第十一文「勝手な待ち合わせ」

「うわー!ほんと広いねー!こっちの駅で降りることはあっても、本屋って用事無いから寄った事なかったもんねー」


ものめずらしげに全体を見渡し、サキコが感嘆の声を上げた。


「で、例の彼のショップは何処よ?」


「レジの右奥」


「オッケー!いこいこ♪」


ほんま嬉しそうだな。浮かれるサキコとは対照的に、足取り重くカフェのカウンターへ向かった。


あー、なんかやっぱ、感覚違う。


久しぶりに訪れた店内は、雰囲気はそのまま残しつつも、微妙にテーブル配置などが変わっていた。


「返却棚・・・消えたか」


ワンフロアぶち抜きの書店は、とにかく規模が大きく広い。接客や新刊入れ替えなど在庫整理だけでも大変なのに、客が読み漁った書籍の後片付けなんて、とてもじゃないが手が回らないだろうことは、当初から用意に推測できたことだ。


―人件費の問題が多いかと思われるな。


「ホワイトモカラテ、トールで!」


ここはほぼセルフサービスなので、レジカウンターでオーダーを済ませて、商品を受け取ってから好きな席へ座るのだ。早速サキコが注文を決める。即断即決が信条だけに早い。


「向こうのテーブルに行ってるよー!」


あれ。もうドリンクもらったのか。というか、私が注文迷いすぎてる所為だろうな。ワンテンポ以上遅れを取って、ようやく決定。


「ダークチョコレートのソイラテ、ナッツトッピングで」


作るのも手間がかかったらしく、テーブルに着いたときには、サキコのドリンクはほぼなくなりかけていた。


「相変わらず、マイペースねー」


苦笑される。


「マイペースという意味では、サキコもでしょ。お互い自分ペースってことだよ」


「ヘリクツー!アンタ優柔不断なのよー!あ、ところでさ。彼、今日いた?」


そう言いながら、カウンターをキョロキョロと分りやすく物色し始めた。


「あからさまな探し方だな・・・。見る限り、カウンターと店内には見当たらないねー」


カフェを目指したときからちらちら見ていたのだが、らしき人物は見つけられなかった。


「割と身長高い人みたいだから、そういう飛び抜けて目立つ思うんだけど・・・いないっぽいねー。まぁ・・・いつもより一時間くらい早く来てるから、まだ来ていない可能性もあるけど・・・休みの日かもしれないしー」


「えー、折角朝早くからいろいろ気合入れてきたのにー!」


いやそら、そっちの勝手な都合だろ、と密かに突っ込んでおいた。

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