夜ヒーロー昼フリーター

ねこダルマ3世

序章


満月の夜。とある田舎町で一人の女性が走っていた。

「待って!返して!返して!!」

彼女は上を見ながら、屋根を伝って走っている盗賊を追いかけていた。

「それは、それは!!」

息が切れながらも走る彼女は、足を滑らせてその場に転んでしまった。そして月が雲に隠れると同時にどんどん盗賊が遠くへと逃げ行く。

「誰か…助けて…」

自分の無力さに悔し涙を流しながら小声で助けを呼ぶ。


その時!


「な、なんだてめぇ!?」

と、盗賊が怒鳴り声を響かせる。その声に驚いた彼女は再び盗賊の方を見る。そのとたん盗賊は屋根から勢いよく落ちて地面に

「ズドォン!!」

と大きな音を響かせて叩きつけられた。

何が起こったのか。そんな顔する彼女の前に、一つの影がゆっくりと彼女に近づいてくる。彼女は驚いて立ち上がった。そして、雲に隠れていた月が一つの影に光を指した。

彼女の目に映った者。それは、見たこのない服を着ていた男だった。男はグレー色のソフトフェルトハットを左手で深くかぶり治した後、盗賊が盗んだ物を彼女に渡した。

「お前のか?」

「え?あ!そうです!!」

男は彼女に大きな巾着袋を返した。

「こんな真夜中に、しかもこんな大金を持っていたら盗まれるのは分かるだろう?」

「…分かっては、いました。けど、やっともらえたお給料なんです…。」

「…大切な人に報告をしたかったのかな?」

「え?!なんで!」

「見たところ、君はどこかのお店で働いているような服を着ている。着替える時間がなかったのか、それともその格好でも早く帰りたかったのが想像がつく。そしてこの重みがある袋。相当な硬貨が入っていなければこんなに重くはならない。しかもそれを盗賊が奪った。そう考えれば、その中に入っているのが硬貨である確率が上がる。最後に、君が言ったやっともらえた。相当頑張って働いたんだな。その結果を早く大切な人に見せたかった。だからそう思っただけだ。」

「…ほとんど、当たっています…。」

「うん?」

「私…ずっと親からお小遣いを貰っていたんです…。生活ギリギリの中で、踊り子を目指している私にいつも…。」

「それで、自分の成長した姿と親への感謝を早く見せたかった。と。」

「そうなんです…。」

「だったら、早く行きな。」

「え?」

「俺みたいな奴と話している場合じゃないだろう。」

そう言って男はこの場から去ろうとした時

「あ、あの!!」

「なんだ?」

「あ、ありがとうございます!!えっと、名前は…」

「…ナム。」

「はい?」

「俺の名前だ。」

「は、はぁ…。」

「それじゃ…。」

と、ナムは言い残してこの場を去った。

「あ!!…あの人、もしかして…」

と、彼女は巾着袋をがっしりと握りしめて家と帰った。

彼女が家に帰ると、親はすでに寝ていた。

「ただいま…」

と、テーブルにある一枚のメモを見て、彼女は少しだけうれし涙を流した。

「ありがとう…。」

メモには「頑張るのはいいけど無理はしないでね。あなたはもう大人だって事は私達がよく分かっているから。最愛の娘、ホープへ」


一方で、ホープを助けたナムは…。

「もう時間か…。」と自分の体が少しずつ消えていくことに気づくナイトは、ゆっくりと目を瞑った。

そして目が覚めると、彼は布団の上で寝ていた。

「…朝か…」と六時を指す時計を見て、彼は起きて部屋にあるテレビを付けた。

「今日は…バイトか…。」

彼は古びたパジャマのまま、カーテンを開けてしばらく朝のニュースを見ていた。


【日常】

彼の名前は【平一】。都会に住む一人の男。年齢は二十八歳。フリーターで平日の昼にデパートで働いている。実家暮らしで父親はサラリーマン。母親は専業主婦で写真を撮るのが趣味。ちなみに弟が一人いて今は一人暮らしをしている。

