第15話、崩壊する神域で

 わった、か……

 神を殺した。全てが終わった。そう実感した瞬間、力がけて俺はその場に膝を着いた。あわててシアンとゼンがけ寄ってくる。

「だ、大丈夫ですか?何処か怪我けがでも?」

「いや、大丈夫だ。少しだけつかれただけだから……」

「神を殺す程の力だ、相当な力を消費しょうひしたんだろう」

 そう、俺は今魔力のほとんどがからっぽだった。だが、まだだ。まだ俺にはやるべき事があるんだ。此処ここで魔力を全て使いたしても、やらなければならない事がまだあるんだ。だから……

 そう、自身を叱咤しったして奮い立たせようとした。次の瞬間……

 神域全土を揺るがす地震じしんが起こった。

 いや、違う。これは地震などという程度ていどの話ではない。これは、神域全土が神の不在により崩壊ほうかいし始めているんだ。

 神域がくずれてゆく。崩壊してゆく。その様は、まるでせめてお前達だけはがさないとでも言わんばかりの。神の最後の意趣返しをしめしているかのよう。

「ゼン、シアンをれてさっさと逃げろ」

「っ、そんな⁉シドーも一緒に逃げようよ‼」

 俺の言葉に、ゼンではなくシアンがさけんだ。当然か、その言葉は、半ば以上俺を残して此処から逃げろと言っているようなものだ。

 だけど、それはちがう。

「……お前は、一人だけ犠牲ぎせいになるつもりか?」

「そんなつもりはないさ。俺は、此処でまだやるべき事がある」

「なら、最後にこれだけは言わせてくれ。きろ」

「ああ」

 そう言って、ゼンはシアンを連れてその場を立ちった。最後まで、シアンはゼンの腕の中で抵抗ていこうしていたけど。それでもシアンじゃゼンをりほどく事は出来ないだろうから。きっと、ゼンならシアンをしっかり守ってくれる。

 だから、俺は安心して作業さぎょうに没頭出来る。

「神は殺した。後は、全てを取りもどすだけだ……全てを取り戻し、元の生活に戻ってゆく。それが俺の、俺達の目的もくてきだ」

 俺は、自身の命そのものをやす覚悟で残りの魔力を振り絞る。

 今まで犠牲にしたもの。犠牲になった者達。それ等全てを帳消ちょうけしにして元の生活に戻る為の魔法まほうのようなご都合主義。

 神の奇跡すらも凌駕りょうがする、最強のワード。それこそが、

「『現実改変』起動!」

 崩壊する神域で、俺は最強のデウス・エクス・マキナを起動した。

 ……しかし、物事はそう単純たんじゅんではない。今の俺は、純粋に魔力が足りない。それ故に俺は現在血反吐を吐きながら生命力を燃焼ねんしょうさせ、代用としていた。だが、それでも足りない。このままでは、現実改変する前にいのちが尽きる。

 くっ、このままでは……本当に。

 その時、俺の身体が急激にかるくなった。

『……なら、私が志道を手伝てつだうよ』

「……へ?」

 振り返る。其処には、笑顔で俺の背後に立つオトメの姿すがたがあった。

 何で、どうして……

『呆けているひまは無いよ?ほら、さっさと気合きあいを入れなきゃ。大好きな人が居るんでしょう?その人の許へかえるんでしょう?』

「…………ああ、そうだな」

 そう言って、俺は改めて力を行使する。魔力を振りしぼり、現実改変を行使する。

 そして、改変かいへんの光が神域を包み込む中。俺は最後にオトメと向き合って心の底から本心でのみで言った。

「ありがとう。それからお前を殺して、ごめんなさい」

 その言葉に、オトメは一瞬だけ呆気あっけに取られたような顔をした。その後、涙をその目ににじませて答えた。

『私こそ、ありがとう。ごめんね、志道一人につらい想いを背負せおわせて……』

 そうして、俺とオトメは光にみ込まれた。

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