私の愛した本屋たち

ヨシダケイ

本屋の思い出

平成が去って既に4年が過ぎた。


ここ10年で次々と本屋が潰れていると聞くが、ネット販売で簡単に本の取り寄せが可能になったため、それも時代の流れでやむを得ないのかもしれない。


しかし、私が中高生の頃。


仲間とダベるところは、いつも本屋だった。


今から20年以上前。


今のようにAmazonなんか無かった時代には、

本は本屋で買う他なかった。


その上、マニアックな本やマンガは普通の本屋には置いておらず、「作品と出会うきっかけ」は古本屋や大きな本屋に行くしかなかったのである。


当時、中高一貫男子校の中学生だった私は、剣道部だったにも関わらず、放課後、部活をサボっては、仲間たちとよく街をブラブラしていた。


しかし金がない中学生の身分。


喫茶店なんて洒落たとこへ入るのも「金がかかる」からとにかく避けたい。


そこで入り浸ったのが、大きな本屋や古本屋だったのだ。


入店に金が取られるわけでもない。


無料は金のない中学生には何よりの味方である。


剣道部の仲間も私と同じく文化系気質が強かったため、


大きな書店や古本屋でコアな作品を見つけては


「この作品は凄い!」


「この作者はアホすぎる」


「この作品はエロすぎる」


といった無意味で生産性のない、それでいてサイコーの時間を過ごしていた。


思い出すだけでも



白土三平 バッコス

ねこぢる ねこぢるうどん

つげ義春 ねじ式

永井豪 短編集

ふくしま政美 女犯坊

山本康人 打撃天使ルリ

いましろたかし 初期のいましろたかし

新井英樹 愛しのアイリーン

華倫変 カリクラ

吉田ひろゆき Y氏の隣人

みやすのんき ゴルフ19



と出会えたのは、

本屋があったからに他ならない。


読むと何かしら心に想いのようなものを残してくれた珠玉の名作マンガたち。


これら作品に対する敬意や漫画家先生たちへの尊敬はやはりマンガを読むことで生まれた。


決して健全ではなかったかもしれないこれらマンガたちは、様々な作風や表現があることを私に教えてくれた。


これも本屋のおかげであった。


ちなみに当時、私がお世話になり愛した本屋たちは主に三つあった。


①高田馬場 芳林堂


東京は高田馬場駅を降りてビックボックスを右手に正面にデカデカとある古めかしい建物。

その中にあったのが芳林堂である。

(今は規模を縮小し移転してしまったと聞いた)


一階、自動ドアを入ると正面に狭めのエスカレーターがあり、2階が中華料理屋とホビー店があったと記憶している。(この記憶はちと曖昧)


そして、さらに上の階である3階から5階までが芳林堂書店であり、ここは様々な本を取り扱う大きな本屋であった。


特に5階の漫画コーナーはかなりの広さの上に、扱っている漫画が非常にコアなものが多かった。


思春期で、多感な時期の私は剣道部の友人たちとそれらマンガの表紙を見て爆笑したり、購入して本気でどハマりしたりと、文化系気質を大いに育んでもらったのだ。


②池袋 ジュンク堂


池袋東口を降りて右方向にしばらく進むと左方向に見えてくる8階建てのビル。

それがジュンク堂だ。

全ての階がジャンルごとに分けられた本屋であり、令和の現在も人気の化け物本屋である。


地下にマンガコーナーがあり、こちらのコーナーもサブカルコーナーがかなり充実していた。


③名前を忘れた古本屋


こちらは池袋駅東口を降りて左に進みマクドナルドが見えてきたら左折。


細い道があるので、その道を進むと右手に怪しげなソープランドがみてえくるので、そのまま突き進むと、右手に見えてくるビルの一階がその古本屋であった。


ドラマ「池袋ウェストゲートパーク」で出てきていたボウリング場・トキワボウルのすぐ近くにあったと記憶している。


残念ながら名前は忘れてしまった。


こちらは、古本屋だけあってとにかく安く、金のない中学生がマンガを買うには本当にありがたい存在だった。


さらにこの古本屋ではちょっとした思い出がある。


ある時、私がいつものように仲間たちと三人でマンガあさりをしていたところ、どこかの私立の学校の生徒であろう女子中学生三人が入ってきた。


それまでワイワイしていた我々剣道部男子三人は、エロ漫画を手にとっては「これエロくない?」などとのたまってたものの、真面目そうな女の子達が店に入ってきたため、途端にエロ騒ぎを辞めて、新潮文庫コーナーで読みもしないトルストイなんかを物色しはじめたのだった。



しかし、すぐ帰ると思った女子たちもそこそこ長い時間色々な漫画を物色しているため、


「女子帰ってくれないかな。馬鹿騒ぎが出来ないじゃん」


と私は内心思い始めていた。


そんな時である。


突如、女子中学生の一人が別の女子中学生に


「忍たま乱太郎ってエロいよね」


と言うと、言われた女子中学生も笑いながら


「分かる、分かる。エロい」


と言ったのだった。


しばらくした後、女子三人は去っていったものの、店に残された我々男子剣道部三人は困惑するばかりであった。


「おい。乱太郎ってエロいシーンあった?」


「くのいちの女の子いたけど、あれ子どもだろ?いや、そもそも乱太郎にエロいシーンなんてねぇよ」


「じゃあ、なんであの女子は『乱太郎エロい』なんて言ったんだよ?」


「いや、そもそも何で女子が『エロ』なんて言葉使ってんだよ。女子ってエロいの嫌いじゃなかったのか?」


男子校のせいで、同学年の女子がどんなものか全くわからなかった我々三人は、その後、マクドナルドへ行くと「あの女子中学生は何だったのか?」を延々と真剣に語り続けたのだった。


結局答えは出なかったが女子もエロをネタにすることだけは学んだ。


あとで聞い話であるが、「忍たま乱太郎」は、ボーイズラブ系の二次創作がお姉さん方に人気だったらしく、おそらくあの女子中学生はそう言った意味での「エロ」と言ったのだろうと思う。


様々な思い出や作品との出会いを作ってくれた本屋。


時代の流れとはいえ次々に潰れていっているのは何とも寂しい。


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