って篠崎の首を物理的に飛ばすから。
早く、くそったれの探索者たちをダンジョンの肥しにしてやってください。ルネに会えるのを楽しみにしてるよ。
ルネのことが大好きなパパより』
「パパ……! 私、がんばるよ!」
私はパパからの手紙を大切に保管することにした。次はママからの手紙を読もう。
『出来の悪い娘ルネへ
全く、あなたという子は。どうして抽選に当たるのかしらね。全く運がない子。そして、運がなければ実力もないようね。もし、私が人間界に行かされたとしても秒で探索者たちを狩り尽くして、すぐに武勲を立てて帰ると言うのに。
あなたは一族の恥です。帰ってくるなら、せめて故郷に錦を飾れるように人間を1000体ほどぶち殺しなさい。私の娘ならばそれができるはずです。
本当なら、人間界に行って一向に帰ってこない不出来な娘を存分に鍛え直してあげたいところだけど、下衆な人間と交わした条約のせいでルネのところに行けないのが歯がゆいね。
まあ、せいぜい、アルラウネ一族の名誉に泥を塗らないようにがんばりなさい。
あなたの運のなさに呆れているママより』
「ママ……! なんて娘想いのいいママなの……!」
「どこがですか!?」
篠崎さんがツッコミを入れてきた。親子のやりとりに口を挟むだなんて無粋だなあ。
「これはママ流の愛情表現なの。ああ、やっぱり、パパとママに会いたいよー。篠崎さん。私もパパとママに手紙を書くから届けて!」
「はい。わかりました。郵送の手続きは私にお任せ下さい」
『親愛なるパパへ
手紙ありがとー。ルネは元気だよー。
パパが心配しているセクハラ探索者は今のところ来てないかな。篠崎さんも今のところは性欲を隠して接してくれているから安心だよ。
私が可愛いから、心配するパパの気持ちもわかるけれど、私は強いから人間相手にいじめられないんだから安心してね。
庭の梅の木見てみたかったな。毎年、パパが育てている梅のジュースを飲むのを楽しみにしてたのに。
梅の実がなる頃には帰れるといいな。それまでになんとか人間たちの魂を回収できるようにがんばるね。
パパのことが大好きなルネより』
『親愛なるママへ
ママからの手紙で私に対する愛情がいっぱい伝わったよ。
私はママみたいに優秀じゃないけれど、それでも、モンスターの中では強い方なんだから安心してね。
実際、私は未だに探索者に負けたことがないの。これも魔界時代にママに鍛えられたお陰だね!
アルラウネ一族の恥にならないように……ううん、誇りになるために私はがんばるよ。
だから、ママも魔界で影ながら応援してね。それと私はちっとも不運なんかじゃないよ。だって、パパとママの間に生まれた世界で1番幸せな娘だもん
ママの娘で良かったルネより』
「よし、書けた。篠崎さん。お願い……中身は見ちゃだめだよ」
「ええ、わかってます。流石に封がされているものは見れませんし」
こうして、私はパパとママに手紙の返事を書いた。2人とも魔界で元気そうでなによりだ。
「そういえば、篠崎さんのパパとママってどんな人なの? ってか、篠崎さんに親っているの?」
「いますよ。私をなんだと思っているんですか」
なんだ。人間もモンスターと同じでパパとママから生まれてくるんだ。
「私の両親ですか。まあ、教育熱心な両親ですよ。私を一流の小学校、中学校、高校、大学に入れるように勉強させて……まあ、彼らのお陰で今の私があるので感謝をしています」
「へー。篠崎さんのパパとママって賢そう」
「いえ、そうでもありません」
「へ?」
「両親はかしこくありません。2人共、受験に失敗しています。だからこそ、私には受験を失敗させたくなかったのでしょう。その分、きっちりと教育されました。親が叶えられなかった夢を子供に託そうとする。まあ、よくある話ですよ」
うーん、なんかピンと来ないな。私のパパとママも上位種の階級で生まれながらにして成功者だから、そういうのはよくわからない。階級で決まらずに努力次第で落ちぶれる可能性がある人間界って大変だなあ。
「ところで、篠崎さんのパパとママの夢ってなんなの?」
「ええ。父は医者に、母は弁護士になるのが夢だったそうです。私は弁護士になり、弟は今、医学部に在籍しています」
「え? 篠崎さんって弁護士で、しかも、弟がいて、医学部在籍なの?」
なんか一気に情報がなだれ込んで来て処理が追い付かない。
「私は弁護士ですよ。人間界と魔界の2つの法曹系の資格を持ってます。ダンジョン内のモンスターが法令に違反しないように誘導、監視をするのも私の仕事です。最初に名刺を渡したじゃないですか」
「あー……全然見てなかったな。えへへ」
「まあ、今の仕事はあんまり法廷に立たずに雑務がメインになってますけどね」
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