どこかの本屋に
@mia
第1話
世界のどこかに自分だけの本があるという。
その本が置いてある本屋は、どこにあるかは分からない。
世界中の人が自分だけの本を探している。
私は今日から、自分だけの本を探すために会社を休職し旅に出る。
本探しのための休みは一年まで認められている。でも、一年で見つからず、有給休暇を使ったり転職したりする人も多い。
自分だけの本を見つけられる人は八割らしい。二割の人は本に出会えず人生を終える。
自分だけの本は本人だけにしか分からず、他の人が本屋で手に取ったとしてもパラパラとめくるだけでまた戻してしまい購入することはないといわれる。
自分の家の近所にある本屋で見つけた人もいれば、初めての海外旅行先の本屋で見つけた人もいる。
七歳で見つけた人もいれば、八十五歳になって見つけた人もいる。
私は、人生で二度目の海外旅行に来た。
この国に到着して一週間、ホテルを中心に本屋を巡るが見つからない。
ホテルを変えて本屋さん巡りをすると、一ヶ月後に出会った。
期待せずに本屋に入り歩いていると、一冊の本が目に付いた。
その時の喜び嬉しさは、今までに感じたことのないものだった。
人生はこのためにあったと思えるほど、心が震えた。
これが自分だけの本!
本を手に取ろうとした時、ふと現実に帰った。
この本を買ってしまえばこの旅は終わり、家に帰らなければならない。
休みを取ってから二ヶ月も経っていない。急に休みが惜しくなった。
題名をメモしてホテルに戻った。
翌日から名所巡りをしたが、不正な休暇取得が気になる。
本を購入して帰ることにした。
あの本を見ても何も感じない。
メモと本を見比べて、同じなのにあの時感じた自分だけの本という感覚がない。
その本を購入し読んでも、他の本を読むのと同じ感覚でしかない。
その後、どこの本屋へ行ってもあの幸福感はなかった。
これから先、大きな喪失を抱えて生きていかなければならないのか。
どこかの本屋に @mia
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