第4話

 世間は更生した人間に容赦が無かった。住むところすらままならず、飢えに苦しみ窃盗を繰り返した。もちろんすぐに手が後ろに回り、留置所と娑婆を行ったり来たりする生活を送っていた。そんなある日のこと俺は後頭部に突き刺さるような視線に気づいた。振り返るとありえない事態が俺を仰天させた。あの女だ、俺が凌辱して死に追いやったあの女が俺をにらんでいる。人ごみの中から敵愾心に燃えた瞳で俺を凝視している。俺は冷汗を拭いながら駆け出した。馬鹿な、あの女は死んだはずなんだ。恐怖に震える自分に言い聞かせた。


 あの女はその後あちこちに現れるようになっていた。俺の後ろをつけて歩いていたかと思えば、俺が行った先に先回りしていたり、常に俺は彼女の気配に怯えていた。夜に目を瞑れば瞼の裏にあの女が浮かび上がって眠れない。どこに居てもあの女がみているような気がする、いやあの女はどこまでも追ってきている。何故だ。お前はもう死んだのだ。そして俺は罪をしっかりと償った。もう俺にかまう理由はないはずだ。それでもあの女は俺に付きまとい続けた。俺は正気を失いかけていた。道を歩く人の後ろから、柱の陰から、マンホールからでさえ彼女が出てくる気配を感じ、それに恐怖し続ける日々であった。俺はもう限界に達していた。そして結論にも達した。幽霊だろうとなんだろうとやられる前にやってやる。

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