第五文「微妙な再会」

―あったまるなあ。


新作ベリーのラテをすすりながら、ふうう、と息を吐いた。


暦の上では春なんだけど、まだまだ3月は風が冷たくて肌寒い。

マフラーも手袋も手放せない。


―ここの景色も、そんな悪くは無いんだけども。ああ、夜になったら、夜景を楽しむのにはいいのかもしれないな。


窓を向いて設置されているカウンターから、ビルの立ち並ぶ外の景観を見下ろす。


―・・・カップル多いんだろうな。混んでなくても行きづらいな・・・


わざわざ夜に出歩く気もないし、と、ぼそりつぶやく。



変な男に声を掛けられたのは一度きりだったが、あれからしばらく、例のカフェには行かなくなっている。

警戒心が強すぎるのかも知れないが、何となく気持ちがそがれてしまったのだ。


そこで、同じく駅の近くの別棟のビルにある書店に寄り道を変更した。

ここも店舗の奥に、やはりカフェを併設しているのだ。


ただしこっちは、未清算の商品を持ち込み禁止なのだが。


試し読みOKの件のカフェでも、結局購入した本を持ち込んで読んでいたから、自分にとってはあまり関係なかった。




「・・・・・・寒い。」


室内の暖房が効いていないわけではないのだが、窓越しに外の冷気が伝わってくるので、この位置は暖気が相殺されるようだ。


―もうちょっと温かくなったら、一階のオープンカフェに行くんだけどな・・・まだ勇気が出ないな。


歩くと風が頬にまだ刺さる気候だ。身体が冷え切ってしまうことは間違いない。

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