第12話 ローラの趣味

--あ〜。『生まれる時代を間違えた英雄』って感じねー。あの王子さま。


 女子寮の自室でローラは物思いに耽る。平時と戦時では必要とされる才能は異なる。国を富ませる能力はいかなる時代であっても重要だが、平時にあっては調整力が、戦時にあっては突破力に重点が置かれる。第三王子アレンの才能は戦時のものであり、それに対応した意志の力も備わっているとローラは見ている。


--『第三王子』っていう地位も問題よね〜。埋もれるには地位が高すぎるし、手腕を発揮するには中途半端……。


 アステリア王国には、王位継承権を持つものとして、第一王子アルバート、第二王子ジョン、第三王子アレンがいる。王女も存在するが、王位継承に際して話題に出てこない。


 最有力は第一王子アルバートだ。20年前の『混沌カオス戦争』を目の当たりにし、大賢者ゼニスの薫陶を受けたという。大賢者ゼニスの死に際し、『大賢者ゼニス回顧録』を口述筆記したとも云われている。既に政務にも参加し、実績を挙げている。


 第二王子ジョンにはアルバート程の実績はない。本人もそれを自覚しているようで、アルバートの補佐にまわっている印象を受ける。しかし、自身を担ぎ上げる派閥を保持し、彼らを野放しにしているため、野心がまったくないようには見えない。


 第三王子アレンについては、政務に参加している訳ではなく、実力は未知数ながら、高位貴族の子弟が腹心、婚約者候補として側にいる。アレンの側にいる高位貴族の子弟の親たちは第一王子や第二王子の派閥に属している事が事態を複雑にしている……。


--クラスメイトは第三王子の派閥っぽいから、私やこの娘もあの王子さまの派閥扱いされるのよね。きっと。はぁ〜〜、面倒くさい……。


 ローラは同室になった薔薇色の髪の少女をちらりと見て、小さくため息をつくのだった。


 ◇◆◇

--何やっているんだろう……。話しかけていいのかな?


 フュースは案内された寮の部屋に入るなり、作業を始めたローラを不思議そうに見ている。


 ローラは厚めの木の板を取り出し、羽筆で何かを書き込み、そして道具を使って木を削っている。


 シュッシュ、シュッシュ、シュッシュ……。


 削られていく木が奏でるリズムにフュースはしばらく身を委ねる。そうしてリズムに身を委ねているとローラのため息が聞こえ、目が合ってしまう。


 ローラの表情に特に変化はなく、木を削る作業に戻ってしまう。


--気になる……。


 シュッシュ、シュッシュ、シュッシュ……。


--何か彫ってるみたいだけど……。


 シュッシュ、シュッシュ、シュッシュ……。


--よし! 聞いてみよう!


 フュースはローラに声をかける決心をする。


「ねえ! 何やってるの?」


--声、大きすぎたかな……。


 ローラの肩がビクッと動くのを見てフュースは少し弱気になった。


「…………。オカメよ」


「オカメ?」


--どこかで聞いたような……。


 フュースは旅から帰ってきた『剣姫の郷』の者の話にそのような言葉があったような気がする。


「そう! オカメ! 知らない?

 🎵オカメ オカメ オカメ〜

 🎵オカメをかぶると〜」


--あ! それの続きは! ルイおばさんが歌ってたヤツ!


「♪顔が 顔が 顔が〜

 ♪へいあ〜ん びじ〜ん!」


 ローラの歌に続けてフュースも歌い出す。


 二人で一通り歌った後、ローラが話し出す。


「私の趣味はオカメを彫ったり、眺めたりする事なの! 考え事をする時とか、オカメを彫ると落ち着くのよね〜」


 ローラは上気した顔で話を続ける。


「貴女もオカメを知ってるみたいだし、オカメを部屋に飾っていいよね? 貴女が寝た後に眺めようと思っていたんだけど……。飾る事ができて良かった〜! とりあえず、これを飾るわ! こんな事なら、家にあるオカメ、もっと持って来れば良かった〜!」


 カバンから取り出したオカメ面を胸に、オカメについて語るローラにフュースは、ただただ圧倒されるのだった……。

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