と、家族構成はここまでにして、今は彼の日常を簡単に説明しよう。


朝六時に起きると、彼はまず朝のニュースを見ながら趣味である小説を書いている。

七時になり、彼は朝食を食べながら一階のリビングで朝のドラマを見る。

その後は九時になるまで録画したアニメを見る。その後は着替えてバイト先まで歩いて行く。これは健康のためらしい。

一〇時ぐらいにバイト先に着いた平一は早速働く。主に商品を運ぶ。置く。時に販売。レジ内。休憩。またさっきの繰り返し。こうして8時間働き、家に帰ってくるのは一九時を過ぎる。

家に帰っては風呂を洗ってそのまま入り、夕飯を済ませて自分の部屋に戻る。

戻った後は、趣味である小説を書いてテレビを見て寝る。

こういった日々をいつも彼は過ごしている。

そして寝るときはいつも二十三時を過ぎると自然と眠くなるのだ。

それはなぜか、実は平一は幼い頃に難病におかされていてよく病院に入院することが多かった。その為、いつも二十一時には消灯の強制的に寝かされた。それが身についてしまっているのか、今は二十三時を過ぎると眠ってしまうのだ。


眠りについた平一。

彼はこの日も夢を見た。

「またこの夢か…。」

彼は今グレーの帽子に緑のスカーフを首に巻いて、カウボーイのような服装を着ている。

「ここは…昨日の街だな。」

昨日の街。それは昨夜寝ているときに彼が見ていた夢の場所だ。


「二日連続で同じ夢。小学生以来だな…。」


彼は幼い頃からこの夢を見ていた。そこはRPGのようなファンタジーの世界が広がる夢。彼はそこで、【ナム】と名乗って悪い奴を懲らしめている。

この夢は病院に入院しているときによく見ていて、そこで彼は空を飛んだり、水の上を歩いたりなど子供の頃に出来なかったことを夢の世界で体験をしていた。

そしてカウボーイの夢を見始めたのは中学を卒業してから、ずっとこの夢を時々見ていたのだ。ちなみに同じ夢を二日連続で見たとさっき彼は言ったが、最近では同じ夢を見るときは1年に4回という回数でごくまれに見ていたので、この言葉が出たのだ。


