第6話、ベルフェゴール

 どうして、こんな事になってしまったんだろうか?どうして、俺は何を間違まちがえたんだろうか?分からなかった。何も、分からなかった。

 暗い、暗黒あんこくの空間に俺は立ち尽くしていた。そんな俺に、こえを掛ける者が一人。

「……べつに、お前は何も間違えちゃいないだろう?」

 ……ただ、ゼンと名乗る小僧こぞうが強すぎただけだ。そう呑気のんきな口調で告げる、それは暗黒の空間にそべりながら俺をじっと見ていた。

 黒髪くろかみに黒い瞳、そして頭には二本のじくれた角が、腰からは細長い尾が生えているのが見える。恐らく、俺がさがしていた悪魔の一柱。サタンの同胞だろう。

「お前が、サタンの同胞か?」

「あんな熱血馬鹿ねっけつばかと一緒にしないで欲しいが。まあ良い、俺の名はベルフェゴールという。怠惰たいだを司る悪魔だよ、よろしくな」

 怠惰の悪魔。確かに、この悪魔からは凡そそんなあつい感情とは無縁な感じがした。

 どちらかと言えば、怠惰とかそんなそんなマイナス方面の感じがする。

 ……いや、それよりも。

「俺が間違えていないとは、どういう事だ?俺は確かにゼンに敗北はいぼくした。これ以上ないくらいに無様ぶざまに負けたんだよ。これ以上ないくらいの失敗だろう」

「考え方の相違そういだな。其処まで気負きおう事も無いと俺は思うがね、一度や二度の敗北でお前は折れるような軟弱なんじゃくな男なのか?ま、俺にとってはどうでも良いがね」

「……はぁ」

「それに、あの娘の。シアンと名乗る小娘こむすめはお前の力になりたいようだぞ?所詮本当の意味での幸せなど皆無かいむなのにな。全く、健気けなげな事だぜ」

「……どういう事だよ」

「お前が知る必要ひつようのない話だ。いや、あの小娘の事一切をわすれてのうのうと生きてきたお前には知る必要は無い」

 俺が、忘れている?どういう事だ?

 ズキンと頭がれるようにいたむ。何か、思い出せそうな気がする。しかし、思い出せずに気持きもちが悪い。

 気持ち悪い気持ち悪い。どうしようもなく気持ちが悪い。頭が割れるように痛み、そしてそれでも思い出せずにきそうな程の気持ち悪さが襲う。思わず、口を押さえながら膝をいてしまう程に。

「……どういう、事……だよ?お前は、何を知って……」

「別に、世の中にはらないでのうのうと生きている方がらくな事もあるだろう?」

「だから、俺が何を忘れているって……ぐぅっ」

 暗黒の空間の中、ついに俺は吐いた。気持ちの悪さと割れるような頭痛ずつうに耐え切れず俺は何もない虚空こくうの地面に吐いた。

 そんな俺を、ベルフェゴールはにやにやと笑いながら見ている。

「……やれやれだ。別に其処まで熱くならなくてもいと俺は思うぜ?もっと怠惰たいだにのんびりと行こうぜ」

「そんな、つもり……は……」

「ほんとうにやれやれだ。ま、そんなお前に現実げんじつを見せるのも一興かもな」

 そう言って、ぱちんとベルフェゴールは指をらした。

 瞬間、俺の脳裏のうりに過去の記憶きおくが情報として流れ込んできて……

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