第七文「要らないメモ」

ていうか。


カフェの店員にバッチリ覚えられるくらい通っていたって事だな、私。


しかもそれだけ通っていて、店員の事どころか、店名すら記憶にないってどんだけ社会に興味ないんだろう。そう考えると、ちょっと恥ずかしくなってきた。


ほどよくぬるくなっていたラテを、一息に流し込む。


「あ!」


「はい?」


隣の男が小さく叫んだのに、反射的に振り返ってしまった。


「このあと予定ありますか?」


真っ直ぐ向き直られ、見つめられた。


「まぁ・・・一応」


ない、と言ったら何か面倒なことが起きそうだったので(もう充分面倒になってきていたが)、曖昧に肯定しておいた。


ああ!


この感覚、覚えがある!



―以前あのカフェで遭遇した、変な勧誘っぽいぞ。


「そうですか・・・折角また偶然にも逢えたので、食事でもどうかなって思ったんですけど・・・」



いやいやいやまだ3時過ぎですよ。


もしかして、夕食時までうろうろ何処へ引っ張りまわす気ですかアナタ。


ご飯ご馳走しますよと言いながら、妖しいビルに連れ込まれてお祈りとかさせられるか、外に出た途端、仲間がわらわら何処からともなく湧いて出て囲まれて洗脳されるかも知れない。


過去に似たようなことあったからな、気をつけないとだ。若い男性が声掛けると、ナンパだと思って引っかかりやすいかららしい。あとで友人に笑われましたよっつーの。


とっとと退散しよう。貴重な休日を妖しげな誘惑で台無しにされてたまるか。


「じゃあ、これで―」


「待って!」


そそくさと椅子から立ち上がり、カバンを背負って行こうとしたら、後ろに引っ張られた。


「ちょ・・・何」


振り向くと目の前に紙切れ・・・にしか見えないメモらしきものがチラついた。





名前らしきものと、数字が書いてある。


「・・・・・・・・」


「自分のケータイです。良かったら、連絡ください!」


そんな、爽やかな笑顔で言われても引っかからないぞ。


適当に会釈すると、足早にカフェを出た。







―ちぇ。


小さく舌打ちする。

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