黒と気泡

小さな体格に似合わぬ大きな声で、よく笑う奴だった。

小さな茶色いちゃぶ台の前に座る。ちゃぶ台の上には700mlのコーラが2つ。真っ赤なラベルがついたそれは、この暑さのせいで汗を流していた。じきに温くなってしまうであろうそれを一本手に取る。まだ冷えていて、水滴が手のひらをぐっしょりと濡らした。赤いキャップを右手で掴み左回りに捻ると、ぷしゅ、という小気味いい音があたりに響き渡る。狭い部屋に反響したそれはいっそ哀れに思えた。ぐるぐるとキャップを回し、完全にペットボトルが開く。中の黒色の炭酸を彼は好んで飲んでいた。正直美味しいとも思えないそれを、勢いのままにぐい、とあおる。しゅわしゅわと音がして、パチパチとした刺激が乾いた喉を突き刺す感覚がした。口の中に残る甘ったるさと気泡の弾ける感覚に目眩を覚える。ぷは、と一息ついてペットボトルの中身を見ると、三分の一程減っていた。残るは三分の五。毒々しい黒色とその中に見える透明な泡沫を見ていると、自分は何をやっているのかと思わない訳でもない。けれど、やりたかった。やらなければならないと、思わされてしまった。

あいつが死んだのは、丁度一年前だった。第一発見者は自分。真っ赤な浴槽と、あいつの手のひらに握られた血のついたカッター。何があったのかなんて誰が見ても明白で、けれど理解したくはなかった。

あいつはコーラが好きだった。一日最低一本は飲むらしいそれを、1週間に一度、決まって箱で買っていた。あいつが自殺する三日前、俺があいつの家に突撃したときも、確かコーラを飲んでいた。

『…はぁ?お前、舐めてんの?余裕に決まってるし!』

そう言って爽やかな笑顔を作ったあいつを、愚直に信じてしまったのが馬鹿だったのだと思う。

コーラのキャップをもう一度開け、飲み口に口をつける。そうして無理矢理流し込んだ炭酸の、甘ったるさと刺激感。気味の悪さを覚えた。爽やかとは思えないそれを、あいつは爽やかな飲み物だと形容していた。あいつの笑顔のほうが、よっぽど爽やかで快活で、素敵だったと思うのだけれど。脳裏に浮かぶあいつは赤く塗り潰されていて、今ではもう朧げだった。

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