「とりあえず、街中を歩くか。」

と言って彼は街の中を歩き出した。


夢の世界は今日賑やかに街中が盛り上がっている。どうやら祭りの最中らしい。その証拠に、見慣れない屋台がいくつか並んで多くの観光客がそれを買っている姿が見える。


「人間にエルフ…擬人や魔法使いもいるな…」

いろんな種族が祭りを盛り上がっている中、

「あの~すいません。」

と彼に声を掛ける者が現れる。

「はい?」

「見かけない顔だが、旅の方かい?」

「そんなところです。」

「変わった格好をしているけど、あんたは何者なんだい?」

「風来坊ですよ。」

「風来坊?よく分からんが、今日はこの街で一番盛り上がる祭りだ。せっかくだから楽しんで行きなよ。」

「そのつもりですよ。ところで、この街一番…狙撃手が集まる店はありますか?」

「ん?狙撃手だって?ずいぶんと変わったことを聞くんだな…。」

「ここ最近、銃を扱っていないんだ。たまには相棒にも遊ばせないと、鈍っちまうから…。」

「本当に変わった旅人さんだ…。なら、家に来ないか?」

「え?あんたの店かい?」

「あぁ、街一番とは言わないが、あんたみたいな旅人がよく集まって自分の腕前を見せ合うんだ。」

「それはどうしてだい?」

「そりゃ、この街はいろんな奴がいるからな。俺みたいな変わった店を開いているところが多くあってもおかしくはないんだ。」

「いろんな奴か…。それじゃ、言葉に甘えようかな?」

「お、そうかい?じゃ、よっていきな。」

そう言って、ドワークに誘われてナムは彼の店へと来店した。


【披露】

ドワークの店に入ると、そこにはエルフ、魔女、ゴーレム、人間など多くの種族が酒や料理と食べて飲み、その中でギャンブルとしたり楽しくお互いの紹介などをしていた。

ナムはその中で、あまり目立たない席に座る。

「どうだい家の店は?」

「賑やかだな。それに、客が楽しそうだ。」

「この店では口げんかは許すが、暴力とかは受け付けないんだ。」

「それはなぜだい店主?」

「俺の店は初対面でも楽しく過ごすのがモットーの店だからさ。」

「なるほど、いい心がけだ。」

「それで旅人さん。何を食べる?」

「そうだな…店主のおすすめ料理を頼む。」

「おぉっ!初めてなのにいい度胸しているな!よし、分かった!」

店主は大笑いしながら厨房に入っていた。


その後に

「おいあんた!」

とビールを片手に一人の大男がナムの前に座って話しかけた。

「あんたも旅の人か?」

「そんなところだ。」

「へへっ、変わった格好しているな。」

「よく言われる。」

「あんた、ここの祭りは?」

「初めてだけど。」

「そうか、なら、俺と一緒に楽しまないか?」

「すまない、俺は気に入った女の誘いしか乗らないのでね。」

「ほぉ~そりゃいい性格だ!」

上機嫌の大男は、ビールを一気に飲んだ後

「俺は【ドン】だ。あんたは?」

「ナム。」

「ナム?変な名前だな。あんたは商人か?」

「いや、ただの風来坊さ。」

「風来坊?なんだそりゃ?」

「俺の国で言うと…そうだな、ただ風の往くままに旅をしている…まぁ、旅人に似たやつだ。」

「ほぉ~旅人ねぇ~。」

「それより、あんたは?」

「あぁ?俺は、この街の工場長として働いているんだ。」

「工場長?」

「あぁ、ここの街はたまに嵐で建物がすぐに壊れることが多くてな。俺みたいな男どもがいつでも直せるように、こうして体も心も休ませていつでも働けるようにしているんだ。」

「そうか。」

二人は互いの自己紹介をすると

「よっ、兄ちゃんおまたせ!」

店主が料理を運んできた。それは肉を串で刺して油で焼いたステーキのような料理だった。


ナムはその肉を豪快に一口で食べる

「うぉっ!!一口で食べやがった!」

「ははっ!店主、このあんちゃん面白いな!」

「…これは、何の肉だい?」

「あぁ、その肉はそこのドンさんの弟さんから貰った肉だ。」

「俺の弟は肉屋をやっていてな。自分の牧場から育て牛だけじゃなくていろんな所からうまい肉を買っては売っているんだ。」

「なるほど。確かに、うまい肉だ。」

そう言ってナムは肉を食べ続けると

「ところで旅人さん。あんた狙撃手と会って何をしたいんだ?」

「ん?何のことだ店主?」

「あぁ、この旅人さんがね。腕のいい狙撃手がいそうな店はあるかって聞いてな。それで家を紹介したんだけど、目的が分からなくてね。」

「なに、少し的当ての相手を見つけたくてね。」

「的当て?それってなんだい?」

「簡単に言うと、俺か相手で遠くにある的を当てて外すまで交互に打ち合う対決さ。」

「あぁ?そんな単純なゲームをしたくて、この店に来たのか?」

「あぁ、俺が初めて銃を撃つようになったのもさっき話したゲームと出会ってからなんだ。」

「へぇ~そりゃまた変わったことだ!」

「おい店主!せっかくだしその的当てゲーム、お前さんの裏庭でやらせたどうだ?」

「え?いや、それは…」

「俺は構わないぜ旅人さん。」

「え?」

「店の宣伝になりそうだから。それに今は祭りだ。そういうイベントがあった方が盛り上がるってもんだ!」

「いいのかい?」

「おうよ、俺様に任せな!」

「店主、俺も何か手伝おうか?」

「そうだな…よし、ちょっと来てくれ!」

「あんちゃん。ちょっと待っててな。」

「あ、あぁ…」

と、ナムは店主とドンが何かの準備を始めてこの場を後にした。

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夜ヒーロー昼フリーター ねこダルマ3世 @taira2375

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