第5話

 俺は常に刃物を持ち歩くようになった。彼女が現れたが最後その胸元にこいつを突き立ててやる。狂気にも似た興奮に駆られた俺は逆にあの女を探し始めた。幻でも幽霊でも殺してやる、必ずもう一度あの世に送ってやる。


 彼女は俺の狂気を察知したようだ。俺の視界に入っても必ず距離を取るようになっていた。近くに来ない、俺の間合いに入ってこない。今までは俺を付け狙い、隙を伺い続けていたはずなのに。焦燥にいよいよ俺は正気を失いかけていた。そして何より疲労困憊していた。もうなにもかもなかったことにしたい。こんな生活から解放されたい。何もかもなかったことにしたい。あの女のことなどもう忘れてしまいたい。そんな時、俺は【放念の書庫】を知りついにたどり着いたのであった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る