第5話、哀しき決闘と少女の愛

 次元の境界はざまを抜けた先、其処は深いもりの中だった。そして、俺達にとって予想外の人物がち受けていた。

「……ゼン、お前」

「神の命により反逆者シドーを始末しまつしにきた」

 ゼンはそう言うや否や、即座に剣を抜いた。俺はシアンを背にかばい、剣を抜く。

 やはり、こいつとも剣をまじえる必要があるのか?俺はこいつも切らなければいけないのか?そう考えると、心がらいでしまう。

「シドー……」

「大丈夫だ、せめてお前だけでも……」

 逃がす時間はかせぐ。そう言おうとしたが、シアンは首を横にり決意の眼差しを籠めて俺を見詰みつめた。

「いえ、大丈夫です。私も貴方と共に……」

「……………………」

 彼女の決意に、俺は思わず黙り込む。だが、そんなひまなどゼンは与えてくれないらしい。

 ゼンが振るう剣を、俺は切り払うようにけ流した。

「神の名の許にれ、異端者イレギュラー……」

「ゼンっ‼」

 ゼンに必死にびかける。しかし、それでも彼のこころには一切俺の言葉はとどかない。

 俺の声は、届かない。やはり、もう斬るしかないのか?あきらめかけたその時、

「……そんな程度か、志道シドー

「っ⁉」

 ゼンの顔を見る。だが、やはりゼンの顔は無表情。一切の変化へんかは存在しない。

 だが、今の声は確かにゼン本人のこえだった。もしや、本当に?そんな淡い期待きたいをしてしまう、が……

 瞬間、ゼンの剣先けんさきが俺の肩をえぐった。鋭い刺突。

「がっ⁉」

「シドーっ‼」

 ……其処からは一方的だった。斬られ、抉られ、突かれ、殴られ、サタンの力を使おうとそれでも敵わない一方的な蹂躙じゅうりんが其処にあった。

 気付けば、俺は血塗ちまみれで地に伏しゼンが剣先を俺へと向けていた。そんな俺を庇うように、俺とゼンの間にシアンが両手を広げてって入る。

 だが、そんな事などお構いなしにゼンは俺を真っ直ぐにらんでいる。無表情なまま俺を真っ直ぐと睨んでいる。

「ぐっ、ゼン……」

「やはり、その程度か……」

「どう、して…………」

 その言葉に、何も答える事なくゼンはきびすを返した。そのままゼンは消失した。

 俺は、何も出来ない自分自身に絶望ぜつぼうしながらそのまま意識を深い闇にしずめていく。

 意識が暗転する直前、シアンが泣きながら俺の身体をさぶるのを見ながら。

 ・・・ ・・・ ・・・

 シドーが倒れ、目を覚まさないままよるになった。私は自分の無力さを呪いながらそっとシドーの汗をタオルでいている。

 どうして、こうなったのだろうか?私はまた、シドーにたすけられて……

 実の所、私がシドーに助けられたのはオトメという少女から襲撃を受けた時以前からだったりする。シドーはおぼえていないかもしれないけど、実際彼は覚えていなかったけど。私は幼少の頃にシドーとっていた。

 シアン=トリトニス。その名は私の正体を隠す為の偽名ぎめいだ。

 私の本当の名前は凍雲子安いてぐもしあん、凍河原志道の遠縁とおえんに当たる親戚だ。

 幼少の頃、私と志道は家族ぐるみでよくあそんでいた。そこそこ仲が良くふざけて結婚の約束やくそくまでしていたくらいだった。

 しかし、そんな楽しい日々はすぐにわりを告げた。交通事故により私達は病院に緊急搬送された。車が大破たいはする程の事故だった。

 私が最後に見たのは、私を身をていして庇う志道の姿だった。

 志道は、シドーはあの事故で脳にダメージを負い記憶きおくを失った。けど、私は覚えている。あの時のシドーが居たから私はきていられるのだと。あの日、私の代わりにシドーが重傷を負ったのだと。

 だから、今度は私がシドーをすくう番だ。だから……

「ごめん、少しにがいかもしれないけど……」

 以前、街で購入しておいた薬草をせんじた瓶詰の液体。回復薬かいふくやくを彼の口に流し込もうとする。だが、やはりというかシドーはすぐに吐き出した。此処は、私も覚悟を決めた方が良いだろう。

 そう思い、そっと回復薬を口にふくむ。そして……

「……んっ」

 シドーに口移しで飲ませた。私としても、かなりずかしくはある。けど、それでも私はシドーを救いたいのだ。

 シドーが大好きだから。あいしてしまったから。あの日、シドーによって交通事故から救われて以来ずっと……

 けど、再会したシドーは他にきな人が出来ているようだった。幼馴染だというオトメに恋心こいごころを寄せているようだった。あの日、自分の手で愛した女性を討ったのは本音の所はくるしかった筈だ。

 けど、そんな様子は彼は見せなかった。だが、今回もう一人の幼馴染との決闘でそれを認識した。やはり彼は自分をごまかしていたのだ。

 シドーはやさしいのだ。だからこそ、サタンの力を十全に使いこなせずゼンを相手に敗北したのだろう。苦しかった筈だ。かなしかった筈だ。だからこそ、全てをうばった神を許せなかったのだろう。

「だから、今度は私が貴方をまもる。志道……」

 それこそが、私の覚悟。かつて守られた分、今度こそかえしてみせる。

 大好だいすきだよ、シドー。ずっとずっと、貴方だけを愛してる。

 夜の森は冷え込む。だから、これくらいは別にいよね。

 そっと、シドーの身体におおいかぶさるように抱き締める。彼の体温を感じると、きゅっと胸が締め付けられるようにせつなくなるけど。

 それでも、私は……

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