第十三文「残念なお知らせです。」

「お。今度は繋がりそうよ覚悟おし♪」


[電話に出られません]を三回ほど流し聞き、ようやく持ち主が応対したらしい。ケータイを手渡される。


サキコは期待でニヤニヤしているんだが、私は緊張で汗が出始めているよ。


―一人の気も知らんで、能天気なやつめええ。


若干恨めしげに一瞥をくれてやりつつ、電話を受け取る。


「もしもし?」


聞き取りにくいほどの小声で、主が応答した。


「あー・・・えーっと」


緊張で言葉に詰まる。ヤバイな、怪しまれるぞ。


不本意だが、繋がってしまったものは仕方が無い。腹をくくって言葉を搾り出す。


「アイハラユキヒロ・・・さんですか?」


メモに書いてある名前を、ぎこちなく読んでしまった。読めないほど汚い文字ではなかったが、走り書きではあるので、正しいかどうかの自信は無いのだ。


「あ、はい・・・そう、ですけど・・・・・・どちらさまでしょうか??」


訝しむような返事だ。

そらそうだわな。

見知らぬケータイ番号からいきなし女性の声で、棒読みよろしく名前呼ばれるんだもんな。


しかしここで困った。


彼は私の名前は知らないのだ。一方的にケータイ番号と名前のメモを押し付けられただけだし、こちらからは一切名乗っていないのだから。

また、お互い単なるカフェ店員とそこの常連客という間柄だけである。そして、特別親しくしていたわけでもない。


―私を証明するものがないじゃないか。


「・・・・・・・・・・」


名乗ったところで、解決するわけでもなく、思わず沈黙してしまった。

ヤバイ・・・ますます不信がられるっつーの。


「えーっと・・・メモもらったので掛けてみたんですが」


「・・・メモ?・・・・・・・・・メモ・・・・・あ!」


お。思い出してくれたかそんな断片的過ぎる情報で。


しかしそのまま、雑音の後にプツっと電話は切れてしまった。


なんだよー期待持たせやがってー。


「・・・切れたよサキコ」


「えええー?!なんで切るのよー!やっぱ対応変だったからじゃないの??」


ケータイを返すと、即座にダメ出しが来た。ていうか何で私が責められないといけないんだ。


「いや、突然プツっと切れたから、電池切れか電波の所為じゃないの?」


「えー!マジでー?!じゃあもう今日は連絡つかないってこと??」


「かなー・・・まぁ、向こうがすごく良い人で気にして掛け直ししてくれれば繋がる可能性はないこともないけどー?」


「・・・うー・・・・それを期待して祈ろう!神様ぁー!」


サキコはケータイを握り締め、机に突っ伏すようにして祈るポーズをとった。


まだしばらく、つき合わされそうだな・・・。

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