第13話 朝食
--眠い……。
女子寮の食堂で食事を摂りながらフュースは小さく欠伸をする。夜遅くまでオカメについて喋り倒すローラに付き合わされたからだ。
朝、目覚めるとローラのベッドにはオカメ面が飾られ、机の上には彩色前のオカメ面と何かのスケッチが数枚置かれていた。ローラはフュースに喋り倒しながら、オカメ面を作っていたのだ。そして、対するフュースの記憶は途中で途切れてしまっていた。
正面に座るローラを見ると寝る前よりも色ツヤがいい。何かを成し遂げたような表情をしている。
--朝からあんなにチーズ……。
ローラのトレイを見ると、ライ麦パンに程よく溶けたチーズがでいっぱいになった小鍋が置かれている。ローラはパンをちぎって、小鍋のチーズにつけて美味しそうに食べている。
--眠いけど食べよう。昨日は……夕ごはん食べられなかったから……。
昨日、ローラの話がなかなか終わらなかったため、フュースはローラ共々、夕食を食べ損ねたのだった。
◇◆◇
--昨夜はオカメについて話を聞けて良かった〜!
ローラはフュースを見て思った。正確には、そのほとんどをローラが語り倒したのだが……、フュースもオカメについて多少知っていること、更にローラが知らない「般若」の存在を話してしまったため、フュースは「般若」について質問攻めにあい、何枚も「般若」の絵を描かされたのだった。その間にフュースの意識は途切れてしまったのだった……。
正面に座るフュースのトレイを見ると、海魚のフライが何枚も重なっていた。フュースが育った『剣姫の郷』は内陸部にあるため、海魚は珍しいのだ。
--『剣姫の郷』が内陸だから海魚を食べてみたいっていうのは分かるけれど……。朝から揚げ物をあんなに食べるとか、あの細い体のどこに入るの……?
フュースは眠そうにしているが、フライやサラダ、パンはどんどん消えていく。事前に頼まれていたからか、空になった皿を給仕が換えに来る。それをフュースは次々と平らげていく。
「朝からたくさん食べますのね」
「私たちも見習わなければなりませんね」
ローラとフュースに二人の少女が声をかける。ローラたちと同じSSSクラスのマリアンヌとリーシアだ。
「グリドール公爵令嬢、サダナ伯爵令嬢、おはようございます!」
ローラは慌てて立ち上がる。フュースは寝ぼけ眼で朝食を食べ続けている。
「ふぁ……? おはようございます……」
フュースは寝ぼけながらも、一旦食べるのをやめ挨拶をする。
マリアンヌとリーシアは少し呆れながらも挨拶を返す。
--高位貴族の令嬢相手に相手に! あ、眠そうなのは私のせい?
ローラはフュースが眠そうにしている原因が自分にあり、そのせいでフュースが無礼を働くことになった事に思い至る。
「すみません! この子、ちょっと寝不足で!」
ローラはマリアンヌとリーシアに謝罪する。
「そう言えば、お二人は同室でしたものね」
「どんなお話で盛り上がったのかしら?」
マリアンヌとリーシアはフュースが寝ぼけていることに気を悪くした様子もなく、マリアンヌはローラの隣、リーシアはフュースの隣に座り二人について興味深そうに尋ねる。
「……オカメです」
ローラは少し気恥ずかしい気持ちになりながら答える。
「オカメ?」
「確か、外つ国から伝えられた魔を弾く装身具と聞いておりますわ」
オカメについて知らないマリアンヌにリーシアが答える。
「まあ! 魔なるものへの対策についてお話しされているなんて、素晴らしいですわ!」
「そうですわね! 同じクラスの一員として何て喜ばしい!」
--この二人、すごくいい人達なんじゃ……。
ローラは母から聞かされていた貴族とは異なる二人に貴族に対する認識を改める。
--それにしても……このお二人もよく食べるのね……。
ローラはマリアンヌのトレイの大きなハンバーグ、リーシアのトレイのこれまた大きなステーキを見て、令嬢というものについての認識も改めるのだった……。
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