第十二文「待ち人来たらず・・・強硬手段☆」

それから一時間ほど、二人でぼんやりと待っていたのだが・・・彼の人と思しき人物が現れる気配はなかった。


「・・・・・・来ないねー」


すっかり空っぽになったドリンクの容器をもてあます。


「んー・・・」


サキコはというと、先ほどからケータイをいじっているばかりだ。


「帰ろうか?」


「えっ?!ダメ!せっかくここまで待ってるんだから、もうちょっと根性出しなさいよー!」


何で私が根性出す必要が・・・つか、つき合わされているのどっちなんだか分らなくなってきたぞ。


「えー・・・もういいじゃん。今日は来ない日なんだよ、きっと」


「あ!」


何か思いついたらしく、サキコがケータイをいじる手が止まり、私に向き直った。


「ねえ、あの紙・・・いま持ってるよね?」


「紙・・・ああ、もしかしてメモのこと?番号と名前の書いてある・・・」


そうそう。突き返そうと思って持って来てたっけ。

ごそごそとポケットを探り当て、取り出したその紙は・・・やはりぐっしゃな折り目がついていた。


「うわー・・・かわいそうな彼・・・じゃなくって、その番号に今から掛けてさ、呼び出さない?」


「え」


ええええええええええ。

なんつー強硬手段を口にするのかこの人は。


「・・・・・・ちょっと無茶すぎないか。つか冒険するなぁ、姉さん」


「いいじゃーん☆名前までご丁寧に書いてあるし、アタシのケータイだから、アンタの個人情報侵害されるわけじゃないしー」


いやいやいや。

何満面の笑顔で詰め寄ってくるんですかお姉さん。


「それって、サキコのリスクが上がるってことなんだけど、いいの?」


「恋には多少のリスクはつき物なのよ☆」


いやいや。私に向かってそんな色っぽくウインクされても何の意味もメリットも有りませんが。


「まぁ・・・さすがに電話はアンタに出てもらうけどさ」


「えええ」


「だってアタシと声のトーン違うしー、誤魔化しきれないかもしれないじゃん?その辺は協力してよねー!」


「うー・・・」


渋る私に、再びサキコが畳み掛けてくる。


「まぁ、大丈夫だと思うよ?」


「何処にそんな自信の根拠があるのさ」


「だってさ、そもそも彼このカフェの店員なんでしょ?接客業の花形じゃん!おかしな人間雇わないと思うんだよねー、まず面接で落とす確率バリ高だと思うし?」


「まぁ・・・そうと言えなくもないけども」


「それにー」


ふふふ、と意味ありげな笑みを浮かべつつ。


「さっきオーダー取ってくれた店員さん、割と渋めのイケメンだったしー・・・あれ店長さんかしら?ここ、なかなか良い趣味してると思うのよねー!」


と言いながら、サキコが再びカウンターに視線を移した。つられて私も見てみる。


「ああ、サキコ好みの男が居る可能性が高いって訳か」


「そゆことー☆」


「あ」


サキコが私の手からメモを取り上げ、ケータイ片手に番号を打ち込み始めた。


まあ・・・いいんだけどね。

確証もなく何度も無駄足で通いつめるより、はるかに効率的だし。


何より、サキコがこの厄介ごとを持って行ってくれるなら、それはそれで万々歳なんだけども。


―この無茶な行動が、吉と出るか凶と出るか・・・


今はひっそり、心の中で祈るしかない。

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