第十四文「周知の事実だった件について」

結局、そのあとさらに小一時間粘って待ってはみたが、着信の気配すらなかったので、さすがに二人してカフェを出ることにした。


夕方解散するまで、同じビルのテナントをぶらぶら見て回ったりした間も、何事もなく時間だけが過ぎ去った。


「まぁ、ねぇ・・・知り合い同士じゃないわけだしー」


「いきなり見知らぬ女から電話来たら、不審に思って様子見るだろうしさー」


「・・・あとで履歴見て引いてなきゃいいけども」


一応、電話が途切れてからも試しに何度も掛けてはみたのだ。

トータルして10回以上は、留守番サービスにつながっては切れている。


見知らぬ勘違い女のストーカー行為だと思われても、不思議はないだろうなー。



そして、翌日。


ランチタイムに部屋を出ると、何か含みのある笑顔でサキコが出迎えた。


「今日はさ、食堂じゃなくて、外行かない?」


「異様に嬉しそうだけど、良い事あった?」


警戒しつつ、尋ねてみると。


「そうねー、まぁ、あったっちゃー、あったかなー♪」


「ふーん・・・もしかして」


「その、『もしかして』だと思うよーん♪」


何か見下ろした言い方でもったいぶるなあ。


その思いが伝わったのか、すぐにこう切り出した。


「ぶっちゃけ、彼から昨日の晩連絡来たんだよねー。そいでさ、会う約束取り付けたから☆」


言いきった彼女は、清々しい笑顔で達成感を満喫していた。


ていうかさ。


何やってくれたんだああああああ。


「ええええええええええ???!!!ちょ!マジ何やってんのお姉さんてばあああああ!!!!」


「ちょっと声大きいからッッ!!」


声を上げる私を制するように腕を強く引くと、足早に通路脇の物陰に引っ張り込んだ。


「だってそもそも会うために連絡しまくってたんでしょーがッ!約束取り付けないでどうするのよ?モッタイナイ!!」


「ええええだってさ」


いや私全然モッタイナクないですから!


「アタシが後悔するわよっ!」


・・・・・・・・。


ああ、そうだった。アナタがエモノをターゲッティングしたんでしたよね。


「・・・・・・まぁ、いいけどさ。頑張って」


ポン。と肩を叩く。


そうそう。よくよく冷静に考えたら、私関係ないわけだ。逢うのは彼女の自由だし。何も一緒に行くとは・・・。


「何ヒトゴトみたいな態度してんの?モチロン、アナタも一緒に行くのよ♪」


「何で?会う約束したのはサキコでしょ?私関係な」


「関係なくなーい!アンタ連れて来るのが逢う条件なんだからッ!顔見知りなんでしょ?協力してくれるわよね★」


今度の笑顔は目が笑っていません怖いですってばああああ。


「顔見知りという訳では・・・・ハイハイ・・・行きますってば」


「さすが!持つべきものは親友よねぇー!」


いや。ただの同僚であり、友人といえば友人だけども、割りとライトな付きあいだったはずで・・・そこまで昇格した覚えはないんですけど。


「・・・まぁ、じゃあ今日はその件についての話しあいをするって訳ね」


観念するか。

まあ。一度顔あわせて親しくなってくれれば、あとは二人でやってくれればいいしさ。


「そうねー・・・あ、そうそう」


「何。これ以上の衝撃的な告白あるんですか?」


「アンタの名前、フルネームで知ってたわよ?」


「え」


えええええええええ。


なんだってええええええええ。


「・・・なんで知ってるんだあのストーカー野郎・・・!!」


あ。ついうっかり心の声が。確信に変わったからかなー??


「うふふー♪何ででしょう?まぁ、アンタも詰めが甘かったってことよねー!」


サキコは勝ち誇ったように、からからと笑いながらそう言った。


「ちょ!教えてってばあああ!」


絶対何か知ってるはずだ。


そう確信めいたものを感じながら、彼女を追い駆けるように階段を駆け下りた。


※現時点での更新はここまでです。今後は新規書下ろしになりますので、更新は未定です。

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つまらない関係 青谷因 @chinamu-aotani

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